オービス捕まり記 2



大宮の交通機動隊に着いた俺は来るように指定された部屋を探す。その部屋は1階に ありすぐ見つかったが、開けっ放しの入り口を入ると既にムンムンとした熱気がこみ 上げていた。5人程の捜査官(?)が、同じく5人ほどの違反者を一対一で取り調べ ている最中だったのだ。部屋の入り口でなすすべもなくボーッと突っ立っている俺を 見つけた若い婦警さんが、「どうぞ、こちらへお座り下さい」と俺に声をかけた。年 の頃は俺と同じ20代後半、いや、きっと俺よりも若いだろう。あどけなさの残る顔 だちに肩まで下ろした髪、そしてアンバランスな警官服(?)に戸惑う俺を尻目に、 彼女はてきぱきと他の取り調べ組の間に椅子を用意し、書類を持って椅子に座った。 俺も用意された椅子に座ったが、これでは両隣の取り調べ組と30cm 程しか離れていない。右を見ると、20才ほどの女性の違反者が男性の警官にいろいろ 質問されている。一方左では、やたら若い、おそらく高校生ぐらいの男性が、同じく 男性の警官に質問されている。

先ずはオービスの写真を見せられた。写真は白黒で、コピーされたものだったが、と てもはっきりと写っている。車のナンバーはもちろん、運転者の俺や助手席のKの表 情までもくっきりと写し出されている。小さな写真なのにこれだけ細かくはっきりと 写っているとは、よほど 性能のいいカメラを使っているのだろう。この写真を突きつけられてしらばっくれる のは先ず不可能だろう。

婦警さんが口を開き、俺の取り調べが始まった。取り調べと言っても単純なもので、 最初に俺が持参した出頭書の内容を確認した後は、婦警さんの質問に俺が答えていく だけ。「あなたはどこにいく途中だったんですか?」とか「この道が制限時速○○km であることを知っていましたか?」といった単純な質問が多く、これらに対して回答 していく度に、婦警さんが供述書のようなピンク色の紙(これが赤紙か?)に「わた しはこの道が制限時速○○kmであることを 知りませんでした」などと、俺の言葉で書き込んでしまう。ちなみに、これらの質問 は「答えたくなければ答えなくてもよろしい」と前置きがなされた上で行われたこと をつけ加えておこう。供述の途中で、俺は逆にいろいろな質問をした。

「これって、何キロオーバーなんですか?」

「標準速度50kmのところを89kmで走っていたので39kmオーバーですね」

「ということはやはり免停ですか?」

「はい、そうなりますね。」

「罰金は・・?」

「10万円以下の罰金になります。」

婦警さんの口調はビジネスライクだが、その目は哀れみを持って俺を見つめていた、 と思えたのは俺の錯覚か?

俺の供述書が完成すると、婦警さんはそれを俺に手渡して「ここに書かれていること に間違いがなければ、サインをして印鑑を押して下さい」と言った。そんなの、俺の 言ったことをそのまま書いてるだけなんだから間違ってるわけないじゃん。と思いつ つも一応読む。女の子なのに汚いな字だな、と思いながらサインと印をした。その後 、印鑑が押された供述書を持って婦警さんが席を外したのですかさず両隣の取り調べ に耳を傾けてみると、右の女性は急いでいたのでスピードを上げていた、などと供述 している。この女性、昼間に捕まったらしく、オービスの写真は昼間のものだった。 右の兄ちゃんは「1人ではなく親に裁判所についてきてもらいなさい」というような ことを言われている。彼はどうやら無免許らしい。しかもこの年齢。そうとうヤバい ようだ。俺は自分のオービスの写真を眺めた。2人ともシートベルトをしていた のはラッキーだった。

婦警さんが戻ってきて、俺にこう言った。「これから3つのハガキが届きます。1つ 目は免停の期日が書かれているものです。2つ目は簡易裁判所への出頭願いです。3 つ目は、講習の連絡です。講習は必要がなければ受けなくても構いません」 ふーん 。 俺は最後に聞いてみた。

「このオービスの写真、もらえませんか?」

「・・・・・いえ、だめです」

やはり無理であったか。 10万円以下の罰金は痛いなーと思いながら、俺は帰途についた。

to be continued...

著作者:田中H




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