【5月1日(土)】


 馬場に行く途中、早稲田で降りて寺島令子さんちに寄り、2カ月前から預けたっきりになってたUrza's Legacy3箱を受けとる。
 連休中なので五十嵐代表も在宅。
「最近のデッキを試してみますか?」と、凶悪なエンチャント系デッキをわたされる。エンチャントをつけたりはずしたりしてマナがあるだけ強化してからトランプルで殴るやつ。ウルザ以降のカードを全然知らないのでよくわかりませんが、なんかたいへんなことになってますね。クリーチャー数だけマナが出るとか、詐欺くさいなり。

 箱を抱えてユタに赴き、SagaのスターターとLegacyのブースターで三村美衣とシールド戦。一勝一敗後、柳下がやってきたので交替する。柳下は『ユー・ガット・メール』に一言ゆわせてもらいたいらしい。いや、あの映画は「やっぱり大資本には勝てない」ってのがポイントでしょう。
 しかし、大資本のたいしてやる気のない中規模店舗が出店してきても、やる気のある地元書店は影響を受けない――ことは西葛西の書店状況が証明しているわけで。

 SFセミナー前日だが、全然そんな気がしないのはなぜ――と考えて、水鏡子師匠がいないからだという事実に気づく。前日に水鏡子がいないのは、オレのSFセミナー参加歴史上初めてかも。こうやって時代は変わってゆくんだなあ。って違うか。
 ちなみに水鏡子は、本来29日から東京にずっと滞在する気だったらしいけど、人事異動の結果、そういうムタイな行動は不可能になった模様。めでたしめでたし。




【5月2日(日)】


 午前9時半、さわやかに目を覚まし、SFセミナー会場の全逓会館へ。

 文庫編集者座談会がすでに始まってたので、満員の客席に潜り込んで見物。高橋良平のたんたんとした司会ぶりは、すでに枯れた芸の域に達している。コンベンション初参加の村松氏@ハルキ文庫は、「質問されたことに誠実に答える」という真面目な態度。
 小浜くんはあいかわらずの早口で、素人観客置いてきぼりな感じ。このパネルのポイントは、名作SF(とくに翻訳物)に関して、「意図的に在庫切れ期間をつくる」という営業戦略が一般化しつつあるってことですね。売れ筋以外のバックリストを常時在庫する(書店注文があればいつでも出荷できる体制を維持する)より、5年おきとかに復刊して配本するほうが有利だと。
 とはいえ、初刊時にある程度売れた実績がないと復刊対象にならないんで、評価が高いものがかならず復活するとはかぎりませんが、目録から落ちたからといって激しく怒ったり落胆したりする必要もないかも。
 初版分をすばやく売り切ってあっという間に目録落ちしたタイトルに関しては復刊可能性が高いとか。ま、バックリストの有効活用については、当然、版元がいちばん真剣に考えてるわけで。

 昼休みは編集者組と近所の中華料理屋でランチ。村松さんとか金子さん@扶桑社などと、最近の出版業界について。
 今日のパネルは、「角川春樹社長をゲストに呼ぶ」というプランを強硬に主張したんだけど、スタッフから却下された経緯があったり(パネルの趣旨が変わってしまうっていうのはその通りなんだけど)。
「角川春樹、日本のSF出版を語る」って、いい企画だと思うけどなあ。ハルキ文庫のSF路線がまだつづいてたら、来年のセミナーにどうですか。いや、SF大会でもいいけど。

 午後イチの企画は「スペースオペラ・ルネッサンス」。
 日本でヒロイック型のスペオペが生き残ってる理由は簡単で、アニメのおかげでしょう。キャラの魅力でひっぱるタイプなら、スケールが小さくてもOK。
 大宮さん的な読み方は、《星界》シリーズなんかについてはじつはけっこう有効だと思ってて、森岡さんも大宮説に合わせる努力をしてましたが、なにしろ出てくる固有名詞がいちいち別世界なので、コミュニケーションは成立しにくい。三井家・幕藩体制・オスマントルコ・ベネチア都市貴族……とか、設定の話は面白かったんで、星間帝国の政治に話題を絞ったほうがよかったかも。

 つづいては神林インタビュー。まだ新刊読んでないのと、SFM再録予定があるってことで、最初のほうをしばらく見ただけでロビーに出て、中野善夫とか、めったに会わない人と久闊を叙す作業に従事。ま、「機械と猫の違いについて」というテーマの名セリフ(「機械はすべてかわいいわけではないが、猫はすべてかわいい」)はしっかり聞いたのでよしとするなり。

