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●豊崎由美/大森望『文学賞メッタ斬り!』、3月18日刊行予定(→amazon | bk1 | ABC)。ISBN:4-89194-682-2
4月1日、青山ブックセンター本店で『メッタ斬り』トークショー。電話予約受付中。定員120名・入場料500円(税込・当日精算)。
『文学賞メッタ斬り!』公式サイトできました。「業界人50人に聞く文学賞アンケート」など独自コンテンツも続々増強中。
●コニー・ウィリス『犬は勘定に入れません』、4月中旬刊行予定(→amazon | bk1)。ISBN:4-15-208553-3
●シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』(河出書房新社1900円)発売中→bk1 | amazon


【3月10日(水)】


『犬』に続いて、SFマガジン用ウィリス短篇のプリントアウト校正が終わり、やっと一段落したので《本の雑誌》用読書。
 今月は勝手に海外SF特集(なので日本SFは入りません)。軸になるのは(書籍では)本邦初紹介トリオの以下の三冊。

●ロバート・リード『地球間ハイウェイ』(ハヤカワ文庫SF940円)★★1/2
●ピーター・F・ハミルトン『マインドスター・ライジング』上下(竹川典子訳/創元SF文庫各780円)★★1/2
●ケリー・リンク『スペシャリストの帽子』(金子ゆき子・佐田千織訳/ハヤカワ文庫FT840円)★★★★

 リードは1956年生まれ、ハミルトンは1960年生まれ、リンクは1969年生まれ。(比較的)若い女性作家を贔屓にするわけじゃないけど、中では『スペシャリストの帽子』がいちばんいい。
 しかしこれ、《奇想コレクション》みたいな叢書で出したほうがよかったんじゃないかなあ。《プラチナ・ファンタジイ》のラインナップ自体が、いまの文庫では非常にむずかしい線を狙っているような感じ。この媒体で柴田元幸推薦がどの程度の効果を発揮するのか。現代文学方面のお客さんがついてくれれば万々歳なんだけど。
 すばらしいと思ったのはネビュラ賞受賞作の「ルイーズのゴースト」。SFMに「地獄とは神の不在なり」といっしょに載った作品(2003年3月号)ですが、この号はチャンしか読んでなかったのだった。失敗。
 しかし考課表を見ると、採点トータルは-0.15。なんだそりゃ。ちなみに「私の友人はたいてい三分の二が水でできている」は-0.21、「キャノン」は+0.42。うーん。
 「SFファンは小説ってもんがわかってないよね」とか言いたい人は『スペシャリストの帽子』を読むと吉(笑)。
 そういえば、柴田元幸先生いわく、「学生にケリー・リンクを読ませると、出来のいい学生はみんな面白いっていうんだよね」(大意)
 つまりSFマガジン読者は出来の悪い学生なのか(笑)
 いや、短篇集の中にはどこが面白いんだかよくわかんないのも混じってますが、表題作はスタージョン/ブラッドベリの感覚で、「人間消滅」はティプトリー/鈴木いづみの感覚で、「ルイーズのゴースト」は川上弘美の感覚で読めると思う。ていうか、「朝日新聞の書評欄で川上弘美が書評する」に3000ガバス。『燃えるスカートの少女』より断然上でしょう。会話がめちゃくちゃうまくて惚れますね。(とくに「ルイーズ」)

『地球間ハイウェイ』は、伊藤さんはB+評価だったそうだけど、オレはB−かな。原書で読んだ山岸真はC評価だったらしい。検討されずに埋もれてたんじゃなくて、検討されたうえで(未訳山脈に)埋もれていた模様。
『マインドスター・ライジング』は、部分的に非常に面白いんだけど、スピード感に欠けるのが致命的。10年ぐらい前のこの手のSFがいちばん古臭く見えるのかもなあ。

●タニス・リー『バイティング・ザ・サン』(環早苗訳一二八〇円)★★★
 ぐらい古くなると、ひとまわりして逆に新鮮。とくにDon't Byte the Sunのほうね。しかしこれまた『都市と星』系。「ドーム都市SFの系譜」を研究したくなります。

