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環境の保全と対策
[山崎川の親水化計画.2001]


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1:はじめに
 身近にある環境保全計画の例として、山崎川の親水化計画について取り上げる。
 山崎川は、愛知県名古屋市の中央よりやや東側の住宅地を流れて伊勢湾へとそそぐ、全長13.6kmの2級河川である。(資料1)中流〜下流域にかけての数km間にわたって桜並木が設けられ、市内における代表的な桜の名所となっている。
 昭和62年に、建設省による「ふるさとの川整備事業」のモデル河川指定を受けたのを契機として、まちづくりと一体的に水辺環境の整備が図られることとなった。そこで、現在までの整備状況を調査し、その有効性を考察するとともに、残された問題点について考える。


2:これまでの経緯
 昭和35年から護岸改修と浚渫が行なわれた結果、コンクリート護岸で覆われた直線的な河川となり、水質の悪化、水量の減少もあって、悪臭のする緑灰色の水が流れる大きなドブのような状態になってしまった。
 その後、下水処理場の整備や、水源である猫ヶ洞池の貯水量増加による水量確保などが実施され、山崎川の状態は昭和59年ごろから改善に向かっていった。

資料1,2



3:ふるさとの川整備事業
 ふるさとの川整備事業とは、市町村のシンボル的な河川において、周辺の環境や地域整備と一体となった河川改修を行ない、良好な水辺空間の整備を図ろうとする事業である。
 取り上げた山崎川は、「成熟した住宅地内を流れる桜の名所山崎川に『四季の道』と一体となった水辺環境を整備すること」を目的として、昭和62年にモデル河川指定、昭和63年にモデル事業として中流域2.8kmについて認定を受けたものである。
 整備計画は、公園と一体的に親水広場を設けたり、昔ながらの渓流景観を残したりするなど、まちづくりの視点から作成された。詳細は、区域を下流側から5つのブロックに分け、それぞれに特徴を持たせた整備を行なうものである。(資料2)

 Aゾーン:沿川にある瑞穂公園と一体となった親水空間の形成。広がりのある河川空間を生かした水辺や、水辺と一体となった広場などの整備。(資料3)
 Bゾーン:自然にすぐれた河川環境の復元。人々が河川に降りて水に親しめる護岸構造の整備。既存の桜並木や隣接する公園などを活かした、散策やジョギングに適した河岸環境の整備。(資料4)
 Cゾーン:桜並木に沿った落ち着いた雰囲気をもつ水辺の散策路を形成。自然石を用いた護岸改修やレストコーナーの整備。(資料5)
 Dゾーン:ビルや商店の立ち並ぶまちなみに潤いを与える水辺環境の創出。周囲のモダンな建物などと調和のとれた護岸材料の使用、植栽の不充分な箇所の緑化。(資料6)
 Eゾーン:いにしえの面影をしのばせる渓流景観の演出。自然石護岸の使用、植栽や河畔の樹林の保全。(資料7)

資料3,4,5,6,7

4:現在までの成果
 上記の計画は、どのように実現されたのであろうか。整備の終了したゾーンをみると、それまでの画一的だった護岸のイメージが大きく変わったものになっていることがわかる。
 Aゾーンに設けられた親水広場は、河川がカーブを描く位置に、目立つように造られている。(資料8、9)石段による階段の中央から滝が流れ落ち、その下は滝つぼになっている。階段を使って水辺まで降りられ、滝のしぶきがかかる距離まで近づくことができる。(資料10)また、川の流れは緩やかで、砂洲づたいに川の真中付近まで行くこともできるようになっているのが特色である。
 上流側にあたるBゾーンでは、桜並木に沿って遊歩道が整備され、川のせせらぎを楽しみながら散策ができる。(資料11)また、いくつかの異なった形状のテラスが数カ所にわたって水辺に設けらている。(資料12、13)沿川にある既存の公園と連続した格好になっており、公園と水辺とをつないでいる。これらのテラスは木材を使用するなどして、人工的な感触を払拭するのに成功している。Aゾーンに比べて川岸の植栽が多く施され、自然の川のような雰囲気が醸し出されている。(資料14、15)実際にチョウやバッタといった昆虫を数多く見つけることができる。
 Cゾーンの沿川は住宅地であり、散策時のためのレストコーナー等が設けられている。(資料16、17)このゾーンでは、水底に沈み石を連続的に配置して流れの緩やかな場所を設けたりして、瀬や淵をつくっているのが特徴である。これにより魚(主に鯉)が棲みやすい環境になっている。(資料18、19)さらに上流側へすすむと、護岸に自然石がふんだんに用いられ、険しい雰囲気が出てくる。川底の石も砂から小石、そして岩へとサイズが大きくなり、上流域としてのイメージを演出している。(資料20、21、22)
 なお現時点では、Dゾーンは実施中、Eゾーンは未着手の状態である。(資料23)

資料8,9,10,11,12,13
pm0003.jpg (37828 バイト)
資料14,15,16,17,18,19

5:残された問題点
 都市を流れる河川の共通の悩みとも言えるのが、多雨時の急激な流水量増加である。普段は穏やかな川の流れも、一旦大雨や台風に見舞われると、一挙に濁流となる。雨が止み水量が戻った後は、水辺の草はなぎ倒され、砂が堆積し、流されたゴミが溜まって景観を損ねてしまう。(資料24、25)都市部の河川は治水対策の一翼を担っているという点から、致し方ないのかもしれないが、大量の雨水が流れた後の川の姿は見るに忍びない。
 また、水質の問題もある。いくらテラスを設けて水辺に降りられるようになったとはいえ、川の水がきれいでなければ、川の中へ入ることは躊躇される。安心して水辺で遊べるように、さらなる水質浄化をすすめるとともに、水質検査などの結果を広く市民に公開する手段が必要である。
 山崎川の流域は商店街、住宅地、公園が連続しており、市民生活に非常に近い。しかしながら、本計画は官公庁主導ですすめられ、必ずしも市民の声が反映されているとは言えない。川を利用するのは、結局は一般市民であり、その不満や要望を環境づくりに取り入れる方が、より良い結果を生むのではないだろうか。
 さらに、維持管理の問題点も挙げられる。現在、整備が完了(あるいは実施中)の段階であるが、せっかくきれいに生まれ変わった環境が、将来にわたって保たれるよう有効的な方策が求められる。

資料20,21,22,23,24,25

6:まとめ
 このような各種の整備により、山崎川の環境は大きく変わり、人間にとっても、魚をはじめとした生物にとっても快適な川へと変貌を遂げつつある。都市部において、川とそれをとりまく緑の環境は、非常に貴重なものである。従来、治水対策の側面でしか語られなかった河川整備が、環境の保全を視野に入れたものに変わったことは意義深い。もっとも、都市河川の親水化計画というと、水遊び場のような人工的な公園にしてしまう傾向があったように思える。こういった親水公園のような自然と乖離したものではなく、魚やほかの水棲生物、昆虫や多様な植物と共存できるような、生態系を育む環境整備が重要であると言える。

 


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