狂乱西葛西日記98年12月11日〜12月15日



【12月11日(金)】


 をを、256回記念号じゃん>日記。ファイルも256個あるわけですね。いやはや。

 キネ旬のベストテンと映画秘宝のベストテンをまとめて送る。すげえ泥縄。媒体特性には多少配慮してます。

【キネマ旬報 98年映画ベストテン】

●日本映画ベストテン

1 神様の愛い奴 神軍平等兵の凱旋
2 犬、走る DOG RACE
3 CURE
4 ラブ&ポップ
5 HANA-BI
6 軌道戦艦ナデシコ
7 大怪獣東京に現わる
8 岸和田少年愚連隊 望郷
9 踊る大捜査線 THE MOVIE
10 黒の天使 Vol.1

「神様〜」を映画のベストに入れること自体まちがいかもしれないが、いかんともしがたい。ただし最大の衝撃を受けたのは、ロフトプラスワン公開版ではなく、97年の大晦日にBOX東中野で上映された30分程度の断片のほう。「犬、走る」も、奥崎謙三さながら、ひたすら走りつづける快作だが、走ってばかりじゃ映画にならないのは最近のSFX怪物映画がよく証明するところで、静に徹した「CURE」はサイコサスペンスの名作。

●日本映画個人賞

監督賞 黒沢清
脚本賞 NAKA 雅 MURA
主演女優賞 大竹しのぶ
助演女優賞 余貴美子
主演男優賞 柄本明
助演男優賞 大杉漣
新人女優賞 三輪明日美
新人男優賞 長田融季

 監督賞は黒沢清か崔洋一かで悩んだあげく、この結果。北野武は……「HANA-BI」が北野映画のベストとは思えないので。「ゴジラ対ガメラ」をぬけぬけと成立させた「大怪獣東京に現わる」は、企画と脚本の勝利。ほとんど自主映画だけど、自主映画でもいいじゃん。
 俳優陣はほとんど印象だけ。「学校III」の大竹しのぶは、類型の極みだった小林稔侍に対して、現代的な個性を見せてくれた。友人役の余貴美子も印象的。男優のほうは順当。
 新人女優では「がんばっていきまっしょい」の田中麗奈や「アンドロメディア」の島袋寛子も捨てがたいが、趣味的問題で三輪明日美に決定。仲間由紀恵と書かないだけまだ理性があるかも。新人男優賞はやや反則気味か。

●外国映画ベストテン

1 恋愛小説家
2 エイリアン4
3 スターシップ・トゥルーパーズ
4 ブギー・ナイツ
5 ダーク・シティ
6 ビッグ・リボウスキ
7 ジャッキー・ブラウン
8 アウト・オブ・サイト
9 LAコンフィデンシャル
10 リバース

●外国映画監督賞
 ジャン=ピエール・ジュネ

 順位はないも同然。「恋愛小説家」はなぜかツボにハマってしまったが、それをべつにすると異様に偏向したベスト。あいかわらずIQの低いSF大作が多いものの、状況は改善されつつある。「トルーマン・ショウ」も悪くないが、SFファンなら黙って「ダーク・シティ」。同様に「ブレーキ・ダウン」より「リバース」で、98年はこういう小粒なSF映画に収穫があった。エルモア・レナード原作物が二本入ったのは偶然です。




【映画秘宝ベスト10】

1 神様の愛い奴 神軍平等兵の凱旋
2 エイリアン4
3 スターシップ・トゥルーパーズ
4 ブギー・ナイツ
5 大怪獣東京に現わる
6 ダーク・シティ
7 犬、走る DOG RACE
8 アウト・オブ・サイト
9 ジャッキー・ブラウン
10 LAコンフィデンシャル

 今年はモンスター映画に収穫が多かったので、上位五本は怪物でかためてみました。しかしだれも奥崎謙三には勝てない。下位は似たような映画が並んでしまった。おお、まるでミステリファンみたいではないか。
 対決シリーズで言うと、「不夜城」より「犬、走る」、「プライベート・ライアン」より「スターシップ・トゥルーパーズ」、「トゥルーマン・ショウ」より「ダーク・シティ」、「ブレーキ・ダウン」より「リバース」。「ジャッキー・ブラウン」より「アウト・オブ・サイト」なのは、あのナンシー・ロペスに惚れたから。冒頭だけならタランティーノなんだけどな。

