「違う太鼓」上演台本 1幕6場

    2003年11月18日〜11月23日  新宿タイニィアリスにて公演


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第4場   二月十八日 

      トモの部屋。テーブルは取り払われていて、舞台中央にしゃがん
      で腰を下ろそうとするトモ。マサは椅子に座っている。

マサ ちが〜うよ! 真っ直ぐ腰下ろすんだよ。
トモ 真っ直ぐ下ろしてるわよ! 
マサ 真っ直ぐじゃないだろ、それじゃ。そんなんじゃチンコはずれちゃうだ
   ろうが。
トモ やったことないんだからしょうがないじゃないよ!
マサ だから真っ直ぐ下だよ。相手のチンコ手に持って、垂直に下ろすんだよ。
   そん時、コンドームがちゃんと付いてるかチェックすんの忘れんなよ。
トモ こうね。
マサ そうだよ。で、相手のチンコが入ってきたなって思ったら、ケツの穴の
   力抜くんだよ。
トモ 抜くってったて、どうやって抜くのよ。緊張してんのに。
マサ ウンコひり出す時みたいに緩めりゃいいんだよ。
トモ そんなことしたらウンコ出ちゃうかもしんないじゃないよ。
マサ バァカ! だから前にちゃんとシャワ浣しとくんだよ。
トモ なによ、シャワ浣って。
マサ そんなことも知らないのかよ。シャワーでする浣腸のこと! シャワー
   のヘッド取って、ケツの穴からお湯入れて直腸内を濯ぐんだよ。
トモ 濯ぐって、そん時出ちゃったらどうすんのよ。シャワー室でそんなこと
   できないわよ!
マサ その前に便所行って、ちゃんと 直腸、空にしとくの!
トモ エッチするのにそんなことまでしとかなくちゃなんないの?
マサ あったり前だろ! ウケはみんなそうやって見えない努力してんだよ。
トモ なんか大変なのねぇ。ねぇ、休んでいい? 足がガクガクしてきちゃ
   った。
マサ 勝手にしろよ。
トモ ねぇ、トイレ行っとくのはいいとして、そのシャワ浣ってどうやるの。
マサ もう、一から教えなきゃなんないんだから〜。ちょっと、そのぬいぐる
   み取って。
トモ え? どれ? マサちゃんでいいの? 
マサ ぬいぐるみに俺の名前つけんなよ〜!
トモ マサカズじゃないの。マサユキっていうの!
マサ じゃ〜、マサユキって呼べよ! 自分が呼ばれているみたいで気持ち悪
   いだろうが!
トモ マサユキちゃん、覚悟して。出番よ。(とぬいぐるみをマサに渡す)
マサ (ぬいぐるみのお尻を自分に向けながら)ここがケツの穴だとすると、
   ここにシャワーのヘッド取ったものを軽く当てるんだよ。軽くでいいん
   だからな。何もつっこまなくてもいいんだよ。で、お湯の量をあんまり
   勢いよく出ないようにしておいて、軽く当ててから、ケツの穴緩めるん
   だよ。そうするとお湯が入ってく感覚がするから、そしたら中に入った
   お湯を力んでを出すんだよ。それを2〜3回繰り替えしゃ大丈夫だよ。
トモ どうやってお尻の穴緩めるのよ。
マサ だから〜、ウンコひり出す時の感じって言っただろ。そういう風にする
   とケツの穴は緩むんだよ。そうすりゃすっとお湯が入ってくんだから。
トモ (情けなさそうに)わかったわ、後でやってみる。
マサ そんなことより入れる時の方が大変なんだから、そっちの練習の方が重