●ジョン・アップダイク『終焉』(風間賢二訳/青山出版社)★★★1/2
 これは意外に面白かった。スケベで根性曲がりで意地悪な主人公がすばらしい。筒井康隆みたい。ありがちな近未来(ポストホロコーストもの)かと思いきや、おまえはイーガンか! みたいなネタが中盤で炸裂。しかしそれとは関係なく話は進む。

●オラフ・ステープルドン『最後にして最初の人類』(浜口稔訳/国書刊行会2800円)
 これの評価はパス。ドゥーガル・ディクスンの本といっしょに読むとバランスがとれるんじゃないかと思いました(笑)。



【3月11日(木)】


 上戸綾版『エースをねらえ』最終回。

 加野瀬氏から『卒業』の件についてコメント→「新人類トリオによるアイドル評論の当時の文脈 」
人と話していて気付いたこと。エロゲーを哲学と絡めて語る人々(僕は「エロゲー論壇」と呼んでますが)がいますけど、もし10年後ぐらいにエロゲー論壇の人たちが「あれは当時からギャグとして受容されていた」と語ったら、それダウト!と思う訳で、同じような違和感を大森望氏の指摘に感じました。
 自分たちの好きなアイドルやエロゲーを語るために哲学を持ってきているというのは、かなり似たメンタリティから発生しているように思えるのです。
という指摘は、なるほどねーと納得。オレはエロゲー論壇の人とはつきあいないけど、つきあいがあったらたぶんギャグだと思って聞くだろうなあ。ギャグとしてよくできてたら感心するだろうし。
 たとえばe-NOVELSの週刊書評で笠井さんが『イリヤの空、UFOの夏』をとりあげたとき、いきなりレヴィナスの「イリヤ」を持ってきて強引につないでるんですが、これなんか最高によくできたギャグだと思って爆笑しました。それはだれも考えつくまい、みたいな。
 でも笠井さんがギャグだと思って書いてるかどうかはよくわからないし、e-NOVELSの読者がどう思ったかもわからない。それと同様、田口賢司はギャグだと思って発言してたと(当時のオレは)思ってたけど、ほかの人がどう思ってたかは謎。
 笑いのネタとして受容されるかどうかは受容する人次第で、大森が個人的に笑いのネタとしてOKを出しがちな傾向があることは認めます(ID4とか『コズミック』とか)。
 しかし「ヘーゲル大好き 松本伊代」はどう考えてもネタだと思うけどなあ。ネタをつくるために松本伊代(本物)にサインさせて、その写真を載せることまで含めて。たとえば松浦亜弥に「スタージョン大好き 松浦亜弥」とサインもらった人がいたら神と呼ばれるにちがいない。そういう問題じゃないか。



【3月12日(金)】


《本の雑誌》原稿。
 《スターログ》の連載用に『ZOMBIO 死霊のしたたり』をレンタルビデオで再見。18年前に出たベストロン版で、冒頭に「エンパイア・ピクチャーズ予告編集」つき(笑)。
 思わず1986年の第二回東京国際ファンタスティック映画祭を回顧する原稿になってしまう。しかし『ZOMBIO』は、はやく日本版DVD出してほしい。傑作なのに。

『文学賞メッタ斬り!』の見本がバイク便で到着。この本のために最初にPARCOで対談したときから数えると半年がかりの仕事なんで、感無量。
 これが売れないと、(大森やトヨザキさんはともかく)編集担当のアライユキコさんやPARCO出版のM川さんにあまりに申し訳が立たないので(とくにアライさんは、かけた時間と労力からいうと現状は完全に持ち出しだと思う)、なんとか『蹴りたい背中』の百分の一ぐらいは売れてほしい(笑)。この本に関する取材・原稿等は(トヨザキ社長ともども)一切断らない方針なので、なんでもどうぞ。
 この日記を読んでる人は、文学賞に興味があってもなくても買いましょう。とくに編集者および出版業界関係者は必携。「メフィスト賞正賞の謎」とか「徳間・早川裁判の真相」とかもわかります。

