狂乱西葛西日記98年11月13日〜11月18日

【11月13日(金)〜14日(土)】


 レイモンの短編翻訳をかたづけ、集英社から送られてきた新井素子の新作『チグリスとユーフラテス』のゲラを読みはじめる。ひょっとして新井素子はオースン・スコット・カードと作家的資質が近いのかも。
 霞流一『オクトパス8号』は、キツネ(『フォックスの死劇』)、カニ(『ミステリー・クラブ』)につづくタコづくし。寄席ネタで材料は面白いし、これまでの作品のなかではいちばん読みやすいくらいなんだけど、探偵役はもっと暴走させたほうが面白かったのでは。国会議員って設定が生きてなくて惜しい。ドーバー警部を越えるのはたいへんでしょうが。



【11月15日(日)】


 斉藤友子が明日サンフランシスコに帰るので、見送りのため、ふたたび国樹由香嬢がやってきて、トーレン社長のおごりで寿司。メトロセンターの葛西寄りにある寿司屋なんですが、値段のわりにけっこううまい。煮物焼き物が充実してるのもうれしかったり。

 食後、MAG TIMEに行って、レイモン短編の直しと『レフトハンド』の解説原稿。グールドの『ワンダフル・ライフ』を読み返したりしてるので解説は全然進まないなり。



【11月16日(月)】


『レフトハンド』は小説界のハルキゲニアである、という謎の結論で解説をフィニッシュし、レイモンの翻訳といっしょにメールで送る。

 服部まゆみ『この闇と光』を読む。アイデアは面白いし、文体もいいんだけど、長編としてはちょっと弱いかなあ。なにもかもぜんぶ書いちゃう小説が多い中では好感が持てますが。



【11月17日(火)】


 4時に西葛西駅でトーレン社長と待ち合わせて江古田。スタジオかつ丼は「ライ」の締切で修羅場中ってことで、駅前のシャノアールで真鍋譲治氏と打ち合わせ。『ドラクゥーン』の5巻目はいつになったら完成するのでしょう、とかそういう話。
『アウトランダース』総集篇アメリカ版のカバーはボブ・エグルトンが描いてるんですが、日本おたくなエグルトンがそのうちの原画一枚を真鍋さんにプレゼントしたいってことで、預かってきた原画を手渡すひと幕も。エグルトンのカラー原画だと、ワールドコンとかじゃ相当な値段がつくだろうけど、真鍋さんは名前も知らなかったみたい。日本では全然無名だからなあ>エグルトン。

 打ち合わせ終了後、いつもの餃子屋LEEでチーズベーコン餃子と餅キムチ餃子をそそくさとつきあってから、なおも餃子を食い続けるトーレン社長を残して一路銀座へ。

 4丁目・近鉄ビル6階のサンマリノで、7時から古沢嘉通迎撃オフというか、古沢さん40歳お誕生パーティー。これさえなければ箱根か伊豆の温泉に出かけてしし座流星群を見物してたはずなんだけど、まあしょうがない。京急の最終で三浦海岸に出るか、それとも大垣行きに乗って熱海からタクシー飛ばしてあのへんの山に登るか、それとも新木場のヘリポートあたりでお茶を濁すか……とあれこれ検討はしたものの結論を見ないまま宴会に突入。集まったSF者のあいだで流星見物熱が低いのは、やっぱりみんな「トリフィドの日」を見てるせいなのか。いや、「ナイト・オブ・ザ・コメット」って名作もありましたね。あれはゾンビになっちゃうんだっけ。

 不惑宴会の特別ゲストは今年の『このミス』でめでたく2位に輝いた(というのはまだ内緒かもしれない)鴻巣由季子嬢。いや、トマス・H・クック『緋色の記憶』(文春文庫)は名訳でしょう。途中までしか読んでなくて申し訳ない。数少ない年下の女性同業者だし、おまけに「翻訳業界一の美女」((C)古沢嘉通)なので、宝石のように大切な存在である。
 翻訳者と編集者が大半の宴会なので、話題は『このミス』のベストとか、最近の翻訳書の翻訳とか。アン・ライスの『眠り姫、官能の旅立ち』(扶桑社文庫)はめちゃくちゃ売れてるらしい。パッケージングの勝利か。
 あとは最近のウェブ状況について。掲示板論争におけるむかつく発言について三村美衣と意見が一致する。やっぱりそう思うよな、ふつう。

