講習を受けた明後日、早くも次のハガキがやってきた。ハガキの要旨は、「スピード 違反について聞きたいことがあるので一週間後の○日に大宮区検察庁まで出頭して欲 しい」というものだ。相変わらず「聞きたいこと」などと用件をぼかしてくる。刑事 処分と書けばいいのに。しかし一週間とは、前回の講習までのモタつきに比べて随分 早い処置だ。大宮区検察庁は大宮駅から野田線に乗って一駅の北大宮駅から徒歩15分 。またもや家の近くなのだが、このためにまた会社を休むのか、と思いきや「10分程 度で済みます」と朱書きの印が押してある。会社を休むのは午後だけで済みそうだ。
出頭当日、免許と印鑑を揃えて北大宮駅に降り立った俺は辺りを見回して唖然とした 。すごく田舎だ。本当にこんな所に検察庁があるのだろうか? ハガキに書いてある 地図の通りに進んだらすぐに大宮公園の端にたどり着いた。そこから少し通り沿いに 歩くと大宮区検察庁があった。煉瓦色の壁で2階建ての建物。思ったよりショボい。 隣には同じくショボい建物の簡易裁判所があった。この裁判所で裁かれるんだろうか 。言われたとおり中に入って受け付けにハガキを提出する。受け付けのオヤジは素気 ない言い方で「名前が呼ばれるまでそっちの待合い室で待っててください」と言った 。これから俺はどうなるんだろうとせっかくドキドキしているのに、このオヤジの素 気なさは何だ。
待合い室、と呼ばれた所は、そう呼ぶにはあまりにも狭い部屋で椅子が4つほど、テ ーブルを囲んでいるだけのスペース。しかし壁際に本棚があり、週刊誌やマンガの単 行本がどうでもよさそうに山積みにされている。週刊誌はみんな今週号だ。ちゃんと 毎週購入しているらしい。 マンガは「ゴルゴ13」などのありきたりなもので、あるかと思って探したが「家裁の 人」は置いてない。しばらくマンガを読んでいると、やはり違反者らしい男が待合い 室に入ってきた。やはり髪を染めている。俺は彼と一瞬目を見合わせ、すぐにマンガ に目を落とす。
5分ほどで放送が入り、俺の名前が呼ばれた。指定通りの2階の部屋のドアをノック し、「失礼しま〜す」と声をかけてドアを開けた。部屋の中には柔和そうな検察官が 椅子に座ってほほえんでいる。検察官の机の上に置いてあるプレートに「深井」(仮 名)と書いてある。
深井「どうぞ、おかけください」
俺 「はい」
深井「今日は印鑑を持ってきましたか?」
俺 「はい」
深井「じゃあ、出して下さい」
俺 「はい」
俺は精一杯の笑顔を作って印鑑を鞄から取り出し、机の上に置いた。深井検察官はな ぜか大宮交通機動隊で作成された俺の赤キップとオービスの写真を持っており、それ を俺に見せながら「これはあなたに間違いないですね」と聞いてきた。俺は間違いな いと答える。その後彼は赤キップの内容を高らかに読み上げその内容に間違いがない か尋ねる。交通機動隊の婦人警官の時とまるで同じだ。間違いないと答えると、別の 紙に印を押すように言われる。これを押したら罪を認めることになってしまうのだな 、と思いつつも素直に押す。
その後、深井氏は俺の裁判を、俺が裁判所に出廷する形で行うか、略式裁判にするか を尋ねてきた。略式裁判とは、裁判に必要な書類を予め提出し、裁判の全てを裁判官 に任せる方法で、被告(つまり俺)が出廷しなくてもいいかわりに法廷での主張もで きない。が、こんなアホな用件で裁判所まで出向くのもイヤなので迷わず略式裁判を 選択。そのまま俺は解放されることになった。
帰り際に、深井氏が俺に言った言葉・・・「あなたの判決は一ヶ月後ぐらいに郵送で 送られてきます。その後、罰金の支払いについての銀行の振込用紙が書留で送られて きますので支払って下さい」
く、くっそ〜〜! やっぱり覚えていたのかっ! 罰金を!!さすが検察官だ(笑) 。まあここまで来たら逃げも隠れもせんわい!!
俺 「あの、このケースだと罰金、だいたいいくらぐらいでしょう?」 深井「う〜ん、だいたい7〜8万ってとこだね」
それぐらい払ったるわい!!
著作者:田中H