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メッタ斬り!版 131回芥川賞、直木賞選考会
●コニー・ウィリス『犬は勘定に入れません』(→amazon | bk1)。ISBN:4-15-208553-3 | CW日本語サイト | CW特集@bk1
●豊崎由美/大森望『文学賞メッタ斬り!』(→amazon | bk1 | ABC | eS! books)。ISBN:4-89194-682-2
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●シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』(河出書房新社1900円)発売中→bk1 | amazon


【7月22日(木)〜26日(月)】


 国書刊行会《未来の文学》第一弾、ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』(→amazon | bk1)が到着。SFマガジンのウルフ座談会があるんで、先にゲラで読んだんですが、いま読むと新本格としか思えない(笑)。とくに第三部。表題作だけはむかしOrbitで読んでたんだけど、ペーパーバックで出たときは第二部を途中まで読みかけて挫折。なんだこりゃ? しかし、第三部を読んだあとでもう一回読むとよくわかるのだった。なるほどねえ、そういうことだったのか。
 ここに出てくるこいつがあいつで、あれがこうなって、これがこうなのね、という心構えで(しかも意味のない文章は一行も存在しないという前提に立って)読むと、たしかに手がかりも伏線もちゃんと入ってるんだけど、ふつうわかんないでしょう。ジーン・ウルフはアメリカ人読者のレベルを高く見積もりすぎ。訳者も圧倒的に親切心が不足してます。以下ネタバレとか言って、全然ネタバレしてないじゃん! 「一マイルもある宇宙船」の著者はケイト・ウィルヘルムで、この人はデーモン・ナイトの奥さんで――とかちゃんと書くように。じゃないと第一部の語り手が誰なのかもわからないぞ。書いてもわからないか。わかんない人はSFマガジンを読もう。やはり圧倒的に凄いのは表題作だけど、最良のSFと最良の本格ミステリに共通する、「世界の見え方ががらっと変わってしまう感覚」をおそろしく高いレベルで実現した傑作です。テーマ的には、意外とグレッグ・イーガンに近くて、イーガンが科学的知見を使ってやってることを、文学的実験(主に「語り」に対する意識)を使ってやってる小説だとも言える。

 この手の文学系SFを序文でクソミソに罵倒してるのが、山本弘のSFガイドブック、『トンデモ本?違う、SFだ!』(→amazon | bk1)。作品のセレクションはたいへんまっとうで、バカSF原理主義にももちろんおおいに賛同するんですが(自分では最近こういう原稿がめっきり書けなくなってるので見習っていきたい)、なにもそんなにニューウェーヴを目の敵にしなくても。だいたいなぜニューウェーヴの代表でキース・ロバーツの名が挙がりますか? まあ、その答えは簡単で、SFマガジンのニューウェーヴ特集号(1972年9月号)に「猿とプルーとサール」が載ってるからだろうな。しかしロバーツが入るなら、賞揚されてるバリントン・J・ベイリーだってイワン・ワトスンだって、ニューウェーヴ運動から出てきた作家なんですけど。

 六本木ヒルズのヴァージンシネマで『アイ,ロボット』披露試写。こ、これはハリウッド版『イノセンス』ですか? いや、たぶん『Ghost in the Shell』を参考にしたんだろうけど(邪推)、蓋を開けると『イノセンス』とモロかぶり。クライマックスのアクションがここまで似ちゃうとは。
 もともとアシモフとはなんの関係もないSFミステリ(ロボットと三原則は登場する)の企画にI, Robotをくっつけたらしいんだけど、ネタはけっこうマメに拾ってます。「迷子のロボット」をこう使うか、みたいな。しかしUSR社長のローレンス・ロバートスンはまるでビル・ゲイツ(笑)。無線LANで常時接続したマシンを使ってる人がスマートアップデートでOSを勝手にバージョンアップさせてたらたいへんなことに――というような話ですね。「この原稿はつまらないので削除しますか? 削除しました」とかさ。
 途中のアクションはともかく、SFミステリとしては一応ちゃんと筋が通ってるので好印象。でも高橋良平(プレスシート担当)の「傑作!」という感想を先に聞いてたからなあ。ウィル・スミス主演のハリウッドSFアクション大作って看板から想像されるモノよりは数段よく出来ているという程度でしょう。アシモフ読者なら細かいところをトリヴィアルに楽しめます。

 ワーナー試写室で『LOVERS』。『HERO』が好きな人ならOKでしょう。あいかわらず美しい環境ビデオ。老けたアンディ・ラウは見ててちょっとつらい。チャン・ツィイー(婦女子は金城武)観賞用。

 UIP試写室で『ヘルボーイ』。ロシアに行くまでは傑作。素晴らしい。めちゃめちゃツボです。ヘルボーイかわいすぎ。冒頭からラスプーチンとトゥーレ協会。ほとんどクトゥルーです。新伝綺?



