【10月19日(日)】

 『らせん』解説のため、ひたすら鈴木光司の再読。小説現代メフィストの連載、『神々のプロムナード』の教祖がすでに『リング』に登場していたことに初めて気づき、びっくり。そうだったのか。やっぱり読み返すと発見がありますね。

 斉藤三姉妹の真ん中、秋山香が娘の雅(みやび)と響(ひびき)を連れてやってくる。これで斉藤四姉妹弟が揃い踏み。いやもうたいへんです。


【10月20日(月)】

 『らせん』解説に着手。2時間で20枚ぐらい書いてひと休み。年のせいか、最近、一気にフィニッシュまで持っていけない。

 明日はSFマガジンのオールタイムベスト座談会なので、前回(SFマガジン89年)、前々回(SF宝石79年)との順位変動をチェック。いや、ほとんど変動してないんですけどね。
「ベスト10作品は10年ごとに1作品だけ新しいものが入る」という法則があるのかも。最近十年で残ったのが『ハイペリオン』、その前の十年では『星を継ぐもの』。
 しかしベスト30で見ると、79→89年で新訳作品が8点増えているのに対し、89→98年では4点しか増えていない。やっぱりこの十年の翻訳SFはクズだったのか(笑)。

 ところで89年2月号のSF BOOK SCOPEでは、高橋良平がこう書いている。

 まるでヒット曲のチャートのように、話題の長続きする作品がどんどん少なくなっている。八〇年代になって翻訳されたものでいえば、『星を継ぐもの』と『ニューロマンサー』くらいしか、SFファンを越えて話題の盛りあがったものを知らない。作品が平均化されたためか、インパクトのある作品がないのか、SFが衰弱化しているのか、要因については、いろいろ意見があることだろう。名作や傑作がやたらにあるわけではないが、ぼくの意見では、いま、SF界がSFを見失っているからだと思う。あるいは模索しているからだ、と。
 いやはや、なんにも変わってない。まあでも十年に一本、『ハイペリオン』があればじゅうぶんって気がしないでもない。成熟ジャンルの宿命で、新陳代謝は衰えてるわけだし。

 新陳代謝と言えば、89年のベスト投票者の最多年齢27歳。つまりオレの年齢ですね。98年のベストの最多年齢はきっと36歳、いまのオレの年齢じゃないかとにらんでるんだけど……。

 水玉さんから深夜のファックス。なにかと思ったら女子高生の望ちゃんの似顔絵(笑)。す、すばやい。どうせならスキャナでデジタイズしてメールで送っていただけるとすぐページに貼れてうれしいんですけど。ってスキャナ買えよ>おれ。
 でもスキャナがないので、さっそくデジオでとりこむ(笑)。夜中にやったので暗い。IrfanView32で明度を上げて、メキシコ甕のところに貼る。女子高生の望ちゃんはこんなのです。ルーズソックスじゃないのがポイント。でも頭の花はもう古いんじゃ……。まあ田舎のコだからな。島根と言えば法月綸太郎ですね。


【10月21日(火)】

 名大ミステリ研のA藤さんとY田さんから、文士劇のときの写真が届く。どうもありがとうございました<(_ _)> そうですか、名古屋大ミステリ研ですか。SF研ならよく知ってるんだけど……って現役の人はあんまり知らないか。南山大も名大も岐大もかつては海外SFファンの牙城だったんだけどなあ。
 ま、女子大生二人に囲まれた女子高生っていうラブリーな写真あ痛っでよかったす。やっぱ銀塩写真はいいよね、解像度高くて。スキャナ買わなきゃ。しかしこれでスキャナ買って、むかしのコンベンション写真とかデータ化しはじめたら泥沼だろうな。

 秋葉にちらっと寄って、4メガのスマートカード買ってから、てくてく歩いて神田多町の早川書房。499号用のオールタイムベスト座談会と90年代座談会。
 ゲストは伊藤典夫、川又千秋、小川隆、山岸真、堺三保の各氏。前半は伊藤・川又メイン、後半は小川・山岸・堺メインの二部構成。最初は別々にやる予定だったけど、どうせならいっしょにやったほうが変化がつくだろうってことで、同日二本録りにしたわけです(とくに後者は、独立してやるとSFオンライン企画とまったくおなじメンツになっちゃうしね)。
 食事をあいだにはさんで、4時から9時まで5時間の長丁場でしたが、けっこうおもしろくなったんでは。しかしこの座談会二本を原稿にまとめるのはつらいかも。8ページ×2で16ページ? ううむ、ディックの翻訳もほとんど手をつけてないのに。