   要なんだよ。ほら、もう一回やって。(上向きに寝る)
トモ え〜、まだやんの〜? こんな実技指導してもらわなくても相談に乗っ
   てもらうだけで十分だったのに。
マサ 別にやめたっていいんだよ。困るのは俺じゃないんだから。
トモ あ〜た、こういうことになると元気よね。(とマサの腰の辺りをまたいで、
   しゃがむ)
マサ ほら、真っ直ぐ下ろして。
トモ はい、先生。(と斜めに腰を下ろす)
マサ 違うって真っ直ぐって言っただろうが。わかんねえ奴だな。
トモ もういい! こんなことまでしたくない。(と離れて、溜息つきながら側
   に正座する。すごくしょげた感じ)
マサ (上体を起こして)お前が教えてくれっていったんだろうが。こっちだ
   って好き好んでやってるんじゃないよ。まったく。
トモ でもなんで上からまたがなくちゃなんないの? これじゃ連戦錬磨のプ
   ロみたいじゃないの。
マサ だから言っただろう! 自分が上になって入れた方がペースをコントロ
   ールしやすいから痛みが少ないんだって。こっちの方が初心者向けなん
   だよ!
トモ なんか不自然なのよ、こういうのって。
マサ そんなこと言ったら、野郎同士がセックスすること自体が不自然なんだ
   よ!
トモ あ〜、疲れた。喉渇いちゃった。冷たい茶持ってくるわね。(と立ち上が
   って下手にさる)
マサ (トモに向かって)ビールかなんかないの? 素面じゃやってらんない
   よ。
トモ (戻ってきて)僕、家じゃ飲まないから、ないの。
マサ 気がきかないんだから。
トモ (お茶を出しながら)おっしゃるとおりです。
マサ (お茶を飲んで)だいたいお前、セックス甘く見てんだよ。長く付き合
   いたいとか言ってるけどさ、セックスうまく行かないでどうやって付き
   合っていけんだよ。
トモ (お茶を飲む)…。
マサ (お茶を飲んで)相手二十三だろう? 自分でも「やりたい盛りなんだ
   から〜」って言ってたじゃないか。年とかはさ、最初から分かってるん
   だから、相手も気にしてないってことだろうよ。でもさ、セックスはう
   まく行かなきゃ気持ちも離れていくもんだよ。相手がやりたいってこと
   に応えられて始めてセックスは成り立つんだから、なんでもできるよう
   じゃなきゃダメさぁ。向こうだってまさかお前がバック初めてだとか思
   ってないんだろ? 
トモ (頷く)でも……抱き合ってるだけじゃだめなのかしら? 僕はそれが
   一番楽しいのよ。
マサ お前さぁ、中学生じゃないんだから、何にもしないで抱き合ってるって
   わけ行かないんだよ。いい年した中年がさ、抱き合っていたいだけだな
   んて言ったら、相手が気持ち悪がるよ。自分からまたがってケツマン使
   ってる方がよっぽど絵になるんだよ。
トモ だけど嫌なものは嫌なのよ!
マサ じゃ、もう勝手にしろ! お前みたいにウジウジしてばっかりで、セッ
   クスは退屈で、どっから見てもオバサンで、そんな奴にいつまでも付き
   合っていたいなんて奴いないよ。もう止めちまえ、止めちまえ。どっち
   にしろ先は見えてんだから。お前さ、よ〜く考えても見ろよ、ホモって
   のは男が好きなんだぜ。それがなんでオバサンと付き合いたいって思う
   んだよ。そいつも結局、援助交際のつもりでお前と付き合ってるに違い
   ないんだよ! 