●映画秘宝ワースト10

1 時雨の記
2 卓球温泉
3 ピカチュウのなつやすみ
4 アナスタシア
5 アルマゲドン

 いやあ、「時雨の記」はすごい。「北京原人」も「アルマゲドン」もメじゃないね。澤井信一郎は確信犯なのか。ふつうに撮ってこれだとすると、ツイ・ハーク以上に病が重い気がする。「卓球温泉」は、卓球部出身者としては許せない映画。ちゃんと勝負しろ。「ピカチュウ」は愛がなさすぎ。いまごろ「未来少年コナン」パクったり、子供なめちゃいかんでしょ。ハリウッド映画はアイウエオ順にワーストを挙げようと思ったら2本までしか入りませんでした。「マーキュリー・ライジング」もひどかったな、そう言えば。

●印象に残ったもの
1 奥崎謙三の口内射精
2 吉永小百合
3「アンドロメディア」の島袋のCGI
4 WAHAHAの宇宙旅行みたいな「アルマゲドン」の小惑星
5 ファンタスティック映画祭4日目のインド人観客

 ベストを送ったらウェイン町山から電話がかかってきて、「神様の愛い奴」について3枚で書けという。「柳下が書いてもあたりまえすぎてつまんないけど、この映画の原稿、大森望が書くのは面白いよ。中身はなんでもいいですから」。




【12月12日(土)】


 恒例の《黎会》&《宇宙塵》合同忘年会@六本木。10:50AMに六本木駅で待ち合わせて、会場のレストラン《まきむし》へ。
 柴野さんに『二重螺旋の悪魔』解説事件の顛末をきこうと思ったら、開会挨拶がいきなりその話でした。青山さんのホームページの往復書簡では、「私としては、誠に失礼ながら、柴野先生の「解任」を要求することになりました」となってるけど、じっさいに梅原さんから届いた手紙の中身は、「申し訳ないがSFという言葉は解説中に使わないでいただきたい」というものだったとか。SFを使わずに『二重螺旋』の解説は書けないので、と柴野さんのほうから角川に断りの電話を入れたそうです。
 その後も柴野‐梅原間でしばらく手紙のやりとりがつづいたとか。でも梅原さんの主張は青山ページの往復書簡の主張とあまりかわりがない模様。
 ところで、厳密に言うと解説者の選定は版元の編集権の範囲内(カバー、造本、タイトルも同様)なので、なにもかも著者の思い通りになるとはかぎらないでしょう。いや、ふつうはすべて著者と相談しながら決定するんだけどさ。
 それにしても、「ニューウェーヴは(SFにとって)脇道だったと思う」という柴野さんは、梅原さんの考えかたと比較的近いんじゃないかと思うんだが。まあ、他人宛の手紙に文句をつけてもしょうがないか。

 忘年会出席者は、青井邦夫、赤尾秀子、内田昌之夫妻、大西憲、小野田和子、梶元靖子、鎌田三平、小浜徹也、小林浩子、坂井聖兒、佐藤高子、柴野拓美夫妻、嶋田洋一夫妻、福本直美、山岸真などの各氏。小浜夫婦は起きたら11時で2時間の大遅刻。

 話題は、ジョン・ヴァーリイのWizardsがついに出るらしいとか、ポール・マコーリイの『FAIRYLAND』が来年1月刊だとか、『造物主の掟』の続編ももうすぐだ、とか。
 あとは《本の雑誌》の宮田昇氏の原稿に出てくる田中融二氏の最期の話とか、みのうら掲示板の話とか。

 山岸誠から聞いて爆笑だったのは、ハルキ文庫で再刊された山田正紀『宝石泥棒II』の日下三蔵解説に出てくる誤植の話。山田作品を傾向別に分類してるんだけど、そのうちのひとつ、秘境冒険物が「秘湯の冒険」になっているらしい(あとで確認しました)。いいなあ、秘湯冒険物。主人公は盗撮を頼まれた大学生、かな。

 3時近くまでのんびりしてからアマンドに流れ、最後はカラオケ2時間。昼間だったのでひとり一時間50円と格安。

 帰りに青山ブックセンターで、ピンチョン『ヴァインランド』、『平成の名探偵50人』、野崎六助の京極ミステリ本を購入。
『平成の名探偵50人』は、京都で見たときはまったく気がつかなかったんだけど、FSUIRIの会議室に、佐藤誠氏が、「この本の表表紙の裏によると、大森望さんのHPの読書日記が加筆されて単行本化するようですね」と書いているのを見て仰天。ようやくABCで実物を見つけて確認してみると、ほんとだ、広告が載ってる。そうかあれは冗談じゃなかったのか。まだなんにもしてないのに。
 というわけで、狂乱西葛西日記のミステリ関連パートの抜粋に加筆訂正したものが洋泉社から単行本になるらしい。オレのこの話だけは載せるなとかいうリクエストがありましたらおはやめに。



