【8月28日(土)】


 6時、銀座のライオンで宇宙作家クラブの発足記念(?)ビールパーティ。よく知らない宇宙関係の人々と、よく知ってるSF関係の人々と、野尻掲示板でよく見る人々とか。

 野尻さんはすでにあちこちで仙台エリ自慢をしているらしい――と思ったら、すでにうちの仕事場からモバイルギアでつないで、自分の掲示板に東京滞在記を書き込んでいたんでした。
 森岡さんがけっこう興味を示し、「そうかあ、××の××がまだ決まってないんだよねえ。仙台エリはどうかなあ」とか言って野尻さんをいじめています。やっぱり鬼畜。

 面白いのでどんどんのじりいじりをしているうちにマイクの順番がまわってくる。なんと全員自己紹介だったらしい。宇宙と言ってもよく知らないので、多少は関係がありそうなことをしゃべってんですが、野尻レポートによれば、
 自己紹介のとき大森さんは居心地悪そうに「宇宙SFもいろいろ訳しましたがあんまりハードでないものが多くて……その昔、新潮社にいたころ的川先生の本を担当したことが……」とごにょごにょ言っていました。私は「なぜスリランカでクラークに会ったことを言わない? 言えばスターになれるのに」と思いましたが、きっと大森さんの意識からすっかりワイプされていたのでしょう。
 とのこと。そのとおり、すっかり忘れてました>クラーク。まあクラークって言っても、「近年の科学者作家にくらべれば所詮素人で、現代物理を作品に応用できず法螺を吹くだけの人」((C)野尻抱介)だからな。はっ。これで写真を一枚送らなきゃいけないのか。

 みのうらさんと森岡さんがいたので、「森岡さん森岡さん、みのうらさんは夏コミで星界本出して、星界ネタの小説書いてるんですけど知ってますか」と教えてあげるやさしいわたし。みのうらさんは血相を変えて喜んでいた。
 森岡さんは問題の同人誌の存在を知らず、やっぱりとても喜んでいました。千円までなら出すと言うので、ぼくの買った本を売ってあげたいと思います。なんて親切なわたし。

 一次会は8時にお開きになり、まあ宇宙関係の人は宇宙関係の二次会に行くだろうと思って、比較的宇宙度の低い超光速系宇宙怪獣作家の田中啓文や宇宙開発アニメ会社の武田取締役とぶらぶら歩いてたら、なぜか野尻抱介・森岡浩之両氏までついてきてなぜかマイアミでお茶することに。
 武田さんから、小菅だか巣鴨だかにいる社長に会いにいった長い物語を聞いているうちに9時半になったので、宇宙をあとにしてタクシーで本郷へ。

 またしてもDASACONに遅刻だが、シール一枚ゲットだからよしとしよう。前回DASACON大将の威信にかけても情けない戦いはできないのである。
 大広間では、架空書評対決が準決勝に入ったところ。松本岳志が健闘してましたが、お給仕犬さんとぶつかってあえなく敗退。なにしろ松本書評を支持したのは幻想的掲示板常連組だけだったもんなあ。人望の差というべきか。

 ひきつづいてオークションがスタート。読まない本は買わないとかたく心に誓っている大森は、銀座を歩いて汗だくなので、そのへんの手拭いをひっつかんでとりあえず風呂に入る。をを、本郷の旅館で風呂に入ったのはもしかしたらはじめてかも。だれもいない大浴場はけっこう快適。

 さっぱりしたところで、大広間の片隅ではじまった『書物の帝国』カードゲームに参戦する。
「古本を購入し、理想的な本棚を構築する」という行為をシミュレートしたDASACONオリジナルのゲームなんですが、けっこうよくできてます。コンプリート役、オンリー役のほか、自分の立場(バカSF派、サイバーパンク派、ハードSF派など)に合った本を集めるとポイントが高くなるとか(立場は最初に配られるソウルカードで決まるが、イベントカードで強制変更されることもある)。自分のターンの行動は、山札からのランダムな2ドローもしくは場札と手札の交換。
 バランス的には、コンプリート役、オンリー役が非常につくりにくすぎる反面、「幅広く読みました」役(10冊の本の中で、全9ジャンルを揃えると点数3倍、8ジャンルだと2倍)がつくりやすすぎるのが難点。ソウル変更カードの出現率が高いので、ニューウェーヴやスペオペなど魂に適合したジャンルに絞って集めているとリスクが高いしね。
 全体的にはよくできてますが、トレードの要素を高めるか、クーハンデル的な競りのシステムを導入するともっとスリリングでは。
 1試合めは森太郎指導の組に入り、ドローに恵まれて一勝。2試合めは9種コンプリートを達成した林哲矢指導員に敗退するも、8ジャンル揃いでなぜかシールをもらう。

