狂乱西葛西日記98年11月22日〜11月25日


【11月22日(日)】


 夕方、新宿に出て花園神社の酉の市。屋台のカルビ串焼きをむさぼり食って飢えを満たし、去年の熊手を返して今年の熊手を買う。
「こっちの列は今年の熊手じゃないの?」
「先に新しい熊手買ってもいいじゃん」
「いや、一応ストーリー的にはこっちのイベントが先でしょう」
 とか、頭がすっかりゼルダ。
 全国57人のカラオケ番長ファンのために、熊手を持つ番長提灯前の番長を載せておきましょう。

 大混雑の花園神社をあとにして、新宿パセラで邪悪なカラオケに合流。主宰はスタジオハードの木川総裁(画面左端)。手前の印象的な頭はマンガ家のはぬま あん氏。木川総裁とガイアをデュエットするために、パート分け表をひそかに製作しプリントアウトを持参したりする強者。サンライズ系の主題歌が流れると体が否応なく踊りだしてしまうというおそろしい病気に罹患している。でも本職は替え歌系。主に邪悪なやつね。
 邪悪な空気に耐えられない善良な大森は2時間で抜け、帰って仕事。夜中は、新宿から生還した番長とうちの社長と三人でサヨナラ焼肉宴会@大将。もりもり食ってから家に帰ってぐうぐう寝る。



【11月23日(月)】


 起きたらトーレン社長はすでに成田へ去っていた。

 ひさしぶりに髪でも切るかと駅前の美容院に出かけたら、髪を洗ってもらってる最中に携帯着信。
「もしもし町山ですけどSFオンラインの原稿あと4時間ぐらいでメールしろって言われてるんだけどうち今モデムなくてモデム貸してください。というかフロッピー渡すからかわりに原稿を送ってください」
 いや、柳下日記で帰ってきてるのは知ってたけど、最後に言葉を交わしたのが2年近く前とは思えない(笑)。ウェイン町山おそるべし。今は西葛西にいるというので、一時間後にまた電話もらうことにして、頭がさっぱりしたあとメトロセンターの喫茶店マイルストンでフロッピーを受けとり、アメリカ話を聞く。
 トーレン社長に会いたかったらしいが、すれちがいでしたね。



【11月24日(火)】


 10時半にW辺嬢@アニメージュ編集部の電話で目を覚まし、泣きながら起きて12:00に恵比寿。待ち合わせはウェスティンホテルなので、しまった遅刻だなと思いながらスカイウォークを歩いてると、目の前に黒コートのメッシュ頭な人が。
 というわけで、考えたらべつにウェスティンホテルじゃなくてもよかったのではとか言いつつナツヒコと並んでスカイウォークを歩き、ホテルのラウンジでW辺嬢&福井健太と合流。バイキングの昼食をさくっと食べてF.F.N.の収録。
 ガーデンプレイスもホテル内も撮影条件がやたらにきびしいってことで、徒歩五分の距離にあるFiscoで撮影することに。「京極夏彦 with Fisco」ってクレジットでおなじみのデザイン事務所ですね。京極邸の写真はあちこちに出ちゃったけど、Fiscoはレアかも。灰皿とか盗んでくればよかった。違うって。

 写真撮影後、さらに都内某所で行われている秘密のアフレコ現場に潜入。秘密の作業を見学後、秘密の理由でそこにいた宮部みゆき嬢を交えてF.F.N.の取材。1時間近くみっちりしゃべっていただいて、次回分はこれでOKな感じ。

 取材終了後、タクシーを飛ばして早川書房。5時に来てくれと塩澤編集長に言われてたんで、また遅刻かよと思ったら、じつは6時半待ち合わせと判明。まあいいんだけどさ。
 今日はコンタクト・ジャパンで来日したポール・アンダースンの迎撃宴会。なぜオレが呼ばれたのか謎ですが、短編はけっこう好きかも。
 地下のリヴィエールを覗いたら、まだ小川さんがインタビューしてる最中だったので、編集部に上がって油を売る。そのうち浅倉さん登場。50年代SF特集の話とかいろいろ。