 そのうち篠田さんがやってきたので、控え室で挨拶。今日は下ネタを封印するらしい(笑)。しかし篠田節子の暴走がはじまったら、はたして山岸真に制御できるのか。なんか綿密にうち合わせしてた模様だが……。
 と思っていたら、企画がはじまるなり発動する篠田節子。いきなりすっくと立ち上がり、ホワイトボードに図を描きはじめる。
 十年前に舗装されたアスファルト道路の下から死体が見つかる。検屍の結果、被害者は三カ月前に死んだものと判明する……。
 ってべつに図なんか描かなくていいじゃん。
 と思いつつぼんやり聞いていると、「この問題はミステリの人に答えてもらいましょう。でもここはSFセミナーですからミステリの人はいないでしょうね。それではミステリの書評も書いてる大森さん。大森! 大森ぃ!
 いやだからそれは人選ミスでしょう。せめて日下三蔵とか。福井健太もいたのに。
 だいたいわたしは本格ミステリもSFの読み方で読んでいるので(解決でびっくりさせてくれればOK)、日常的で合理的な解決は思いつかないのである。
 というわけで、「マントル対流に乗って死体が流れてきた」というSFバカな回答を披露する。
篠田「それじゃミステリにならないでしょう。そんなこと言ってるとミステリ評論家クビになるよ」
大森「いや、新本格はこれでいいんです。清涼院流水ならマントル対流で短編一本書きますよ」
 とその場では答えたが、オレの新本格理解がまちがっていると言われてもしかたあるまい。いや、このとき念頭にあったのは、竹本健治の「メニエル氏病」なんですが。

 しかし、回答を終えてから、もっとスマートな解決があったことに気づく。
「地球の裏側の人が深い穴を掘って捨てた」
 失敗したなあ、こっちのほうがよかったなあと言ってたら、冬樹蛉に、「死体の落下はそこでは止まらないのでは」とつっこまれる。それ以前に火葬になってる気も。

 ちなみに篠田節子の考えた「地底人はお墓を上向きに掘る」説も秀逸で、地球空洞説と併用すれば完璧かも。
 山岸真はすかさず、小松左京の「骨」を引き合いに出し、篠田さんの思考回路はSFの王道に合致していると主張してましたが、聴衆にも篠田さんにもあまり理解されなかったらしいのは残念。まあ「逆向き」ってとこしか合ってないからな。いや、「骨」はSFホラーの傑作ですが。
 そうそう、バリントン・ベイリー『時間衝突』なら、「死体は未来の地球人で、時間が逆向きに流れている」ってので正解ですね。『時間衝突』冒頭の遺跡がアスファルト道路の下に埋まってたと思えばおなじ状況だ。

 篠田さんは声・姿と話す内容のギャップが激しいので、いちいちウケてました。ほんとは直木賞受賞の前(『斎藤家の核弾頭』が出たとき)にSFインターセクションのゲストにお呼びしたいとゆってたんですが……。
 しかし『夏の災厄』と『弥勒』が話題の中心だったのは山岸の趣味か。むしろ『聖域』『神鳥』を軸に、SFとホラーの境界領域の話を聞きたかった気もするが、それだと合宿のホラー企画にうまくつながったのになあという以上の意味はあまりないかも。

『弥勒』がはたしてSFなのか、っていうのはわりと本質的な問題で、もちろんSFとして読む理屈はちゃんとあるんだけど、オレの中では、『鉄鼠の檻』と同様、SFのテーマをミステリの手法で書いた小説、という位置づけ。どっちも『闇の左手』の変奏曲。
 でもそういうことを公言すると、「よくわからない理屈でなんでもSFに入れちゃう人」になってしまうので。

 あと、『斎藤家の核弾頭』と『パパの原発』の関係(あるいは筒井康隆との関係)は突っ込んでほしかったところでした。


 昼の企画終了後は、地元民・柳下毅一郎の先導でぞろぞろ歩き、春日駅そばの焼肉屋《玄武》になだれこむ。一皿390円オールとバカ安でうまい。出てくる皿をかたっぱしから平らげているうちに、はっと気づくと7時をまわっている。しまった、ホラーな人たちをふたき旅館で出迎えるはずだったのに。

 三村美衣といっしょにあわてて焼肉屋を出て合宿所へ。すでにオープニングの企画紹介ははじまってて、ホラー企画の紹介は倉阪さんがすませてくださっていたことでした。いや申し訳ない。
 しかし恒例の来場者紹介で、小浜徹也がオレを紹介しなかったという事実は記録にとどめておこう(笑)。せっかく『リメイク』の宣伝をしようと思ったのに(うそ)。