【7月27日(火)】


 神田駅前の喫茶店で、青土社のY氏からユリイカ8月号の見本を受けとる。うわあ、こんな表紙かよ! 写真を使うとは聞いてたけど、しかし……。まさか自分が《ユリイカ》の表紙を飾る日が来るとは思いませんでした。爆笑。オレだけ姿勢が悪くて申し訳ない(ちなみに着てるのは西島大介Tシャツです)。
 特集内容は、なんか純文学賞メッタ斬り!な感じ。周囲の橋を片っ端から焼いてまわるような佐藤亜紀のファンタジーノベル大賞原稿はとくに豪快。そんな賞だったとは知らなかったよ。しかし、「D&Dリプレイ系」って括りかたはどうかなあ。ふつうにRPGリプレイと言うほうがユリイカ的にはわかりやすいのでは(実質的には、たぶん嫌味で「D&Dリプレイ系」と書いてるだけで、『指輪物語』系異世界ファンタジーを指しているように見える)。
 中俣暁生の「全てのポップ文学を対象とする「羊男賞」の創設を提案する」は、星雲賞/ヒューゴー賞方式(コンベンション参加者による投票で受賞作を決定)のポップ文学賞提案(この文脈なら、むしろ「インターネットで選ぶ日本ミステリー大賞」なり、「本屋大賞」なりに言及すべきでは)。そのエッセイの中で、SFファンは昔は外部にも目配りしてたのに最近は閉鎖的になってるんじゃないかという話が出てきて(これについてはおおむね同意)、実例として「『吉里吉里人』には星雲賞を与えたのに、いまは阿部和重『シンセミア』を無視している」と言うんだけど、この例は無理でしょう。前者はSFだけど、後者はSFじゃないもん。「村上春樹『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』に賞を与え損なっている」という指摘のほうがまだ納得しやすい(『雪風』には勝てないと思うが)。でも、『同時代ゲーム』にだって授賞してないわけだし、星雲賞的には『吉里吉里人』が例外的。そもそもハードカバーはめったに受賞しないので、このときは日本SF大賞にひっぱられただけじゃないかなあ。
 佐藤亜紀もSFファンのジャンル意識に批判的なことを書いてるんだけど、ジャンル小説愛好者がジャンル小説意識を持つのはあたりまえのことだし(ただし、筒井康隆の実験的な小説群が「SFの内部においては忌避されていた」というのは、具体的になにを指しているのかよくわかりません)、専門誌の書評やベストアンケートや投票行動が「SFかどうか」をまず判定するのも当然の話。SFがまだ若かった頃は、既成ジャンルからはずれたものを全部とりこんできたけど(佐藤亜紀の言う「帝国主義的傾向」)、そういうSF観がSF読者の主流だったわけではなく、いまは山本弘に賛同するSF読者のほうが多いんじゃないですか。いや、今だってSFマガジンには文学系作品の書評欄がちゃんとあるし、SFの年末ベストでも、たとえば《このミス》なんかと比べると間口が広くて、評価すべき作品を評価していると思うけど、ハヤカワ、創元のSF文庫で出たものしか読まない人もいるから、全体としてプロパーSF優位の傾向が出てしまうのは仕方がない。

『ライトノベル完全読本』も出てるらしいけど、うちには届いてないし近所の書店にも置いてないのでまだ現物は見てません。というか、ゲラも見てないぞ。冲方×古橋対談なんか原稿さえ送られてこず(メールしてくださいと言ったのに)、司会の発言は削除してまとめたのかと思ったらそうでもないらしく、どんなものになっているのか楽しみです。

 ところで、ユリイカ8月号をなぜわざわざ手渡しで受けとったかというと、Z文学賞の賞金を支払うため。
島田「賞つくるんなら賞金がなきゃダメだよ。オレ、1万円出すよ」
豊崎「じゃあわたしも1万円出します」
大森「……。うちは子供も生まれたばかりなんで……じゃ、3000円だけ」
 ということで、第一回Z文学賞の賞金は総額23,000円(笑)。Y氏が各選考委員から現金で回収した賞金を受賞者の福永信氏に手渡しするらしい。

 関係ないけど、ユリイカの次の次の特集は西尾維新だとか。ユリイカよどこへ行く。
 さらにちなみに、文学賞特集と西尾維新特集を企画したY氏は、あのニール・スティーヴン特集の企画者でもある。
「あの号は記録的に売れませんでしたねえ。おかげで僕、社内的にすっかり信用なくしちゃって」
 ……。
 ……いや、文学賞特集と西尾維新特集はけっこう売れるんじゃないかな……少なくともスティーヴンスン特集よりは。


