【11月8日(月)】


 風邪が治らなくて死にそうだが、締切は否応なくやってくる。催促電話にどんどん言い訳して三日四日と締切をのばしてもらってると、まるで田中啓文になったような気分だったり。

『ブレア・ウィッチ・プロジェクト完全調書』の見本が到着。なんかあっという間にできちゃったなあ。実働一週間だから当然か。ちなみに、映画を見る前に読んでも、あんまりいいことはありません。いや、これはこれで最初からじっくり読むと、ちゃんとした起承転結があるんですが。
 映画の方は日本語の公式サイトもできてますが、訳語は全然統一されてません。固有名詞表記に関しては、『完全調書』がたぶんいちばん正しいはずなので、ジョッシュ・レオナルドとかマイケル・ウィリアムスとかの避けていただけると幸甚です。ジョシュア・レナード、マイクル・ウィリアムズが正解ね。愛称はそれぞれジョシュとマイク。

 ベアのDarwin's Radioは諸般の事情で11月刊行は無理そう。というか、版元から全然連絡がない(笑)。この分じゃ年内も無理かなあ。催促がないのをいいことにゲラを止めているおれも悪いのだが。




【11月9日(火)〜10日(水)】


 風邪が治ったので必死に原稿を書く。
 本の雑誌別冊の「今年の文庫本ガイド」みたいな本に、「今年出た文庫SFベストテン」を書くんだけど、再刊・復刊も含まれるので、ちょっと調べはじめたらもうたいへんです。ハルキ文庫だけで30冊以上あるし。悩んだあげく決定した99年文庫SFベストテンは、順不同で、

小松左京『日本アパッチ族』(光文社文庫)
E・R・バローズ『火星のプリンセス』(創元SF文庫)
半村良『聖母伝説』(ハルキ文庫)
井上夢人『パワー・オフ』(集英社文庫)
神林長平『ライトジーンの遺産』(ソノラマ文庫)
梅原克文『ソリトンの悪魔』(ソノラマ文庫)
秋山完『ペリペティアの福音』(ソノラマ文庫)
グレッグ・イーガン『宇宙消失』(創元SF文庫)
田中哲弥『やみなべの陰謀』(電撃文庫)
笠井潔『機械じかけの夢』(ちくま学芸文庫)

 の十冊。『バガージマヌパヌス』も《ブギーポップ》も『我が赴くは蒼き大地』も入れられず。第一ハヤカワ文庫が一冊もないではないか。結局、ソノラマとハルキ文庫の活躍が目立った一年、ってことですか。

『このミス』の99年新本格総括原稿は、「浸透と拡散」をキーワードに、ビッグバンとビッグクランチのせめぎ合いという宇宙論路線でまとめる。科学的なつっこみは禁止(笑)。

 さらにアサヒグラフでは、富野ガンダム論。Gundam is a way of life(GIAWOLと略すのが正しい)というギャグを思いついたので、その実例として今野敏『慎治』を引用する。いいのか、そんなことで。
 ちなみに、元ネタは米ファンダム用語の、Fandom is a way of life. これはFIAWOLという省略形で人口に膾炙してます。

 あとは『SIGHT』の三カ月分SF時評。イーガンと藤崎慎吾がメインで、ホラーは『ぼっけえ、きょうてえ』とか。




【11月11日(木)】


 午後2時、ミストラルで《ニュータイプ》の99年総括インタビューを受ける。去年もやったニュータイプ・アカデミーの取材ですね。WOWOWのタイトルが各種ベストテンにほとんど入ってこないので、ネオランガのネの字もないのだった。視聴率のベストとか見せられてもなあ。インタビュアーは昨年同様O地嬢。無駄話で長くなるのが困りものである。

『本の雑誌』本誌の書評用の本をどんどん読む。積み残していたジェイムズ・アラン・ガードナー『ファイナル・ジェンダー』(ハヤカワ文庫SF)の下巻と、猫アンソロジー三冊(『魔猫』『不思議な猫たち』『怪猫鬼譚』)とか。
 さらに、プランニングハウス《ファンタジーの森》叢書、妹尾ゆふ子『魔法の庭』もようやく最初から読みはじめたので、なかなか消化できない。原稿はきっと週明けだな。




【11月12日(金)】


 新潮社K村嬢が送ってくれたフィリップ・プルマン『黄金の羅針盤』を読む。そのむかし某社でリーディングを頼まれた本だったり。純ファンタジーっぽいつくりですが(その意味では、向山貴彦『童話物語』と双璧かも)、じつは意外とSF成分が濃い。マッドサイエンティストの野望と戦う少女、みたいな。多世界解釈あり。
 しかしこの設定で男の子主人公だったらポケモンになったに違いない(笑)。総合的にはよくできた話なので、児童文学系ファンタジーのファンはお見逃しなく。

