【6月5日(金)】

 夕方まで仕事して、6時半、新宿のロフトプラスワン。ジャンキーズ・ナイト……じゃなくなってしまった今夜のトークショウは、「エロまんが業界の現在を斬る!」。メインホストは永山薫と更科修一郎。
 着いてみると、雑破業と小川某(本人の希望により、肩書きとファーストネームは非公開)が来てたので、となりの席にすわって開演まで四方山話。といっても、もっぱら堺三保とSFと最近のアニメの話題だったような気が。
 7時過ぎからトークライブ開始。そうか、永山さんってこんな人だったのか。わたしは福本義裕の『アミューズメント・ボーイズ』と『天使庁』を先に読んでて、「和製サイバーパンクの有望作家」という認識だったから、永山薫=福本義裕だと知ったときには驚きましたね。今は「永山薫の新刊情報日記」を愛読中。
 対する更科修一郎氏は、ホットミルクの雑誌評でしか知らない。なんか「ハイエンド系」で話題らしい。最新号が時評の最終回とかで、けっこう飛ばしてたな。
 エロマンガ誌はホットミルクとばんがいち(とコミックジャンキーズ)しか読んでないオレみたいな薄い読者の場合、周辺情報が圧倒的に不足してるので、雑破業と小川某からレクチャーを受けつつトークを聞こう。
 と思ったが、なんか最初のうちは内輪ネタのオンパレードでわりと寒い。児童ポルノ法がらみの規制の話になり、会場からの声が出はじめてからちょっと面白くなる。
「これは一作家としての意見ですが……」
「どなたですか? さしつかえなければお名前を……」
「○○です」
 とだれかが名乗るたびにウケるとか(笑)。業界関係者率が異様に高かった模様。でもエロマンガ業界な人はほとんど顔がわからないので識別できない。

 休憩時間に外に出てみると知り合いがちらほら。唐沢俊一とか竹熊健太郎とか。ホットミルク編集部からは女性3名。ジャンキーズの山崎編集長は欠席。みのうら嬢から、(株)オタキングの柳瀬直裕氏を紹介される。
 「ARTIFACT-人工事実-」の加野瀬未友氏とも初対面……と思ったら、前にレッカ社の忘年会で会ったことがありますと言われてしまった。世間はせまい。

 休憩後の第二部は「ハイエンド系」の話。SFとかミステリの話に翻訳しながら聞いてるとなかなかタメになりますね。実体はなくても名前をつけるのは重要。その意味では新本格に近いかも。ただし作家間に連帯感がないとつらいでしょう。
 それにしても更科氏の放言はあまりにも脇が甘い。というか、攻撃誘発性が高い。わざとツッコミを誘っているとしか思えない。オレ的にはよその業界の話なのでくすくす笑いながら聞いてたんだけど、雑破業とかけっこうむっとしていたらしい。最初のうちはそれを「まあまあ」となだめていた小川某氏、途中から自分でがまんできなくなったらしく、すっくと立ち上がってマイクをつかむなり弾劾演説を開始。最初からいきなり喧嘩腰、みたいな。
 小川くんががーっとしゃべると、壇上の人々はしばし沈黙――という光景がくりかえされる。しかしつっこみかたがストレート過ぎでは。ぢつは堺三保と似てるのかも(笑)。相手の発言のディテールを問題にするなら、もうちょっとギャラリーを意識した演出が必要でしょう。
 しかし更科氏はほとんど議論の相手にならないことが判明。内弁慶タイプなのか。主に加野瀬氏が受けて立つが、こちらはすれちがい気味。いや、となりで見物してるぶんには非常に面白かったんですが。

 後日、加野瀬氏の日記を見ると、


 質問タイムで、ハイエンド話を質問してきた人がきたのですが、「実態のない言葉を煽るのはどうか?」と言ってきました。新しい動きが見えるから、更科さんは定義をして煽った訳ですが、途中から「更科さんは他にも角川文化やアスキー文化のような未定義の言葉を使って…」などとトンチンカンなことを言ってきたので、つい怒り気味に返事をしてしまいました。角川文化やアスキー文化って明確にあるんですけど…。小川と名乗っていたけど誰なんでしょうか? もしかして本当に角川文化やアスキー文化を知らなかったのかも。