 4月1日の『メッタ斬り』トーク@ABCも電話予約受付中。定員120名・入場料500円(税込・当日精算)。予約の出足はまずまず好調らしいので、おはやめにどうぞ。招待枠もあるので、「行くかも」という関係者は大森宛に電話/メールしてください。終了後は21:00より、トヨザキ組、アライ組との合同宴会開催予定。宴会のみ参加の人もどうぞ。あと、『メッタ斬り』巻末の「文学賞の値うち」で70点以上を獲得した本とトヨザキ/大森のその他の推薦図書を集めたフェアも開催される模様。

 森博嗣『四季』完結編の『冬』を読む。なるほどねえ。つまりこれはぜんぶ合わせて(《S&M》と《V》と《百年》と短篇の一部も)森版『ポーの一族』だったんですね。真賀田四季がエドガーで西之園萌絵がメリーベル。ていうことは、犀川創平がアランなのか? ちょっといやかも。
 間にはさまる短篇が(叙述トリック的な)ひっかけ問題になってるところも秀逸で、この周到さには脱帽するしかない。頭の中で積み残してあった疑問点とか違和感が《四季》でどんどん解消してゆくのは爽快でした。シリーズ全作読んでる人へのご褒美みたいな。
 しかしこれ、賞の候補にはしにくいよねえ。30冊近く読まなきゃいけないもんなあ。



【3月13日(土)】


 仕事を一段落させてから本郷のMYSCON V。高田崇史氏とは初対面。たいへん真面目そうな方に見えましたが、そのあとめちゃめちゃ飲んでたらしい。
 すれ違いつづけていたスズキトモユ氏とも初対面の挨拶。小説も変わってるけど本人の芸風もかなり変わってると思った。どっちも好きだけど。
 恒例の全体企画は「風が吹けば桶屋が儲かる」ネタだったんですが、それについてしゃべってるときに出てきた、「鶏の大量死から、鶏のあいだで本格ミステリがブームになる」というネタはかなり好き。地面の穴に埋められた名もなき二十万羽のニワトリの無名の死を前にして、死を特権化する試みが……。
 問題は、霞流一がすでに鶏ネタを書いちゃってることだな。

 しかしひさしぶりに会った滅・こぉる氏はずいぶん大きくなっていたことである。成長期?

 夜中の突発企画は戦隊物の寸劇。推理戦隊MYSCON-Vだっけ。芝居のレベルは飛躍的に向上してましたが(とくにレッドの人)、ネタの練り込みがもうちょっと。ピンクの「萌え」はいいとして、イエローはふつうハードボイルドでしょう。必殺技はワイズクラック・ビーム。ていうか、まずジャーロと呼んでほしい。あとはブラックを出してノワール・レンジャーね。当然、しゃべりはぜんぶエルロイ文体。内輪受け的には古本レンジャーも必要かと。
 浅暮三文がオレに演出させろとわめいてましたが、台本のミステリネタは大森にチェックさせてほしい(笑)。松本楽志はもっと修行するように。

 大広間では都筑道夫について語り(日下三蔵の隠し玉企画が披露され、一堂歎声。実現には諸般の問題がある気もするけど)、あとは百三さんと森博嗣について意見交換とか。森博嗣全作品読んでる人がまわりに少ないので勉強になります。

 3時ごろに旅館を抜け出し、本郷三丁目のマンガ喫茶で仕事してから始発帰宅。



【3月14日(日)】


 黒丸さんの命日の会@芝パークホテル。中華料理《新北京》のオーダーバイキング。フカヒレがちょっとどうかと思うような生臭さを醸し出していた以外はまあまあですか。海老団子入りのスープがうまかった。

『文学賞メッタ斬り!』の見本を持っていったところ、小浜徹也@東京創元社から早速ミスを指摘される。『ノヴェレスト』は二人称じゃなくて死人称だったらしい(笑)。
 あと、日本SF大会で参加者数の最多を記録したのは、DAICON IIIとIVじゃなくて、IVとVだった模様。調べようと思えばすぐ調べられたことなんですが、間違ってたらすぐ突っ込まれるからいいやと思って、調べずに放っておいた(記憶だけでしゃべって、ウラをとらなかった)ところ。突っ込みどころはほかにもたくさん残ってるはずなので、どんどん突っ込んでください。そのうち正誤表ページをつくらなきゃな。

