【6月6日(土)】

 本の雑誌の原稿を途中まで書いて(あと3冊読まないと残りは書けない)、馬場に出る。ユタの出席者は林くんが書くだろう。添野夫妻はバッコニアに行くつもりらしい。ボルチモアかあ。今年は珍しくワールドコンが8月はじめなので、飛行機だけで15万ぐらいかかるのでは。うーん。どうするかなあ。

 とっとと帰宅して読書。『地底大戦』の上巻をかたづけて6時ごろ寝る。


【6月7日(日)】

 9時に起き、寒い雨の中を駅前まで歩き、ミスドで朝飯食ってから、11時前ののぞみで京都へ。
 車中で北上秋彦『種の復活』を読了。意外とがんばって書いてますが、ネタが多すぎでしょう。縄文のミイラの使い方とか、よく考えてはあるんだけど。SFとミステリと冒険小説とぜんぶ入れて、最後ああいうふうに落とすのはなあ。往年の田中光二がノンノベルで書いてたポリティカルフィクションよりは、枚数が多い分だけ派手だし、情報量も多いけど。いっしょうけんめい調べて書いてるようだけど、「モノクローム抗体」はご愛敬。パステルカラー抗体とかもあるのか。

 京都に着いてみるといきなり暑い。この気温差はなに。
1時半ごろ、夏の関ミス連大会会場の京大会館に到着。京大会館っていうと京フェスでよく使う場所なので、なんか不思議な感じ。
 ラストの追い込みの最中らしいんで会えないだろうと思ってた小野主上が来ててびっくり。髪がすっかりセミロングになってたのも驚いたな。髪を切るヒマもないらしい。綾辻さんは岡山に行ってて今日は欠席。主役の山田さんは、恩田さん、幻冬舎の編集者ふたりといっしょに、二時直前に到着。ま、開会が遅れたのでちょうどよかったけど。

 山田さんのトークは質疑応答形式。前半はスタッフ側で用意した質問、後半は会場からの質問。山田さんは立ちっぱなしで、なんか野党から追求される国会答弁の大臣、みたいな(笑)。
 一問一答形式で、回答に対するつっこみがないのはややフラストレーションがたまりますが、まあこれは関ミス連の伝統(たぶん)だからしょうがない。ミステリに関する質問が中心だろうと思ってたら、意外とSF関連の話も多くて収穫でした。『神狩り』『宝石泥棒』『地球精神分析記録』あたりが最近の学生にも読まれてるのはさすが山田正紀。
「『神狩り』は自分ではSFだと思っていない」という発言は意外でしたね。SFを書くのはしんどい、冒険小説を書くのは楽しい、ミステリはその中間ぐらい……というのはさもありなん。ま、この質問会の内容は、甲影会の『別冊シャレード』に再録されるみたいなので、冬コミ(たぶん)で買ってね。

 そうそう、甲影会といえば、『別冊シャレード』の最新の二冊、我孫子武丸特集号と依井貴裕特集号をいただきました。ありがとうございました。
 あと、夏のSF大会カプリコンでミステリなプログラムを企画している逗子まりなさんともうおひとり(名前を失念。失礼)から、名古屋のおみやげのカエルまんじゅうを拝受。ありがとうございました。

 休憩時間中には、ぱらでぁす・かふぇの松本楽志氏から挨拶される。なんか明るいスポーツマンタイプで、漠然と抱いていた印象(ってどんな印象だ)と全然違いましたね。あんまりゆっくり話ができなかったのが残念。
『時計を忘れて森へ行こう』(東京創元社)でめでたく単行本デビューした光原百合さんともひさしぶりに対面。この小説、ミステリ的には好きなんだけど、舞台と探偵役があまりにも嫌いなんだよなあ。いや、たんに「いいひと」向けの小説なだけなんですけど。
「だいたい自分のキャラと合ってないでしょう」とか著者に向かって言い放ち、飛び蹴りをくらいました(笑)。だからそういうおねえちゃんが出てくる小説書けばいいのに。って違うか。
 うーんしかし、それと全然べつの文脈で、小野不由美主上から、「大森さんはだいたい、そういう若い女の子の出てくる小説はいきなり点が甘いよね」と見抜かれてしまったので反省する。そうだよ、どうせオレは惣流派だよ。

 話題の福井健太も来てたんだけど、あとで思い返すとなぜかオレは避けられていたような(笑)。そうか、我孫子武丸といっしょだったから、オレに声かけると無理やり対決させられると思ってたんだな。いや、そのとおりだけど。
 本来なら福井健太の意向とは関係なく、勝手に対決場面をセッティングすべきところだったが、なにしろ人がいっぱいいてうっかりそれを忘れてたのは不覚でした。やれやれ。推理作家協会賞のパーティまでお預けか。でも協会賞では、我孫子さんはほかにも対決相手がたくさんいるような。あ、オレも笠井潔と対決しなきゃいけないのか(笑)