 ぼちぼち宴会参加者が集まってきたところで、会場の居酒屋に移動。掘りごたつの座敷に、旅館みたいな料理でけっこう謎ですが、味は悪くなかったし、値段のわりに見栄えがするので外人接待向き。
 しかしアンダースン氏の英語はもごもごしててわかりにくい。奥さんがよくしゃべる人で西遊記とか源氏物語とか東洋文化についても力説するんだけど、ががががっと演説したてから言葉につまると、アンダースン氏がすかさず手を振って「Never mind」と一蹴するのが爆笑でしたね。日ごろから奥さんのおしゃべりに悩まされている模様で、間合いが絶妙。
 中村融、北原尚彦、牧眞司……と集まった熱血アンダースン・ファン諸氏は持参の本にサインをもらったり、アンダースン体験を熱く語ったりして盛り上がってましたが、オレは本どころか名刺も忘れて来ちゃったので、主に観察してました。聞きたいこともあんまりないしなあ。ま、小川さんがみっちりインタビューしてるはずなので、次のSFマガジンに載るでしょう。

 アンダースン夫妻がホテルに引き上げたあと、神田駅前の喫茶店・小鍛冶でお茶。SFマガジンの年間ベストとか、青山智樹ページの梅原克文発言(というか手紙)の話題など。
 わたしは、梅原説の根幹部分については聞くべき点があると思ってるんですが、論証過程があまりにも粗雑なので弁護する気になれない。ハルキ文庫の日本SFが全然売れてないとか、富山の書店を何軒か見ただけで断定されてもなあ。いや、本来は私信なので、責めるのは筋違いなんですが、ネット上に出たとたん、「風説の流布」になっちゃうので。だいたい売れてなかったらあんなに次々出るわけないじゃん。売れたから店頭在庫切れになるとふつう考えないか。増刷したってパターン配本なんかしないんだからさ。

 11時に解散して、西葛西のビルディに寄り、SFマガジンのベスト投票。海外の一位はウォッチメンで決まりだねと思ってたんだけど、不安になって柳下毅一郎に電話して確認すると、奥付は11月15日と判明。だめじゃん。しょうがないので当初の予定どおり、『スノウ・クラッシュ』が1位。
 投票結果はこんな感じ。


●海外作品
1 ニール・スティーヴンスン『スノウ・クラッシュ』
2 スタニスワフ・レム『虚数』
3 ルーディ・ラッカー『時空ドーナツ』
4 ルーシャス・シェパード『グリンプス』
5 リンダ・ナガタ『極微機械ボーア・メイカー』

 98年は例年と反対に、落としたい作品より入れたい作品が多くて四苦八苦。1位は『ウォッチメン』で決まりだね。と思ったら奥付が11月15日なので茫然としたけど、『スノウ・クラッシュ』があるからノープロブレムさ。3位以下は、『ホーリー・ファイアー』『凍月』『ホログラム街の女』『スペアーズ』『マウント・ドラゴン』あたりからどれが上がってきてもおかしくない。『SF大百科事典』は入れるところがないので別格。


●国内作品
1 奥泉光『グランド・ミステリー』
2 小林恭二『カブキの日』
3 瀬名秀明『BRAIN VALLEY』
4 池上永一『風車祭』
5 藤田雅矢『蚤のサーカス』

 ウチナー・マジックリアリズムの傑作『風車祭』をどうしても入れたかったので、ジャンルSFから大きく逸脱しちゃったけどまあしょうがない。それでもまだ、矢作俊彦『あ・じゃ・ぱん!』とか酒見賢一『語り手の事情』とかが落ちてしまった。『電脳天使』『彗星狩り』『ブギー・ポップは笑わない』『セレーネ・セイレーン』『ベックフットの虜』……とヤングアダルト系文庫だけでもベスト5が組めそうな勢いですが、今回は泣く泣く見送り。ちなみにホラーは『屍鬼』、ノンフィクションは『塵も積もれば』が98年のベストワン。




 ちなみに海外で今回、積極的に入れたくない作品は、『タイム・シップ』と『レッド・マーズ』……っていわなくてもわかるか。どうせこの2冊がワンツー・フィニッシュだろうけど、こんなのに喜んでつきあうのはSF専門読者だけだと思うなあ。退屈なのをがまんすればご褒美が……っていうのはやっぱりダメでしょう。



【11月25日(水)】


 さんざん悩んだあげく、アニメージュの書評タイトルを、西澤保彦『ナイフが街に降ってくる』、霞流一『オクトパス・キラー8号』、荻原浩『なかよし小鳩組』のお笑い三冊セットに決めて原稿を書く。

 つづいてF.F.N.の取材原稿テープ起こし。すげえいいかげん。いや、京極発言に忠実な原稿なので、こっちのほうが正しいと言えば正しいのだが。

 横溝賞の最終候補決定会議が迫っているので、一次通過作品の箱を開け、猛然と読みはじめる。最後まで読まないといけない長編が15本ぐらいあるのでたいへん。一本の半分ぐらい読んでは、疲れるとゼルダ。


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