「バイアグラここで買えます (3)」



俺の気持ちとは裏腹に、オヤジは完全に俺が買うと思っているらしい。
更に奥から一枚のA4の紙を出してきた。その紙にはウダウダといろいろ
書いてあったが、要約するとこういうことだった。

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代金引換便はアメリカからの直送便では扱えないため、便宜上一度
当店に配送し、それから国内便で送り直すことになります。その際に、
当該商品が当店の輸入品ではなく「個人輸入代行のために商品が一時的に
当店にある」だけだということを証明する必要があります。
そのため、下記にサインをお願いします。
サインしたものをFAXで送っていただいても構いません。
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これは、文字通り輸入代行をお願いする書類であるとともに、バイアグラを
一度に輸入するには量的な制限があり、それをすり抜けるためのものなのだろう。
よく見ると2枚目ともども、用紙に記入してFAXで送っても申込書として
有効であるように作られている。(ただし、「入金をもって正式な発注が
なされたものとさせていただきます」と書かれているが)

いずれにしても、この最後の1枚を出してくるということは俺は完全に
「買いそうな客」として認識されているということだ。ということは、インポだと
思われてるってことか? などと考えている俺に対し、オヤジは最後の
「落としトーク」で切り込んできた。

「とにかく若い人ほど効くっていうからね。うちは特に、一回買っていった人が
何度も何度も買いに来るんだよね。「よかったよ」って言って。もう新しい客に
売らなくてもいいぐらいに今までの客が買ってくれるんだよね。こんなに売れる
わけだから、もう厚生省が何を言っても辞める気はないね。」
厚生省とは大きく出たもんだ。

ハナっから買う気がなく、今回はリサーチだけと決めていた俺はそこで店を
出た。オヤジは店を出る俺の背中に対しても「FAXでもいいですからいつでも
注文お待ちしてます」と声をかける。新しい客には売らなくてもいいんじゃ
なかったのか? 結論としては「信用してもいい度」は50%ぐらいか。
オヤジは人がよさそうだし、店を固定して(場所を明かして)売っている点から
してあからさまな騙しはなさそうだが、アメリカの業者側がホンモノかどうか
が怪しい。それに、オヤジの話だと売れて売れてしょうがないといった感じ
だったが、俺が店にいた20分ぐらいの間、他に客は一人も来なかった。
(オヤジの目の前に置いてあったFAXで注文が来ている様子もなかった)

しかし、100mg 10錠の 41000円のうち半分ぐらいを誰かに
出してもらってブツも半分こ・・・と言うのであれば買ってもいいかな〜と
思ったりもする。

おわり

著作者:田中H




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