      トモかなり長い間じっと下を向いたまま動かない。

マサ おい、どうしたんだよ。悪かったよ。少し言い過ぎたよ。おい、トモ。

      トモ、マサのことをじっと見る。

マサ (耐えられなくなって)おい、やめろよ。怖いよ。お前全然オバサンっ
   ぽくないよ。ホント、ホント。そうやって睨んでると、どっから見ても
   怖いおじさんだよ。おい、頼むよ〜〜!

      トモ、また下を向いて、ポツリポツリ話し始める。

トモ ホントは自分で何もかもわかってるのよ。(間)ヒ
   トシ君と一緒にいても、そんなに楽しいわけじゃないの。どんなに不釣
   り合いかってこともよく分かってるの。どこかでいつもビクビクしてる
   のよ。この子は勘違いしてるんだわって。こんなオバサン好きになるな
   んておかしいもの。
マサ そんなこと気にするなよ。俺はちょっと意地悪で言っただけなんだから。
   ヒトシ君ってホントにお前のこと好きだって感じじゃないか。
トモ 問題は僕の気持なの。僕は。僕はね、あなたのことが好きなのよ。初め
   めて会った時からずっと。でも、マサは誰かと付き合う気はなさそうだ
   し、僕のこともタイプじゃなさそうだし。だから、二度目のデートで友
   達になろうって言われてからは、割り切って、友達として楽しくやって
   きたつもりなんだ。僕は若い頃から一人に慣れていたから、マサの気ま
   ぐれなペースの付き合い方も僕には快適だったくらいなの。そうやって
   割り切ってたはずなんだけど、ホントの気持は消せなかった。このまま
   友達でいたらいつか…なんて、夢みたいなことを考えてもいたの。バカ
   よね。そんなことあるはずないのに。
   でも、最近そんな自分が嫌になってきちゃったの。いつもどっか自分を
   ごまかして生きているような気がして。僕ね、脳梗塞を起こしてからい
   ろんなことを考えた。マサのこと、仕事のこと、生きるってこと。明日
   死んじゃうかも知れないんだから、もっとちゃんと生きていきたいって。
   でも、どうやったらいいのかわからなくて。イライラして、結局マサに
   当たり散らしたこともあったよね。思い切って一から出直してみようっ
   て、ネットの出会いも試してみた。だけど、あなたのことちゃんと整理
   させないで先に行こうなんて無理な話なのよね。これじゃヒトシ君にも
   申し訳ないわ。
  (間)僕ね、ハッキリ分かったの、自分の欲しいものが。脳梗塞の時、マ
   サはホントに良くしてくれた。入院中も退院してからも。そんなマサ見
   てて分かったの、僕は何を欲しかったか。僕、この気持ちをマサに隠さ
   ずに伝えるって心に誓ったんだけど、結局言えず終いだったんだよね。
   でも今日はここまで言えたから、ちゃんと言うね。
   僕は、あなたとちゃんと向き合って二人で生きていきたいの。ねぇ、マ
   サ、僕と付き合うのって無理なことかしら。
マサ (かなり間)え〜〜〜、付き合うって…。今さら俺たちセックスとかで
   きないよ。
トモ そんなことどうでもいいのよ。僕はもともとセックス好きじゃないんだ
   もの。あなたが他でセックスしたいんだったら、僕にわからないように
   やってくれたらいいのよ。
マサ そんなんで付き合ってるって言えるわけ?
トモ だってあなたいつも言ってるじゃないの、セックスなんて2〜3回やっ
   たら飽きちゃうもんだって。
マサ だからって最初からなくていいってもんじゃないだろ。
トモ 僕たち一度やってるんだもの、僕はそれで十分なの。世の中の夫婦だっ
   て、長年連れ添ってたらセックスなんてなくなっちゃうわけでしょ。
マサ なんか無理あるんじゃない? なんかおかしいよ、それって。
トモ 無理なのかもしれない、おかしいのかも知れない。でもどんな風に見え
   るかなんて僕にはどうでもいいの。あなたにその気があるかどうかだけ
   が知りたいの。それさえ聞けたら、僕は今までの中途半端な人生にケリ
   をつけられるの。
マサ …。
トモ (間)お願い、ノーだったらノーでいいから答えて。そうすれば…、そ
   うすれば…。(急に泣き出す)
      
      マサしばらくトモを見ているが、急に立ち上がってティッシュを
      取ってきてトモに渡す。

マサ ほら、泣くなよ。
トモ (涙を拭いて、鼻をかみ、しゃっきりする)ごめんなさい。こんな話聞
   きたくなかったわよね。
マサ 俺、お前がそんな気持ちでいたなんてわかんなかったよ。お前にずいぶ
   ん辛い思いをさせて来ちゃったんだよね。済まない。悪かったよ。
トモ 悪かったなんて言わないでよ。
マサ ごめん。でもさ、お前、俺のこと買い被ってるんだよ。お前、脳梗塞に
   なってから、情緒が不安定になってるんだよ。だからそんな風に思い詰
   めちゃったんだよ。だいたい俺って誰かと付き合うには冷たすぎるんだ
   よ。お前だってよく知ってるじゃん。自分勝手で、ワガママで、大人に
   なりきってないような中途半端な男なんだよ。そんな俺と付き合いたい
   って思うなんて、どうかしてるよ。しっかりしてくれよ。お前にはヒト
   シ君っていう、お前を本気で好きだって言ってくれてる若い子がいるじ
   ゃないか。な、セックスだってホントにやりなくないことはやらなくた
   っていいんだよ。
トモ さっき言ってたこととずいぶん違うじゃないよ。
マサ 俺って意地悪だからさ、ついいじめたくなっちゃうんだよ。だいじょぶ、
   だいじょぶ。ヒトシ君に正直に言ってみな。そうすりゃヒトシ君だって、
   お前が楽しくないことなんてするわけないさ。
トモ そうかしら。
マサ そうだよ、そうだよ。トモはさ、今日疲れちゃったんだよ。変なことや
   らされちゃったからさ。お前は今日はもう寝ろよ。な。明日になれば気
   分が直ってるから。
トモ …
マサ さて、俺、帰るわ。あ、今度シャワー浴びる時はシャワ浣やってみろよ。
   覚えときゃいつか役に立つかもしれないんだから。
トモ …
マサ (帰り支度をしながら)ま、また気持ちが変わって、なんか教えて欲し      
   くなったらいつでも来るからね。それじゃ。おやすみ。

      マサ下手に去る
      トモ、しばらくじっとしているが、ぬいぐるみを拾って抱きしめ
      る。





トモ 僕が変わるしかないのかもねぇ…。

      暗転




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