 オークションが終わったところで午前3時。麻雀メンツに数えられていた溝口くんが、「すいません、『書物の帝国』ゲームを一回どうしてもやりたいんで」と言うので、かわりに麻雀を打つことに。
 浅暮・倉阪両氏に連れられて麻雀部屋に行くと、広い和室に二卓が完璧にセッティングされている。麻雀名人戦の会場でもおかしくない感じ。いやあ、すばらしい。2500円とるだけのことはあるねと言いつつまわりを見わたすと、牌がない(笑)。
 ここから牌がない騒動の開幕。浅暮さんがフロントに電話するも、なにしろ午前3時の日本旅館だから、だれも出ない。一部スタッフといっしょに、牌を求めて旅館中を探索した結果、碁盤やカラオケセットは発掘されたものの牌は見当たらず。
 しょうがないので近所に住んでる柳下に電話をかける。さいわい柳下毅一郎はまだ起きていて、「わかった。押入から発掘して持ってくよ」とのこと。
 でも玄関は鍵がかかってて開けられないんじゃ――という指摘があったので、そんなバカなことはあるまいと施錠状況をチェック。ねじ式の鍵を開けて、出入り可能であることを確認する。
 だがしかし、われわれの前に立ちふさがったのはDASACONスタッフのu-ki総統であった。
「そういうことはやめてほしいんですけど」
「門限過ぎてヒト入れちゃいけないの?」
「この旅館はまだこれから使うかもしれませんし」
「じゃあ牌だけ受けとるのは?」
「だめです」
「どうして? べつに旅館に迷惑かかんないでしょ」
「モラルの問題ですっ」

 モラルと言われては、モラルと縁のない大森は黙るしかない(笑)。しかし黙っていなかったのが織嬢で、Ori's diaryによれば、
「んじゃそこの窓、あんまり高さないからロープつるして受け渡して貰おうよ」と言ったら、主催者の男のコが「何てこと言うんだこのアマ」ってな顔でマジ青くなっていたので諦める。
 というような事態に発展する(笑)。いや、ロープ使わなくても、柳下が自転車の荷台に立てばじゅうぶん手が届いたんですけど。

 しかし結局、トラブルの深刻化を恐れた浅暮さんが、「いや、今回はあきらめましょう。また今度ということで」ととりなし(酔っ払ってるときと全然態度が違うぞ(笑))、柳下毅一郎の運動能力が試されることはなかったんでした。

 それにしても、どうして玄関を開けちゃいけないのかは理解できないところ。門限後、スタッフに鍵を開けてもらって午前2時に外出し、『マトリックス』の先々行オールナイトを見て帰ってきた人もいるというのに、なぜ牌の受け渡しがダメなのでショッカーー。責任ある回答を求めたいところである。求めないけど。

 麻雀部屋で、浅暮さんや倉阪さんとしばらくうだうだ。涼しくて快適。麻雀牌のない麻雀部屋にも不条理な興趣が。しかし、SFへの雪辱を期して今夜の麻雀に賭けていた倉阪さんは(幻想的掲示板で事前にあれだけ盛り上がってたから当然だけど)憤懣やるかたない様子。
「ああ、牌もないのにこんなとこいても腹立つだけやな」と言い放ち、すっくと立って大広間に行って福井健太と将棋を指してぼこぼこにされてましたが、大森はやることがないので三たび『書物の帝国』カードゲームに参戦。二勝目を挙げる。

 その後、山岸真と『宇宙消失』話を少々。冒頭が読みにくいという林哲矢に文句をつけたのは大森です。むしろ読みづらいのは、大ネタが炸裂したあとの後半だと思うけど。ネタのひっぱりかたをまちがってる気がするね。ホワイダニットにすれば『星を継ぐもの』をはるかにしのぐ超巨大スケールのSFミステリとして名を残したはず。でもちまちました話をしつこく書くところがイーガンらしいとも言える。

