「バイアグラここで買えます (1)」



「あ〜、処方箋ね。」オヤジはまるで俺の質問を待っていたかのような
余裕の表情でA4の説明用紙の2枚目をめくった。そこには大きな文字で

        「処方箋発行依頼のための個人情報欄」

と書かれており、身長、体重などの他にいくつかの質問が用意されている。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

心臓疾患はありますか?        はい  いいえ
糖尿病の治療をしています?      はい  いいえ
血圧降下剤を服用していますか?    はい  いいえ
ニトログリセリンを服用していますか? はい  いいえ
現在医師の治療を受けていますか?   はい  いいえ
過去に重大な既往症がありますか?   はい  いいえ
性的不能あるいは能力の低下を自覚して
からどれくらいになりますか?     6ヶ月未満 1年未満 2年未満
                   3年未満  3年以上
ご自分はストレスが溜まりやすい性格だと思いますか?
                   はい  いいえ

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

その下に、送り先の住所、名前、郵便番号、電話番号などを書く欄がある。

おいおい、こんなアバウトでいいのか? と思って首を傾げていたら、
オヤジはまたも俺の心を見透かしたようにこう言った。「全員の処方箋なんか
作ってる時間あるわけないんだから、大体大丈夫かどうかだけをチェックすれば
いいの。雑誌とかでご存じだと思うけど、このへん(と、心臓疾患からニトロの
質問の辺りを指さして)に該当する人はちょっと危ないけど、それ以外なら
先ず大丈夫だよ。」

おーい、そんないい加減さでお前の方こそ大丈夫か? 俺は思わず、「こんな
程度で大丈夫なんですか?」と聞いていた。「大丈夫、大丈夫。」オヤジは
事も無げに言う。尤も、ここで買ったバイアグラを服用して何かあっても、この
店が責任を取るはずもない。しかしそもそも、本物なんだろうな、ここのバイアグラ。

店の奥からおばさんが覗く。その顔は「この人ひやかしじゃないの?」という
表情だ。もちろん俺はひやかしなわけで、どんな事があっても今日この場で
即決して買う気はないし、それだけのお金も手元にない。俺はオヤジの顔を見て、
おばさんの顔を見た。「あなた達もバイアグラ使ってるんですか?」という質問
が喉まで出かけたが、やめた。

つづく。

to be continued...

著作者:田中H




バイアグラここで買えます(3)へ

「田中H作品集」に戻る