【12月13日(日)】


 メフィスト賞受賞の『QED 百人一首の呪』をやっと読了。これは完全に京極系。『姑獲鳥の夏』に重なる話ですね。ただし、蘊蓄とトリックがぴったり噛み合わないのが難点。その点、『殉教カテリナ車輪』と近いかもしれない。あの地図だって、ふつう思い出すのは『匣の中の失楽』で百人一首とは無関係だしなあ。百人一首のダイイングメッセージ解読と犯人指摘が密接に結びついてほしい気がする。
『姑獲鳥』や『鉄鼠』では、膨大な蘊蓄が伏線になって、シンプルで意外な解決が導かれたときに、「おお、そうだったのか」という感動を与えてくれるわけですが、『QED』や『カテリナ』では、蘊蓄は蘊蓄、解決は解決、って感じ。
 これでは、乱歩賞なんかの特殊業界物ミステリと同じことになってしまうのでは。知的パズルと殺人事件が関係ないなら、知的パズルだけノンフィクションで出せばいいのに、いまはその容れ物として本格ミステリが選ばれているような。
 千街晶之じゃないので、だからといって本格の先行きを心配したりはしませんが、なんだかもったいない気がしますね。



【12月14日(月)】


 今週18日の予定だった日本ホラー小説大賞最終選考会が24日に延期になりましたという手紙が届く。またクリスマスイブですか。オレ、24日の都合は一回もきかれてないんだけどなあ。こういうのって一応打診するんじゃないの? もちろん手紙で、「クリスマスイブは空いているか?」でしょ((C)高村薫)。いやまあ空いてるんだけどさ。翌日はアニメ版『星界の紋章』試写イベントで大阪に行かなきゃなんないのに。
 ま、今回の一次通過作品には2800枚と3200枚があるから、延期になるのもわかるけどさ。

『星界の紋章』と言えば、FM大阪ではすでにラジオドラマが放送されてるんだけど、これ、ウェブで聞けるんですね。SFラジオドラマ『星界の紋章』のページに行くと、なんとびっくり、プラグインなしでストリーミングオーディオが聴ける仕組み。アナログ接続でリアルタイム再生だとやや音飛びしますが、キャッシュに貯めてから聞き直すとけっこうクリア。なるほど、これやってたから、アニメのアフレコがあんなにスムースだったのね。
 星界ラジオドラマをバックに流しながらネットサーフィンするのもなかなか。FM大阪ってとこがとくにポイント高いかも。

 あわててホラー大賞の原稿を読む必要がなくなったので、牧野修『屍の王』を読む。ジョナサン・キャロル系というか、ディック系。ホラーとは言っても、『MOUSE』の世界観にかなり近くて、すごく気持ちがいい。詳細は書評に書くでしょう。



【12月15日(火)】
<BR>
 笠井潔『スキー的思考』
をようやく購入。スキー的向上心ゼロのオレには関係ない本だろうと思ってたんだけど、知り合いから「おたくの夫婦喧嘩の話が載ってるよ」と言われたのであわてて読みました。くー。こんな話を書かれていたとは。斜面の上のほうで足がすくんでるさいとうよしこを、オレが「はやく来い」とどなりつけてたとか、そういう話。かなり誇張があるような。
 さいとうよしこいわく、「でも笠井さん、あたしがカラオケでどんなに勇気があるか知らないよね。サビしか知らない歌でも平気で入れちゃうのに」
 そういう問題じゃないと思うが。
 そういえば、クヌルプの話は、貫井くんも『オール讀物』のエッセイ、「ミステリー作家は雪山に集う」に書いてるんだけど、
「大森望さんが転倒して骨折してしまったこともあったけど、奥さんが大して心配もせずにギプスに嬉しそうにいたずら書きをしていたのも印象深い。」
 だって。そうですか、印象深かったですか。よその家庭を勝手にエッセイのネタにしていいのか。いいに決まってるよね、ってことで、これから心おきなく笠井ネタと貫井ネタは書けるわけである。というと今までは心おきなく書いてなかったみたいだな。

 解説を書いた『レフトハンド』が京フェス前に届き、もどってきたら新津きよみさんの著者謹呈分の『愛読者』が届いてたのに、残りのホラー文庫の新刊がいつまで待っても来ないので、だぶるのを覚悟で田中啓文『水霊 ミズチ』を購入。読みはじめたら止まらなくなり、午後8時から午前0時まで4時間で一気読み。前半は半村良、後半はクーンツ。オレ的にはもうちょっとダークサイドにがんばってもらって、××ぐらい壊滅させてほしかった気もするが、これだけやってくれれば満足。それにしても女性観が歪んでないか(笑)>田中啓文。


top | link | board | other days