 と書かれてたけど、これはあんまりでしょう。まず更科氏が、「ハイエンドがなにかは定義しません」と宣言し、にもかかわらず、「インターネットでは勝手な解釈がまかりとおっている」と不満を述べたことに対して、小川くんは、「定義しないなら勝手に解釈されてもしょうがないでしょ」とつっこんだわけで。
「角川文化」に関しても、資料として配布されたホットミルク更科原稿(Cut Up Files)における、
「一連の角川事件によって、角川書店からメディアワークスが分裂。ここでいったん第一期角川文化が崩壊し、同時に市場の地殻変動が起こったのだ」
 とか、
「第二次角川文化は縮小再生産の文化だったが」
 というような言葉遣いを指してるわけですね。あの場で加野瀬氏は「角川文化」を、「角川文庫のメディアミックス戦略にはじまる流れ」として括ったけれど、更科氏の用法とは明らかに落差がある。「角川商法」と言われる角川春樹系の流れ(非おたく系)と、『ロードス島戦記』に代表される角川歴彦系の流れ(おたく系)との区別は、少なくとも更科氏の文脈では重要でしょう。さらに「第一期」「第二次」と言われても、オレだって説明してもらわないとなんだかよくわかんないぞ。
 小川くんが、更科原稿における、キャプテンとコミックコンプの関係など、重箱の隅的な問題をつついたのは、「イメージ先行の恣意的な議論には説得力がない」ってことを言いたかったからじゃないかと。
 もっとも、ゴーさんのD.Diaryでも、

 なんか、客の中で予備知識も無いクセにギャースカぬかす電波君がいて、話を前段階の定義まで引き戻すので一向に話が進まない。 オマエが一日店長なのか? こんなんだったらウェブの文章やホットミルクの雑誌時評読んだ方が速いっつーの!

 と書かれてるので、小川くんに手法的な問題があったことはまちがいない(笑)。おたく業界的な経験値では、小川くんは更科氏なんかよりずっと上だと思うけど、そうか「電波君」に見えたのか(爆笑)。正体は秘密にしろと言われたので書きませんが、美少女マンガ業界の人じゃないので。

 第三部は本日のメインイベント。ホットミルク誌上での論争を受けて、泊倫人氏が登壇。泊氏の芸風はすばらしい。更科氏をじわじわ追いつめ、あと一発で倒せそうなところですっと引いて話題を変えたり。
「オレさあ、今日、あなたからの電話をずっと待ってたんだよね。9時まで待ったよ。ふつう電話するよね。どうして電話しなかったの?」
 からはじまる軽いジャブで最初から相手を引かせといて、「更科さん、出身どこ?」とか。雑破業いわく、「金融屋の二回目の追い込みみたいな感じですね」(笑)
 問題は相手がひたすら引いちゃったことで、最初から降参されてしまうと、観客としてはいまいち面白くない。いや、あれに立ち向かうのはたいへんだと思いますが。
 泊氏と言えば、NIFTY-Serve某所で異常な注目を集めてた人ですが、オンライン人格とは全然印象が違ったな。もっとも、唐沢俊一氏がここで書いてる、
『「なんで、そこ(こっちからのツッコミ)を転がしてもっと笑いをとろうとしないのか」というじれったさ、に収斂されていく』という形容は、ロフトプラスワンでのオフラインな発言にもあてはまるかも。

 対決がそれ以上盛り上がりそうにならないんで、終電に合わせて席を立ち、とっとと帰宅。もうちょっとゆっくりしたかったけど、週末は京都だしな。

 ところで、D.Diaryには、「エロマンガ業界人だけのみならず、大森望やら唐沢俊一やら竹熊健太郎やら、あまりに解り易いサブカルっぷりだったゾ 」と註がついてたけど、オレはスタジオ・プロテウス東京オフィス駐在員として、商売の勉強をしにいってただけっす。


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