 法月さんの奥さんとも今日が初対面。オレの中学・高校の十年後輩であることが判明し、旦那そっちのけでローカルな話に花を咲かせる。法月綸太郎はすっかりしあわせそうで、ほとんど別人。作家生命の危機か(笑)。「しあわせな法月綸太郎」って形容矛盾でしょう。まあでも麻耶雄嵩もしあわせだしなあ。世の中の幸福より個人的な幸福を選択するのはいたしかたない。

 講演終了後は恒例のオークションとサイン会。用意周到に恩田陸の本を持ってきた人が十人ぐらいいて、「えー、どうしてみんなわたしの本を用意してるわけ?」と恩田さんは驚いてましたが、すいません、みんなオレが悪いんです。恩田さんはお忍びのつもりだったらしい。というか、そりゃそうだよな。
 ロビーでうだうだしていると、若者ふたりが近寄ってくる。
「あのー、大森さんに質問なんですが」
「はいはい」
本阿弥さやかってだれですか?
 京都でも本阿弥さやかは注目を集めている模様(笑)。ちなみにTHATTA ONLINEでは、先月、水鏡子という人が本阿弥嬢の個人情報を書いてますが、わたしは後難を恐れるタイプなのでそんなこわいことはしません。オレに質問しないように。

 オークションでは、「山田正紀の次回作に登場する権利」が25,000円の高値を呼ぶ。『キングとジョーカー』のカバーなしが750円とか、わりと高かったような。
 オークションを途中で抜け、地下のレストランでお茶。我孫子、有栖川、法月、麻耶、小野、恩田、山田、大森と新潮社&幻冬舎の編集者が3人。うーん、謎なメンツ。(ちなみに恩田、山田、麻耶と並んでる写真はこれ)。
 有栖川さんは『有栖の乱読』のベスト100で、わざと有名どころをはずして『謀殺の弾丸特急』を選んでたりする山田正紀ファンで、わりとつっこんだ質問してましたね。「山田正紀を囲むミステリ作家の会」状態。
 約束のある有栖川さんと編集者A(京大ミステリ研出身)が抜け、残った9人で食事に移動。(オレにとっては)15年ぶりに、銀閣寺道の「貝・黒潮丸」にくりだすことになったんだけど、店が見つからない。おかしいなあと思ったら、全面的に改装して、「ブラッスリー・貝」という名前のおしゃれな店に変身してたんでした。いやあびっくり。

 恩田さんはがんがんビール飲んで、ふたたび絶好調状態に突入。「北村薫ファンとキャラメルボックス観客の相関について」という十八番なお題を振ったとたん、その舌鋒が冴えまくり、京都の人々には大ウケでした。よかったよかった。
 けっきょく座敷で4時間ぐらい歓談し、11時ごろ、ホテル組4人(山田、恩田、幻冬舎×2)と別れ、残った京都在住組4人と法月邸訪問。
 いや、深夜に新婚家庭に乱入するような真似はしたくなかったんだけど、麻耶くんから、
「法月さんの新居の写真をとって、日記で面白おかしくレポートしてください」
 と強く要求されたので仕方がない。法月さんちは、奥さんが生後一カ月の子猫(名前はミド)をもらってきたばかりで、もうすっかりスイートホーム状態。子猫を抱いてあやす法月綸太郎を、あなたは想像できるだろうか。まあこの表情を見ればだいたいわかるよな。
 しかし、法月家での話題は主に最近のミステリ。麻耶くんが我孫子さんに鋭くつっこんでたのが印象的でした。『阿弥陀(パズル)』の推薦文の話とか。書評問題なんかに関しても、京都勢はわりと我孫子さんに冷たいかも(笑)。

 12時半ごろ法月家を辞して、我孫子さんのクルマで我孫子邸に向かいかけたところで、岡山からもどってきた綾辻さんから携帯に電話。なんか、11時ごろ京都にもどってきたものの、貫井くんからの通報で、「YAKATA」にバグ(2枚め、人形館の途中でフリーズし、動かなくなる。再現性あり)があることが発覚し、アスクとのやりとりですっかり疲弊していたらしい。会えなくて残念でした。
 なお、翌日判明したところでは、このバグは、「プレステの初号機(1000番台)および3000番台の機械でのみ起こる不具合」だそうで、対処法は、
「ユキヤとユリエが二人で自由に動けるようになった段階で、フロッピイ2の
モンスター図鑑を開く」
こと。
 止まってたヘッドがこれで動くようになるらしい。というわけで、古めのハードでYAKATA遊んでる人は気をつけてね。