 2時からは早川書房会議室で、ジーン・ウルフ特集の『第五の首』解読座談会。ホストが柳下毅一郎、ゲストが宮脇孝雄、国書刊行会の担当編集者がオブザーバー。第一候補だった殊能将之はすげなく断ったらしい。というか、どんな依頼もたいてい断ってるみたい。新刊がもうすぐ出るからいいか。
 座談会ではどんどんネタを割ってるものの、「こう読め」とは言いたがらない人たちなので、座談会を読んですっきりできるかどうかは謎。まあしかし、このウルフ特集にはついに! かのSeven American Nightsが載るので(浅倉久志訳)マストバイ。しかし早川書房はSFマガジンで特集なんか組む以前に《新しい太陽の書》をなんとかしろと以下略。

 bk1でウルフ特集が組まれなかったのは、発売予定がずるずる延びて予約受付ができなかったせいだとか。柳下毅一郎の罪は意外と重い(笑)。

 新潮社の『鉛のバラ』担当者からメール。高倉健が週刊新潮読んでて、丸山健二に「いい書評だったね」と言ったらしい。おお、高倉健に原稿を読まれるとは。これからはとくに健さんに向かって原稿を書いていきたい。




【7月28日(水)】


 ロッキンオン《SIGHT》編集部@渋谷で北上次郎と書評対談。今回は小説ばっかりで、
北上推薦『ぼくは悪党になりたい』『青い空』『太陽と毒ぐも』、大森推薦『蹴りたい田中』『剣と薔薇の夏』『空の境界』、編集部推薦『荊の城』『空中ブランコ』『ダ・ヴィンチ・コード』というラインナップ。著者名がぜんぶわかった人は相当な小説通。ぜんぶ読んでても著者名がちゃんと書けなかったりして(笑)。

 この対談はロッキンオンで単行本化される予定。というか、本の雑誌社が単行本化したいと申し入れたら、ロッキンオンが「うちでやります」と回答、今日は単行本の担当編集者Y氏に紹介されました。ロッキンオンから本が出るとはねえ。世の中なにが起こるかわかりません。目指せ渋松対談?



【7月29日(木)】


 日本民間放送連盟賞CM部門の選考会。なぜそんな立派な賞の選考委員に呼ばれたのかさっぱり謎ですが、会場に半日すわってCMを視聴するだけでいいですからと言われて引き受ける。なのにうっかり時間をまちがえて15分遅刻したところ、選評まで書かされることに。とほほ。
 あとの選考委員は、武蔵美の柏木博教授、早稲田の亀井昭宏教授、高橋章子さん、《宣伝会議》の田中里沙編集長という錚々たる顔ぶれ。ますます場違い。
 地方のTV局ラジオ局が製作したエントリ作品(ラジオ、TV合わせて100本ぐらい)を会議室で流し、その都度、手元の紙に採点(10点満点)を記入。集計結果をもとに討議して、最優秀作品と優秀作品を決めるシステム。1点とか2点とかばんばんつけてたら、他の方々だいたい6点以上ぐらいをつけてるんでした(笑)。それじゃ差がつかないじゃん! まあしかし、最優秀作品に関しては、さすがに全員の意見がほぼ一致します。意外と正反対ってことにはならないもんですね。
 初対面の人ばかりだったんだけど、高校時代はこれでもたまに《ビックリハウス》買ってたので、ナマ高橋章子にはひそかに感動。おお、テレビだけじゃなくて、プライベートでも機関銃みたいにしゃべるんだ! っていうか口をはさむ隙がない! 質問されて答えを考えてるうちに、もう三つぐらい先の話題になってるぞ! しかしその高橋章子さんと、オレはなぜ子供の手足口病の話とかしてるんでしょうか。不思議すぎる。
 もうひとつ驚いたのは、牛丼のCM審査のときに柏木先生がなにげなく口にした一言、「僕は牛丼って一回も食べたことがないからよく知らないんだけど……」。
 柏木さんって、牛丼とかバンバン食べそうな人だと思ってたのに。高橋さんも驚いてました。



【7月30日(金)】


 小説すばるの書評原稿。お題は長嶋有『パラレル』。傑作です。ゲームファンと離婚経験者とキャバクラ愛好者はとくに必読。10歳以上も年下の人が書いた小説とは思えない。いちばん好きなのは『相撲物語』(やってないので推定)の出てくる一節かな。米光さんがどんどん引用したくなる気持ちがよく分かります。ていうか、この「僕」は米光さんにしか見えないんですけど。ねえ。

 昨日から、「Amazon (associates@amazon.co.jp)様からあなたにAmazonギフト券が贈られました!」というメール(文面はぜんぶ同じ)がどんどん届く。すでに40通ぐらい。これがぜんぶギフト券なら大儲けなんだけど、ギフト券の告知だからなあ。いいかげんにしてよとメールしたら、しばらくしてようやくお詫びメールが。アソシエートの紹介料支払いをギフト券にしてる人全員に何度も送られてた模様。

『ライトノベル完全読本』、まだ届かず。




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