 二次会は新橋方面のザ・ワインバー。流星観測地について結論を見ないまま、はっと気がつくと午前0時。この時点で遠征計画はほぼ挫折。せっかく西葛西のかねき屋電機で、大型携帯ライト(単一乾電池4本つきで690円)とか買ってきたのに。
 しょうがないので、白石朗、三村美衣、さいとうよしことタクシーで西葛西。まだ時間があるのでとりあえずカラオケボックス。「レティクル座行き超特急」とか歌って流星の夜を記念する。午前3時になり、ぼちぼちふたたびタクシーで臨海公園あたりにくりだそう……と思ったら、新橋からのクルマに酔った三村美衣が、もうタクシーには乗りたくないとかたわけたことを言うので、暗い場所を求めててくてく歩くことに。
 しかし東京の夜は明るい。明るすぎる。ちょっと開けた場所は街灯が煌煌と灯り、全然ダメな感じ。しかしそれでも、工事中の更地とか、広めの駐車場とかのまわりには、ぽつぽつと空を見上げる人々の姿が。なんか「ディープ・インパクト」とか「アルマゲドン」にインサートされるショットみたいな。やっぱりみんな流星好きなんじゃないの。
 歩いてるうちに3:30になり、比較的くらめの駐車場で妥協。伊豆半島まで遠征する計画が、葛西の駐車場ですか。とほほ。これならまっすぐ家に帰って荒川にでも出たほうがましだったような……。

 とぼやきつつも夜空を見上げ、しし座の位置を確定。インターネットで予習したから、どれかしし座かばっちりわかるもんね。と東の空(方位磁石で確認(笑))、火星の上のほうを見上げてたら、全然関係ない方角を走る光あり。
 けっきょく、3時半から1時間で目撃した流れ星は十数個。三村美衣は30個見たと主張してる。オレも10年前までは視力2.0だったけど、最近はめっきり落ちてるからなあ。他人が、「見えた! あそこ!」と叫んだやつを見逃すとどうしてあんなに悔しい気がするのでしょう。しかしさいとうよしこは3個しか見えなかったらしい。
 4時過ぎ、めちゃめちゃでかいやつが一個、きれいな尾を引いてオリオン座方面に消えるのを見たので、オレ的にはそれだけで満足。雨のように星が降るとか、そういう夢みたいなことを期待しちゃだめだよ。いや、伊豆まで遠征してたら悔しかったかもしれないけどさ←ポジティヴシンキング。

 セーター、夜食持参だったにもかかわらずあまりにも寒くなったため、4時半で解散。白石朗と分かれて3人でてくてく歩いてると、自宅マンション屋上で見物していた柳下毅一郎から携帯に電話。マンションの屋上もけっこう人が出てて、「シティ・オブ・エンジェルス」状態だったらしい。臨海公園まで行けばきっとお祭り状態だったんだろうな。




【11月18日(水)】


 お昼過ぎに起き出し、寝ているさいとうを残して三村美衣とトミーバッティングセンターへ。キティちゃんが投げる80キロのゲージに入るも、全然タイミングが合わない。だいたいキティちゃんが投げてくる球をあなたは真剣に打てますか。どうせなら星飛雄馬とかにしてほしい。なぜキティちゃん。
 200円のパーフェクトピッチングのマシン(ボール当ててビンゴつくるやつ)で6球あてて110円(缶ジュース一本分)獲得し憂さをはらす。三村美衣はボードまで球が届かない。コントロールとかの問題じゃなくて、育ってきた環境の問題でしょう。

 ミストラルで遅い昼めしを食べてから三村美衣と別れて帰宅。寝床でだらだら本とか原稿とかWWW日記とかを読む。
 なんかみのうらさんが風虎日記SFファン廃業宣言してますが、掲示板の説明見てもよくわかんなかったり。オレにとってSFファンかどうかは明示的に宣言されます/されません以前の先験的な状態なので。
「「まがりなりにもSFファン相手に多正面作戦開始する気か!」って足をすくいに来る」のは「心の中のSFファン」じゃないでしょ。というか、SFファンの中からは、「SFファン相手に」って発想は出てこないと思う。メンバーはクラスに喧嘩を売れないっていうか。つまり問題は、むしろ、「SFファンである」という自覚が足りないことでしょう。オレ様はえらいSFファンだぜ、と自覚してればだれとどう喧嘩しようが矛盾は生じないと思うんだけど。
 まあオレの場合、20年前からSFファンダムに帰属意識を勝手に持っちゃってるので、根本的なところでよくわからない議論ではある。高校のころから、「ファンダム歴が古い人」「商業誌に書いてる人」をそれだけで無条件に尊敬するとかってことはなかったし。


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