 オープニング後はすばやく企画に突入。『スター・ウォーズ』部屋は添野にまかせたはず……だったがあまり頼りにならないことが判明する。どうしてビデオの頭出しをしておきませんか?
 だいたいわたしはエピソード1のことはなるべく情報を入れないように努力しているのでなんにも知らないのである。なにを質問すればいいのかもよくわからなかったり。
 と思ったが、渡辺麻紀のやおい魂・ショタ魂が炸裂したので安心。微妙な距離を置いた高橋良平との掛け合いもすばらしくいい味出してました。
 会場からもずいぶん質問が飛んでたし、だれも見てない映画の企画としては、まあうまくいったんじゃないでしょうか。とりあえず、渡辺麻紀SFイベント初登場ってだけで意義はあったというべきか。

 つづいては、東雅夫・倉阪鬼一郎・中島晶也・笹川吉晴と、幻想文学掲示板でおなじみの人々を迎えてのホラー企画。
 SF・ホラー・ファンタジー・ミステリのジャンル境界をはっきりさせよう……という趣旨だったんですが、ホラーな人の「こう読めばホラー」な理屈を聞けたのが収穫。  構造的には、SFとホラーはむしろ対極じゃないかと思うんだけど(下図参照)、「怖さ」という基準を導入するとなんでもとりこめるのがホラーのずるいところだと思いました。
 そりゃ『ソラリスの陽のもとに』は理屈のない恐怖だけど、あれは「人間以外の知性は人間には理解できなくて当然」という理屈から出発してるわけで。ちなみに京極夏彦の「厭な子供」は、それのホラー版……と考えるといっしょか(笑)。
      論理
       |
 ミステリ  |  SF
       |
現実----------+-----------非現実
       |
 ホラー   |  ファンタジー
       |
      非論理

 東さんの仕切りにときどき倉阪さんと中島さんが突っ込むってスタイルでなごやかに進行し、ホラー企画は無事終了。直前の依頼にもかかわらずご参加くださったゲストの皆様、ありがとうございました。しかしこれだけ集まるならホラーなイベントやればいいのに。

 3コマ目は、お茶大の部屋とか新作アニメの部屋を覗きつつ、大広間でだらだら。SF系イベント初登場の巽昌章氏を柳下毅一郎に紹介したりとか。その横に渡辺麻紀がいたりして、セミナーも変わったなあ。
 いや、とにかく今回は合宿参加者数が爆発的に増えてたので(それまでの最多記録だった昨年のさらに五割り増しとか)、全体的にスペースが足りませんでしたね。のんびりする隙がない。

4コマ目は、森太郎&田中香織のネット部屋へ。「データをとる」という姿勢は評価したい。しかし「SF」と「ミステリ」で検索してもなあ。
 議論の中身は去年のネット企画とあまり変わらなかった模様。うっかり奥の席にすわってしまって他の企画がのぞけなかったのが失敗でした。

 早起きしたせいか眠くなってきたので、SFセミナー史上たぶんはじめて、合宿所の風呂に入る。ふたき旅館の大浴場はわりと大きくてびっくり。





【5月3日(月)】


『星界の紋章』連続上映(原作者解説付き)の部屋で、録画に失敗したエピソード2話を見ながら休憩し、あとはいつものパターンで朝を迎える。

 エンディング後は、本郷三丁目のマクドナルドで朝ごはん。第三期京大SF研が今年で設立20周年なんで、京フェスに合わせて記念パーティをやろうとかいう話が持ち上がっている模様。
《さわや》の大広間を借りて料理を出してもらって宴会する――というのがオレの最上のプランなのだが、それではただのSF忘年会になってしまう気も。だいいち一般参加者の合宿受付がたいへんなのだった。
 大野万紀、小浜徹也、三村美衣ほかとしばらく相談するも名案は出ず。まあ、本会後に、5時〜7時で立食パーティっていうのが現実的な線だろうな。学生3000円、OB7000円ぐらい? KSFA25周年と併催なら50人〜70人ぐらいは集まりそう。
 小浜くんが忘れてしまわないように書いておこう。

 眠さが限界に達したので、まだしゃべっている人々を残して10時ごろ席を立ち、まっすぐ帰宅。ベッドに潜り込んでえんえんと眠りつづける。

 ちなみに、SFセミナー・レポートのリンク集は田中香織さん@東洋大SF研のと、有里さんのがあります。

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