 50分のドライブで我孫子邸に到着。ほとんど別荘ですね。キャンプ・デイヴィッドとかそういう感じ。いや、八ヶ岳の笠井邸とかもそうだけどさ。オレだったら、こんなとこに住んでると全然仕事できないだろうなあ。なにしろ実家を勘定に入れても、この30年以上、都会の下宿/アパート/マンション住まいしか経験したことがないので、一戸建てに住む感覚さえわからない(笑)
 我孫子邸はおまけにディレクTV入ってるし。一日TV見て終わりでわ。しかしSFチャンネルは最低な感じ。番組ガイドには原題しか載ってなくて、まあそれはいいんだけど、50年代のSF映画5本ぐらいがひたすらくりかえされるだけ。しかも月が代わっても番組構成が変わらないらしい(笑)。
 ディレクTVはやっぱりスポーツと時代劇チャンネルでしょう。

 ひとしきりあちこち見学したあと、YAKATAのファーストプレイを見物する。ファミ通とかで点が低いのは、冒頭の印象がいまいちなせいですね。いきなり青屋敷からはじめてもよかった気がする。屋敷内の移動と視点切り替えはスムースで、なかなか気分がいい。慣れると意外に迷わないし。
 しかし我孫子さんのプレイを見てると性格が出てておかしい。回復アイテムはぎりぎりまで温存とか、タダの回復は多少遠まわりしてもどってもがんがん使うとか。あと、「もったいないから、声優のセリフはキャンセルしないでぜんぶ聞く」というのは笑いました。時間のほうがもったいないと思うのだが。

 3時間しか寝てなくてさすがに電池が切れてきたので、5時ごろ寝かせていただく。


【6月8日(月)】

 2時ごろ、鳥の声で目覚める(笑)。ちおりさまの手料理で昼食。これが武士道な生活なのかっ。そんな気もするな。
 たらこスパゲッティおいしゅうございました>ちおりさま。
 ちなみにぽてはたいへん元気そうでした。

 4時ごろ、我孫子さんにJR花園駅まで送ってもらい、柴田よしき『レッド・レイン』を読みつつ東京にもどる。そうか、これって『アンドロ羊』だったのか。
 設定は40年後の未来。社会背景はよく考えてあるんだけど、ディック系のSFとしては説明しすぎでしょう。富野以降のアニメは画面で設定を説明しなくなったのに、どうもミステリ系の人が書く近未来モノは、地の文で懇切丁寧な説明を書く傾向が強い。まあ、ノベルス読者を考えればそれでいいんでしょうが、個人的には書かないほうがかっこいいと思いますね。そのへんでよくできてたのは、最近だと『無慈悲な夜の女王への讃歌』とか。
 あと、30年、40年のスパンだと、コンピュータ関係は鬼門ですね。はたしてそんな先までインターネットがあるのか。今みたいなパソコンが存在してるのか。
 とりあえず、未来モノで「インターネット」という言葉は出さないほうが無難だと思うな。『レッド・レイン』でも、広帯域幅通信があたりまえになってるのに、パッケージ商品の販売に関する記述がそれと矛盾してて(いや、ちょっと説明があれば納得できるんだけど)気になりました。

 家に帰って、『地底大戦』の下巻を読了。爆睡。


【6月9日(火)】

 本の雑誌の原稿を仕上げてから、ミストラルで四谷ラウンド刊の『皆殺し文芸批評』を読む。『このミス』匿名座談会の十倍こわい内容を実名でしゃべる恐ろしい座談会。これが新潮に載ってたのも驚異だけど、いやあ、風元くんはえらかった。新潮社出版部にはこれを単行本化する勇気のある編集者はいなかったのか。

 その座談会にも参加してる東浩紀がインターコミュニケーションズでディックの評論連載してるの知ってますか? と法月さんに言われたのを思い出し、書泉西葛西で立ち読み。最新号はヴァリス論。なるほどねえ。西海岸コンピュータカルチャーとくっつけて語るのは、いままでありそうでなかった気が。そのうちまとめて読もう。

 近所のレコード屋で『YAKATA』を買って帰り、W杯直前番組とかWith Loveとか見ながらプレイ。悪夢界の1個めを終えたところで寝る。

 そういえば、ロフトプラスワンで加野瀬さんに教えてもらったんだけど、空耳トリックアワーの松谷創一郎氏は最近人気爆発らしい。「コジャレ帝、松谷創一郎さんをたたえるリンク」を思わず熟読してしまいました。でもやっぱりこれはすごすぎでしょう。


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