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「自分とつながる」

我々は、刻々と過ぎ行く「時間」の中を生きている。
しかし、過去の自分自身を省みることはほとんどない。
「今」を生きるために精一杯で、昨日の自分はすぐに消えうせてしまうのである。

時には立ち止まって、過去の自分に出会ってみるのもいいかもしれない。
それは、過去から現在にいたる時間の流れを再認識することでもある。
「時間」の概念を表現することは、実は容易なことではない。
しかし、コンセプチュアル・アートと呼ばれる芸術の中には、 巧妙に「時間」を扱った作品を見つけることができる。
特に、河原温による「TODAYシリーズ」は、
「時間」をダイレクトに作品上に表現したことで 評価されている。

そこで、この「TODAYシリーズ」を展示し、来館者が作品を鑑賞することを通して、過去や未来の自分自身に思いをはせることができるような美術館を考える。

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「『TODAY』シリーズ」

コンセプチュアル・アートは、1960年代後半から始まった現代芸術の1つのスタイルである。
これは従来の流派や主義とは大きく異なり、何をつくるのかということよりも、どんな考えでつくるのかを問題とするものであった。
それゆえに、時間に対するアプローチもそれ以前とは違うものとなった。

コンセプチュアル・アートを代表する作家の一人である河原温は、「時間」を創作活動の大きな主題においてデイトプリンティングを展開した。
それは「TODAY」シリーズと呼ばれる作品群で、黒色などの暗色で一面に塗られた平面上に、作品を制作した年月日が数字とアルファベットの白抜きの文字で記されるというものである。ただそれだけの要素で成り立っているこの作品は、1966年に始められた後、現在も制作が続けられており、極めてユニークな存在となっている。

しかしながら、一瞥しただけでは芸術作品とは思えないそのスタイルは、むしろ時間の概念を的確に表現しているといえる。
それは、この作品に表記された日付が無限の意味を持っているからである。
同じ日付は1日しかないが、その日を生きた人々は無数にいる。
「日付」は作家自身の手によって作品の中に封印されたかもしれないが、この作品を我々が見るとき、それぞれの人々にとっての「日付」が脳裏に蘇ることになる。
自分自身が生きてきた時間の流れを再認識するとともに、作品を見る人の数だけ存在するそれぞれの時間の流れが、作品を軸として合流して再びそれぞれの方向へ流れていくような、そんな感覚をも呼び起こすのである。

さらに、過去から現在にわたって制作され続け今後もつくられるだろう、という独特の制作スタイルが、ことさらに時間の流れを我々に対して印象深いものにしている。
それは、異なった日付を持つ複数の「TODAY」シリーズの作品を一度に鑑賞するとき、より明確に感じ取ることができる。
それぞれの作品に表された日付は離散的なものであるが、その間に存在する連続した共通の何かが、鑑賞者の心との共鳴をよびおこすのである。

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「どのような空間に展示するか」

「TODAY」シリーズの展示室は、ストイックな空間がふさわしい。
それでいて、かつ「時間の流れ」を感じさせるような空間。
来館者がそれまでの自分の人生をふりかえり、過去の自分を改めて見つめなおす、そんなきっかけとなる空間。

展示空間として、上下左右の四方をガラスで囲まれた空間を考える。
それは細長く先へ先へと延び、不規則に曲がり、あるいは上下に交差する迷路状の展示空間となる。
その左右両側のガラス壁に、「TODAY」シリーズが掛けられる。

展示空間をかたちづくるガラス壁は、白い障子のように室内の照明をほのかに外側へ漏らす。来館者の動きは、向こう側に見える展示空間に淡い光と影のうつろいをもたらす。来館者は、お互いの存在をぼんやりと感じながら、展示空間を巡ることになる。

この迷路状の展示空間には、決まった順路指示は存在しない。展示空間に入ってしまえば、始点も終点もない。来館者はなんら手がかりのないまま、迷いながら作品を鑑賞する間に、自らの運命に翻弄される人生を疑似体験することになる。

展示空間が上下に錯綜したり、あるいはガラス壁のすぐ向こう側に展示空間が見えているのに、そこへ行くためには遠回りをしなければならなかったり、という複雑な経路をたどる展示空間は、人生における不確定さや、自分ではどうにもならない運命的な力を意識させる。

   

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美術館の諸機能」

この迷路状の展示室は、外への開口部を持たない暗黒の直方体空間の中に収められる。
そこでは、展示室内の作品を照らし出す照明が、ガラスの床や壁ごしにもれ出す。
展示室は、迷路状に複雑に絡まった光の帯として、暗闇のなかに浮かびあがる。

展示室を内包する暗い直方体空間を囲むように、美術館の諸機能が配置される。
ミュージアムショップ(1階)、アートライブラリーとカフェ(2階)、他に事務室や所蔵庫などが配される。

美術館のエントランスは1階と2階の2ヶ所に設けられている。
1階は隣接する駐車場から、2階は美術館東側を通る白川通からオープンカフェの前を通過してアプローチする。
エントランスを入ったところに、1階から3階まで大階段が続いている。
来館者はこの階段を昇って3階へ達する。
そこから迷路状の展示室へ入り、最後に1階から外へ出ることになる。

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美術館の光と闇」

大階段の上部は天井に開口部を持ち、直接自然光が館内へ差し込む。
さらに、2階のカフェは直上の3階部分が吹き抜けであり、頭上から自然光が降り注ぐ。
加えて、カフェは南側が大開口となったオープンカフェスタイルであり、明るく開放的な空間が演出されている。

これは、展示室を内包する暗闇の直方体空間と対照的であり、展示室の特性をより強調したものとなっている。

   

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オープンカフェ」

カフェは非常に開放的であり、美術館が面する白川通のにぎわいをそのまま取り込むように、大きな開口部をもつ。さらに、通りから美術館エントランスを結ぶブリッジ上も、オープンカフェとして使われる。

このカフェが有する閉鎖的な展示空間と比べて大きなギャップは、来館者が展示室をめぐる間に作品から感じたことを、よりクリアに心に刻み込んでもらうためには、効果的に作用する。

人によっては、作品を通して過去の自分と向き合った後で、今後の自分自身を想像するかもしれない。
何人かの仲間と訪れたなら、共通の思い出話に興じるの面白いだろう。

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美術館と作品の関係」

美術館の外部形状は、前面黒色で塗られた直方体になっている。
東側からは、傾斜のため西側よりも高くなっており1階は隠れて見えない。
そのために、あまり厚みのない直方体として眼に映る。

内部の複雑な形状を持つ展示室とは対照的な外観は、河原温の作品世界を建築で表現することを目指している。
「TODAY」シリーズの、黒色一面に塗られたキャンバス上に白色の文字で日付を描く、というだけの作品スタイルは、極めてコンセプチュアルであると同時に、シンプルかつミニマルなものである。

それは、一見単純に見える。
しかし、作品にこめられた「時間」の概念は極めて奥深く、そして複雑なものである。
この、作品の外見と意図との関係を反映したのが、この美術館である。

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