【8月6日（金）】
昨日、一昨日とさぼったのでひたすら翻訳。152ページまで。
ちなみにグレッグ・ベアのこの長編、Darwin's Radioというのは、人類進化がテーマ。もっとも導入はウイルスパニック物なので、サイファイの用件は満たしている（笑）。
一種のウイルス進化説なんですが、進化の引き金を引くのは、ヒト内在性レトロウイルス。出現ウイルスの一種と言えなくもないんだろうけど、ＤＮＡの中ではるかな昔から（ヒトがヒトになる前から）眠っていた遺伝子が突如目を覚まし、ヘロデ流感と呼ばれるウィルス性伝染病を引き起こす。妊娠中の女性が感染すると流産することから、Herode's Fluと名づけられるんですが、感染女性は流産の一カ月後、性交渉なしでふたたび妊娠する……。
ウィルス進化で断続平衡な話なので、漸移説な人はむっとするかも。
対策サイドの政府関係者や医療コングロマリット関係者の政治的駆け引きもけっこう書かれてるんで、『日本沈没』のスタイルで語られる『継ぐのは誰か？』みたいな感じ。
流行のミッシングリンク・スリラーとかブロックバスター系ウィルスパニック小説に対するＳＦの側からの回答と言えなくもない。
【8月7日（土）】
２時、新橋の第一ホテル東京。日本ＳＦ新人賞関連の集まり。笠井さんと「ヤオイ」問題（ＨＭＭ最新号参照）について意見交換。やおいの原点がキャラ萌えだというのはまあそのとおりかもしれないし、《妖怪》シリーズや《犀川・西之園》シリーズがキャラクター小説的な側面を持ってるっていうのもまちがいないんだけど、やおいのツボはたぶんそこにはないでしょう。
「そこにはないものを見る」っていうのが基本だと思うけど。
新橋の喫茶店で６時ぐらいまでお茶飲んでから馬場にまわってユタ。家に帰って新刊を読む。
浅暮三文『カニスの血を嗣ぐ』（講談社ノベルス）は嗅覚ハードボイルド。ちょっとミステリの形式に気をつかいすぎではないかという気がしますが、においのディテールをひたすらしつこく描くことで異世界を浮かび上がらせるという手法はおもしろい。ある意味で、『偏執の芳香』と好対照かも。
読んでも読んでも面白くならないのがブリンの『グローリー・シーズン』（ハヤカワ文庫ＳＦ））。イアン・ワトスンが『川の書』であれだけ書けたのに。向いてないとしか言いようがない。それにしても、セル・オートマトンが「セル・オートメーション」だったり「セル自動装置」だったりするこの翻訳はどうか。細美遙子訳ならもうちょっと読めたかも。
Ｊ・Ｐ・ホーガン『仮想空間計画』は、ディテールをきっちり抑えながら随所にギャグをちりばめた、ホーガンらしい人を食ったようなＳＦ。最近のバーチャルＳＦ映画の副読本にはうってつけでしょう。
【8月8日（日）】
二日遅れの工期を正常化すべくひたすら翻訳。
【8月9日（月）】
毎日中学生新聞とインターネットアスキーの原稿を送り、本の雑誌の書評を書く。
翻訳は170ページまで。ほかに仕事がなきゃ一日10ページは楽なんだけどなあ。しかし仕事の読書は終わったので一安心。
というわけで、殊能将之『ハサミ男』をやっと読みはじめ……ようと思ってページを開いて仰天。この献辞はなに。もしかして著者はオレの知ってる人ですか。
と、あわてて著者紹介と内容紹介をチェックする。これはどう見てもあの人ではないか。この時点で、犯人当てじゃなくて作者当て小説になってしまいましたが、暴走するＳＦネタでほぼ確信。もう四、五年会ってなくて、どこでどうしてるかと思ってたんだけど、いやそうですか。
小説のほうは、仕掛けがやや新本格に寄りすぎてるのをべつにすれば、非常に彼らしい話づくりで楽しく読める。Ｕ山さんが喜んだのもよくわかるっていうか。設定が『死者の体温』にちょっと似てるのが惜しいけど、サイコパズラー（(C)法月綸太郎）としてはたいへんポイントが高い。今年の国産ミステリベストテンには入りそう。
【8月10日（火）】
ＳＦインターセクション朝松健インタビューのまとめ。
北川歩実『透明な一日』は、逆『七回死んだ男』――と要約するのはあんまりか。おなじ一日をひたすらくりかえしている健忘症の男をめぐるパズラー。明かされる真相は北川歩実的すぎた気がしますが、結末は意表をつかれました。
【8月11日（水）〜13日（金）】
今週締切の――というか、今週中に書かないといけない――原稿は存在しないので、一日15ページから20ページのペースでキーボードをたたく。休んだのは明徳義塾の一回戦ぐらい（笑）。いや、高校野球は嫌いなんだけど、島村洋子さんの旦那さんの出身校ですからね。違うか。
一日12時間労働の甲斐あって、これでようやく半分を越えました。しかしあと200ページ。めんどくさいところをどんどんすっとばしてるので、決定稿つくるのもたいへんだろうなあ。
週末はコミケなのでたぶん仕事はお休み。