新潮文庫「小説 MOTHER」企画案(1989.4.27)



[企画趣旨]
 糸井重里氏がシナリオを手がけた話題のファミコン・ロールプレイングゲーム「MOTHER」のノヴェライゼーション。といっても、たんなるファミコン本にはしたくない、という糸井重里氏の意向もあり、原作とは独立して楽しめる、おとな向けの小説となる(シナリオに忠実な、ファミコン・ユーザー向けノヴェライゼーションは、角川文庫から刊行の予定あり。もっとも、くわしいことは未定で、糸井事務所サイドとしては、新潮文庫版をメインで考えたい、とのこと)。
 ファミコンのロール・プレイング・ゲームといえば、トータルで一千万本以上を売り、社会現象ともなった「ドラゴン・クエスト」シリーズがあまりにも有名だが、これは特殊な例外で、高定価商品(ファミコンのROMカセットは平均、五、六千円)ということもあって、五万本売れればヒット、というのが実状。そんな中で、「MOTHER」はファミコン雑誌などでの前人気もきわめて高く、発売元が本家・任天堂であることも手伝って(乱立するソフト・ハウスのゲーム・ソフトに比べて、任天堂作品にはハズレがないといわれている)、すでに五十万本を超える注文がはいっている。秋ごろに発売が予定されている「ドラゴン・クエストIV」までの、ファミコン業界最大の目玉商品である。
 従来、ファミコン関連書籍といえば、こども向けの、いわゆる「攻略本」のたぐいがほとんどだったが、ユーザー層が、大学生や社会人にまで広がっているいま、そうした層をターゲットとするアプローチもじゅうぶんに可能である。新潮文庫版「小説 MOTHER」は、これまでのファミコン・ノヴェライゼーションの枠を大きく超えた、まったく新しい形での、ゲームと小説のドッキングを実現する。

[内容]
「MOTHER」は、基本的には「ドラクエ」タイプのロールプレイング・ゲームだが、従来のものにくらべてイベントが多く、登場するキャラクターの会話のバリエーションが豊富なのが特徴。ストーリー面でも起伏が多く、さまざまな趣向が凝らされている。従来、この種のロール・プレイング・ゲームは、中世を舞台にしていたが、「MOTHER」は、現代のアメリカの話であり、主人公が子どもであるという点が強調され、一種、児童文学的成長物語の味わいがある(雰囲気は、スティーヴン・キング&ピーター・ストラウブの『タリスマン』に似ている)。糸井氏が書いた百枚程度のシナリオがすでにあり、このままでも小説化は可能だが、久美沙織氏の希望もあり、基本的な設定とおおまかな流れを借りる程度になりそう。案としては、ゲームに登場する脇役の女の子の視点から描く、など、現在検討中。
 糸井氏のシナリオの概略は以下の通り。

 主人公の少年ニンテン(キャラクター・ネームはユーザーが登録する。小説版では、当然、べつの名前になります)は、草原の町マザーズ・デイに住む十二歳の男の子。母親キャロル、双子の妹といっしょに平和に暮らしていたが、ある日、異変が起きる。とつぜん一家をポルターガイスト現象がおそいはじめたのだ。おろおろするばかりの母親にかわって、ニンテンは正体不明のこの現象に立ち向かい、なんとかそれを静めることに成功する。だが、町ではゾンビが人間を襲い、サファリ・パークからは動物たちが逃げだしていた。どうやら、さまざまな怪現象の裏には、なにか秘密が隠されているらしい。町に平和をとりもどすため、ニンテンはひとり旅立つのだった……。
 以下、ニンテンは、科学マニアの少年ロイド、超能力を持つ少女アナ、サングラスをかけたリーゼントのツッパリ、テディ、不思議な力を持つ赤ん坊などと仲間になり、立ちはだかる敵を倒しながら、最大の敵が本拠をかまえるホーリー・ローリー・マウンテンへと進んでいく。ついに明らかになった敵の、驚くべき正体とは……。

[著者]
 著者は、ゲーム・サイドの原作者である糸井重里氏に匹敵するビッグ・ネームであること、若く、優秀な書き手であること、相乗効果を期待できる作家であること、ゲームにある程度の知識があること、などを条件に人選し、久美沙織氏のご快諾をいただいた。氏のプロフィールは以下のとおり。
 久美沙織(くみ・さおり):1959年生まれの29歳。氷室冴子と並んで、ヤング・アダルト小説を代表する人気作家。集英社コバルト文庫のドル箱シリーズ〈丘の上のミッキー〉など、三十冊を超える著書があり、初版は十万部以上を刷る。集英社以外では、SFマガジン掲載の短篇を集めた『あけめやみ とじめやみ』(早川書房)、『SPEAK EASYの魚たち』(角川文庫)などがある。
 久美氏自身、ファミコンRPGマニアでもあり、今回の小説化については、たいへん乗り気で、すでにいくつかアイデアも出していただいている。スケジュール的にはかなり厳しいものの、正式に企画が決定すれば、ゴールデン・ウィーク明けから、雑誌などの仕事の合間を縫ってとりかかり、六月末までにアップすることは可能。

[初版]
 糸井重里・久美沙織という、まったく違う分野での第一人者ふたりの顔合わせ、ということ、ファミコン・ソフト「MOTHER」の話題性など、売れる要素はじゅうぶんにあり、最低でも初版十万部は可能。(糸井サイド、任天堂サイドでも、大規模なプロモーション活動が展開される予定。従来のファミコン・ソフト以上に、一般誌で大きくとりあげられることはまちがいない。「新潮文庫初のファミコン関連書籍」という意味での話題性もある)

[発売時期]
 ROMの確保に不安があり、まだ「MOTHER」の発売時期は決定していないが、7月末から8月末、可能性としては、8月中旬になりそう、とのこと。ファミコン・ソフトの場合、本体の売り上げを第一とするため、関連書籍がソフト発売前に刊行されることは通例ありえないので、小説版の刊行は、早くても8月末。なるべくゲーム・ソフト発売直後が望ましいが、久美沙織氏の仕事の進行状況などにより、8月末が不可能なら、9月末にのばすことも考えられる。

[体裁]
 長さは、四百字換算で300枚から400枚程度。ゲーム関係の本文写真、イラスト、もしくは口絵等を入れるかどうかについてはこれから検討したい。

top | link | board | articles | other days