 明け方になって、大広間の中央で突発的にはじまったのが、「World According to 田中香織」(仮称)。田中香織的観点から世界を再構築する試みである。
 そもそもの出発点は、ファンダム話の最中に出た田中香織のこの質問。
「わたし、みなさんの年齢とか全然よくわからないんですよ。だいたい、大森さんと小浜さんって、京大SF研でどっちが先輩なんですか?」
 太陽はどっちから昇のかにも等しいこの質問に驚愕した周囲が、「では、山岸真と大森 望ではどっちが年上か?」とか、主に相対的な年齢上下関係のイメージを質問しはじめ、田中香織の住む異様な世界の全貌がじょじょに明らかになりはじめたわけである。
 とりえあずオレは、志村さん、堺さんには敬語で呼びかけねばならないことが決定。詳細は、メモを持ち帰った林哲矢が発表するはずなので刮目して待て。
 いちばん面白かったのは、「日下三蔵と風野春樹は同級生」と聞かされたときの、田中香織の茫然とした表情でしたね。現実崩壊感覚ってやつですか。まあ無理もないが。
 あと、「福井健太さんと(鈴木)力さんはおなじにおいがするんですよ。あ、山岸さんもおなじにおいがします」発言も爆笑でしたが、それがどんなにおいかはおそろしくて書けない。いや、べつにおそろしくはないか。

 しかし、さらにおそろしいことに、この異常な世界に住んでいたのは田中香織だけではなかったことが判明する。ファンダム歴がけっこう長いはずの野田令子でさえ、お茶大SF研を一歩出ると、まったく年齢を把握していないのである。
 とりあえず、志村弘之と日下三蔵は、若い女性の目には、だいたい四十歳ぐらいに映ることが判明。顔を知らない人はみんな五十歳ぐらいだと思っている日下三蔵はともかく(顔を見て、「意外と若いんだな。まだ四十ぐらいか」と思うわけである)、志村がそんなにフケ顔だったとはねえ。
 さいとうよしこと水玉螢之丞も、ほぼ同年齢と認識されている模様。

 次々と異世界が構築されているうちにいつのまにかエンディング。DASACON大将レースは、大森と田中香織がシール4枚で並び、決選投票の結果、田中香織が圧倒的な強さで第二回DASACON大将に輝く。
 しかし許せないのが賞品である。タニグチリウイチ提供のDDRフルセットと『書物の帝国』カードゲームひと組だと。3枚目の8インチフロッピーはいりません。と余裕の笑顔を浮かべていたわたしは、足もとからがらがらと現実が崩れ去る感覚を味わい、失意のまま朝陽館本家をあとにしたのである。




【8月29日(日)】


 いつも通りルノワール水道橋店に寄ってから昼ごろ帰宅。3時間ぐらい寝てからふたたびコンベンション。
 ていうか、うちのマンションの親睦イベントでバーベキュー宴会。西瓜割りの手伝いしたり、管理組合の理事長から最近のSF状況について鋭い質問を受けたり、マンション住民としての最低限の勤めを果たしてから(今期はさいとうよしこが理事なのである)、ふたたび家に帰り、新人賞の原稿を読みながら寝る。




【8月30日(月)】


 14時間寝て起きたけど使いものにならない感じ。毎日中学生新聞と小説すばるの原稿をだらだら書く。毎中の今週のネタは『ロケットガール』。最新作は教育上よくない気がするが、一冊目はOKでしょう。次は『バトル・ロワイアル』か。すごく教育的(笑)。




【8月31日(火)】


 ああもう8月も終わりだよ。結局、1カ月で1000枚計画はもろくも挫折。300枚残ってしまった。まあ催促が来ないからいいや。って次の仕事も詰まってるんだけど。これから一週間が勝負だね。
 しかしとりあえず今日はアスキーとゲームウォッチの原稿を書かねばならないのだった。新人賞の原稿は返送したので、あとはスニーカー大賞の締切までひと息。横溝賞は10月半ば締切なので一カ月は無視するしか。しかしこの段ボール四個どこに置けと。

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