 パークホテルのラウンジで夕方までうだうだして、三村美衣と浦和美園へ出発。南北線・後楽園駅で柳下毅一郎と合流し、エスニック屋台を冷やかしつつ埼玉スタジアムへ。
「UAEがそんな強いわけない」と言ってたら、レバノンと引き分けですか。これでバーレーン戦は無理して勝つ必要もないか。今日勝っちゃうと残りが消化試合になるねえ。
 と思ってたら、前半はいきなり引き分け狙いみたいなダラダラ試合。むなしく時間だけが過ぎてゆく。バーレーンのゲームプランどおりじゃないの、これ? 前田を先発で使った意味はどこに? トゥーリオの退場から、さらに暗雲が漂いはじめる。やる気あんのかこら。それとも、絶大な威力を発揮した恐るべき細菌兵器の後遺症なのか?
 考えたら、日本代表の試合を三村美衣と並んで観戦するのは初めてなんだけど、口汚い罵倒の数々に驚愕する。タイガースファンのおっさんがジャイアンツの選手を罵るような調子でバーレーンの選手を野次り倒す。
「つまみだせー! 帰ってくんなー! 一生寝てろ!」などなど。
 この人とタイガースの試合を見にいくのだけはやめようと思いました。

 ふたりだけで攻めるバーレーンの作戦は徹底してて、ディフェンスは球際にたいへん強い。ミドルシュートとかアーリークロスとかで攻めるしかないだろうと思ったのに、漫然とボールを持ち込んでつぶされるののくりかえし。
 しかしまあ、点をとられそうなムードは全然ないし、今日は0−0でいいかと思っていたところ、後半のアタマから変身。急にやる気出してます。田中達也はもっと誉められていいと思う(UAE戦で1得点1アシストだったのに、翌日のスポーツ紙で平山が一面だったのはアタマに来た)。
 しかし、攻めまくった後半開始15分間で点が入らず、悪い予感が漂いはじめたところでFKからまさかの失点。まあ、こんな日もあるさ。
 と五輪代表に関しては妙にやさしい気分になっちゃうのは、90分ずっとだらだらやってるわけじゃないからかなあ。どんなにダメな試合でも10分ぐらいは見せてくれる。予選敗退してもしょせんオリンピックだと思えば腹も立たない。
 しかしどうせなら、フル代表がオマーン戦に負けて、五輪代表がこの試合に勝つほうが公平だと思いますが、サッカーの神様は公平じゃないからな。

 スタジアムからの帰り道は、こないだのオマーン戦がウソのようにスムーズな流れ。10時前には浦和美園駅に到着し、前回より50分ぐらい早かった。

 まっすぐ帰宅して、チャンピオンズリーグのレアルマドリ×バイエルンミュンヘン。ジダンの曲芸が冴え渡り、ほとんどワンマンショー。バイエルンは、バラックの影が薄かった反面、初めて見たバスティアン・シュヴァインシュタイガーがすばらしかった。1984.8.1生まれだそうで、Uー19欧州選手権で準優勝したドイツの中心選手だったらしい。この人はドイツW杯の星になるんじゃないですか。その前にオリンピックか。



【3月15日(月)】


 徳間書店《アニメージュ》編集部から、『イノセンス 押井守の世界 Persona』について謝罪の電話。署名原稿の再使用に関しては、「執筆者の了解をとる」「見本誌を送る」「再使用料を払う」という方針だったのに、編集部内の連絡ミスで申し訳ありませんでした――という趣旨。まあ予想されたような事情ですね。
 文句は日記に書いて発散しちゃったし、書いたことも忘れていたような原稿だから(《SFJapan》に『イノセンス』の原稿を書くとき、「そういえば『Ghost in the Shell』に関してはなんにも書かなかったんだよな」とぼんやり思ってたくらい。原稿フォルダ全体にgrepをかけられない不具合がだんだん深刻な問題になりつつあるかも)まあいいや。

 今日から本格的に、『ホーンテッド・マンション』のノベライズ300枚に専念。4月に出る本(竹書房文庫)なんですけど、大丈夫なのか。しかも原書はなくて、David Berenbaumのシナリオからの小説化。ほとんど辞書引かなくていいから楽と言えば楽か。




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