【10月22日(水)】

 2時、半蔵門の宝島社でミステリ系の座談会。とかゆってバレバレですが(笑)。今年はずるずると海外編にも参加したので、またまた2時から8時までの長丁場。まあこれは原稿化の責任がないので気楽。
 終わったあと、単行本打ち上げを兼ねた宴席に移動。逆密室メンバーや日下三蔵その他も加わり、10人を越える大所帯。
 海外編ゲストの豊崎由美さんとは初対面。大森と同年生まれで、NW‐SFとサンリオSF文庫の熱狂的なファンだったと聞いて爆笑。
「アンナ・カヴァンとか最高ですよねー」だって。
 関口苑生大兄もじつはNW‐SF者なので(一時、編集も手伝っていたらしい。ルンドヴァルの『2013年キング・コング・ブルース』の解説を女名前で書いていた――という話をはじめて聞いて仰天)、『花と機械とゲシュタルト』その他のNW話で盛り上がる。いやはや。
 しかし、自称「98パーセントはおやぢです」の豊崎由美が爆発したのは下ネタ関連の話題。茶木則雄の顔色をなからしめる強烈なギャグは、おそろしくてとてもここには書けませんね。ほとんど西原理恵子。とてもクレアに書いてた人とは思えません。
 


【10月23日(木)】

 『らせん』の解説23枚をやっとフィニッシュまで持ってって、ミストラルの前から原稿を送る。スタンダードな解説を求められたのでスタンダードに書いたつもり。もうちょっと作家本人のことを書いたほうがよかったかもしれないが、ううむ。
 読み返して、『らせん』のラストのクローンネタはやっぱりあんまりだと思ったけど、まあそのへんは突っ込まないのがお約束。「記憶はイントロンにでも保存されていたらしく」で済ませられるのはジャンルSFじゃないおかげだよなあ。SFだと十年近く待たないといけないから、『ループ』が書けなくなってしまうのだった。当時気にならなかったのは、あの展開にあんまり驚いたせいか。あるいは『死者の書』を思い出したせいかも。
 個体差がなくなる人類進化のヴィジョンは今読み返すとすげえエヴァ入ってます(笑)。というわけで、「あらゆる解説にエヴァを滑り込ませる運動」は継続中。

 2時、ミストラルで「鳩よ!」の取材。恒例「この文章に学べ!」の一環で、お題はイタネト文体。でも最近、特徴的なイタネトらしい文体って、あんまり見なくなってるような。ちょっと前のピクスピみたいなの。諸星ワープ日記みたいのってもう少数派でしょ。
 しかしエモティコンの話とか「〜萌え」の話とか、ゼロから説明が必要だったので、つっこんだ話にならずにすんだのはさいわいなことである。なんか言い忘れたことがいっぱいある気がするがまあいいや。

#余談にシャープ記号を使うのって、起源はいつなの?

 締切をはるかに超過しているアニメージュの原稿を書く。犀川連作=マクロス説を軸に、『幻惑の死と使途』、黒沢清『CURE』(小説版は徳間文庫から出てます)、『幻想ミッドナイト』(角川書店)の三本。
 届いたばかりの恩田陸『光の帝国』もよかったけど、これは小説すばる連載をまとめた集英社本なので、小すばの書評にまわすことにしよっと。

 トモコ・サイトウの友だちが来てカラオケ行ってるというので、ちょっとだけ顔を出し、洋楽カラオケを聞く。新曲を仕入れてないので、もう全然ダメ。そろそろまとめてシングルCD借りてこないと。

 新刊が出たばかりの高野史緒嬢に電話。京都SFフェスティバルのゲスト交渉をスタッフの三浦くん(現・京都大学SF研会長)から頼まれたので、右から左に用件を伝えると、ノータイムで快諾。じつわそういう性格の人だと思ってました(笑)。SFのコンベンションは一度も出たことがないので、社会勉強のつもりで……とかゆってましたが、なにかまちがっているのでは(笑)。

 というわけで、今年の京都SFフェスティバルの企画もめでたく四本そろった模様。すでに決まっている野尻抱介メインの宇宙開発パネルと、尾之上俊彦×今岡清(交渉中)の「SFがつまらないわけ教えます」対談、あとは伊藤典夫の翻訳SF話と、高野史緒の「SFクズ論争に鉄槌を下す」――ってウソですすいません――って、けっこうバラエティもあるし豪華なラインナップですね。なにしろ京フェスなので当日思い立っての参加もOKですが、詳細は京都SFフェスティバルのページでどうぞ。
 合宿には京大ミステリ研OB作家陣も遊びに来るでしょう。でも綾辻さんはプレステのショウで入れ違いに東京に来るんだっけか。小林泰三さんと有栖川さん呼んで合宿企画やるかな、それとも。
 ってことで、関西方面の方はこの機会にお運び下さい。


【10月24日(金)】

 11時に起きて、サンフランシスコに帰るトモコ・サイトウをタクシーに乗せて送り出し、ミストラルで仕事。そろそろディックの翻訳やんないと。499号の翻訳20本のうち、未入稿はオレと山岸と伊藤さんと古沢さんだけらしい。すでにテンパってる感じのメンツ(笑)。
 分量的には一日か二日なんだけど、しばらくディックやってないので、頭が全然ディック・モードにならないのだった。


日記の目次にもどる
ホームページにもどる
リトル東京ページにもどる