「あ〜、処方箋ね。」オヤジはまるで俺の質問を待っていたかのような
余裕の表情でA4の説明用紙の2枚目をめくった。そこには大きな文字で
「処方箋発行依頼のための個人情報欄」
と書かれており、身長、体重などの他にいくつかの質問が用意されている。
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心臓疾患はありますか? はい いいえ
糖尿病の治療をしています? はい いいえ
血圧降下剤を服用していますか? はい いいえ
ニトログリセリンを服用していますか? はい いいえ
現在医師の治療を受けていますか? はい いいえ
過去に重大な既往症がありますか? はい いいえ
性的不能あるいは能力の低下を自覚して
からどれくらいになりますか? 6ヶ月未満 1年未満 2年未満
3年未満 3年以上
ご自分はストレスが溜まりやすい性格だと思いますか?
はい いいえ
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その下に、送り先の住所、名前、郵便番号、電話番号などを書く欄がある。
おいおい、こんなアバウトでいいのか? と思って首を傾げていたら、
オヤジはまたも俺の心を見透かしたようにこう言った。「全員の処方箋なんか
作ってる時間あるわけないんだから、大体大丈夫かどうかだけをチェックすれば
いいの。雑誌とかでご存じだと思うけど、このへん(と、心臓疾患からニトロの
質問の辺りを指さして)に該当する人はちょっと危ないけど、それ以外なら
先ず大丈夫だよ。」
おーい、そんないい加減さでお前の方こそ大丈夫か? 俺は思わず、「こんな
程度で大丈夫なんですか?」と聞いていた。「大丈夫、大丈夫。」オヤジは
事も無げに言う。尤も、ここで買ったバイアグラを服用して何かあっても、この
店が責任を取るはずもない。しかしそもそも、本物なんだろうな、ここのバイアグラ。
店の奥からおばさんが覗く。その顔は「この人ひやかしじゃないの?」という
表情だ。もちろん俺はひやかしなわけで、どんな事があっても今日この場で
即決して買う気はないし、それだけのお金も手元にない。俺はオヤジの顔を見て、
おばさんの顔を見た。「あなた達もバイアグラ使ってるんですか?」という質問
が喉まで出かけたが、やめた。
つづく。
著作者:田中H