 それにくらべると『魔法の庭』は純粋ファンタジー一直線で、この手の国産ハイファンタジーでは歴史に残る作品。しかしヤングアダルト成分はほぼゼロなので、けっこう反時代的かも。大森はこの手のハイファンタジーが天敵と言ってもいいくらい苦手なんで、一巻目はどうなることかと思いましたが、二巻目以降はだいじょうぶでした。
 ちなみにNifty会員なら、ほんまるしぇで妹尾作品が購入できます。




【11月13日(土)】


 ガイナックスから『愛のあわわ劇場』のDVD一巻目を拝受。ディレクTVのは全然見てないので凄くうれしいなり。早速梱包を解いて久々にDVDプレーヤー稼働。ガイナックス作品再生専用機かも(笑)
「お留守ばんエビチュ」は異様に出来がいい。三石琴乃のエビチュは、もうこれしか考えられないというぐらいハマってます。カマンベールチーズ食べちゃう話が最高ですね。いや、これは傑作。
 光恵ちゃん原作の『小梅ちゃんが行く!』はやや間延びした感じ。もうちょっと演出で遊んでくれないとつらいのでは。寺島さんの『愛の若草山物語』は、ホーホケキョよりはるかに笑えますね。ほのぼの感もよく出てるし。あと、24Colorsの主題歌がなかなか。
 しかしどうせならワンダフルの枠でやればぴったりなのになあ。惜しい。
 あ、各話つなぎのアイキャッチは水玉螢之丞画伯なので、水玉ファンも必見。

 大石圭の『死者の体温』につづく新作、『処刑列車』を読む。どういうわけか河出から書評用の献本が到着したんですが、帯が茶木則雄推薦でちょっと脱力。購買層を読み違えてるんじゃないでしょうか。売るなら『バトル・ロワイヤル』か村上龍のファン層だと思うんですが。
 内容的には文句なしのIQが高い鬼畜系バイオレンス。でも理由らしきものを書いちゃうのがちょっと弱い。趣味的には前作のほうがよかったかな。しかし思わず拍手を送りたい描写も多々あるので、柳下ページとか読んでる人にはとくにおすすめ。このまま映画にしてほしい。




【11月14日(日)】


 週刊小説の「小説新人賞・傾向と対策」みたいな原稿を13枚で書く。小説の書き方なんてオレに聞かれても知りません。主にワープロ原稿の書き方指導(笑)。

 ハルキ文庫から、竹本健治《パーミリオンのネコ》シリーズの二巻目の解説を受注。翻訳修羅場中にすでに二回、解説依頼を断ってるので、今回は引き受ける。なんか続くなあ。10月は3本も解説書いて、もうしばらくいいと思ったのに。
 と思ったら、ハルキ文庫の別の人から電話がかかってきて、同じ月の別の本の解説を頼まれる(笑)。どうしてハルキ文庫はいつも重なるんでしょうか。しかし来週は京フェスだし、後悔するのはわかってるんで勘弁していただく。

 解説と言えば、日下三蔵はすでに80冊ぐらい解説を書いているらしい。山岸真が『宇宙消失』で100冊めと書いてたから、恐るべきペースですね。大森は、訳者あとがきを除くといわゆる文庫解説は70本ぐらいか。最近は解説一本10万円が相場になりつつあるので、毎月3本解説書けば、それだけで食えるようになるかも。無理か。

 ようやく未読消化が終わったので、本の雑誌の原稿を一気に仕上げる。これでようやく、先週末の宴会ラッシュと風邪で滞っていた受注残を一掃。あとは京フェス前に横溝賞の二次とDarwinのゲラだね。

 Darwinと言えば、先週の日曜日(11月7日)に御茶ノ水女子大の学祭、「徽音祭」に行った話を書くのをすっかり忘れてました。風邪で寝込んだのは帰ってきたあとだってばよ。
 お茶大に出かけたのは、野田令子嬢にDarwinの生物関係不明個所をチェックしてもらうため。茗荷谷駅近くの珈琲館でみっちり3時間かけてレクチャーを受け、ゲラを直したことであった。その節はありがとうございました>のださま。
 考えてみると、翻訳の場合(少なくともぼくのまわりでは)、専門家のチェックを受ける習慣はあたりまえになってるんだけど(物理なら菊池誠氏、数学なら志村弘之とか)、小説でどうしてみんなそういうことをしないんでしょうね。編集者に専門知識があるとはかぎらないから、その筋の権威に読んでもらうのは(アメリカなんかでは)たぶんあたりまえみたいなのに。日本でも奥泉さんとか瀬名さんとかはそうしてるのか。
『カムナビ』だって、だれか外部の専門家に読ませていれば、あそこまで恥ずかしいことにはならなかったと思うのだが。どうせあちこちゲラ送るんだから、チェックを頼めばいいのに。
 という話はともかく、ゲラチェックのあと、お茶大まで足をのばしてSF研の部屋を覗くと、志村弘之や森太郎や林哲矢が黙々と折り紙を折っていたのだった。詳細は林哲矢の雑記参照。
 大森は外で売ってた焼そばを食べ、商売の邪魔をしたお詫びに古本を十冊ほど買って退散しました。


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