小林流について

   小林流は、昭和8年(1933年)、知花朝信(ちばなちょうしん)先生が命名し開いた流派である。小林流を生んだ

城下町首里は、 沖縄の歴史・文化・政治の中心地として栄えたため、数多くの武術家を輩出した。その中で、松村

宗根(まつむらそうこん)から糸洲安恒(いとすあんこう)そして知花朝信へと受け継がれた伝統的な空手道を他の

大家の伝えた流派と区別するために、首里手の意味で「小林流」を名乗ったのである。

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   現在、知花先生の高弟であった宮平克哉先生 ( みやひらかつや  志道館本部道場範士10段)が、沖縄小林
流空手道協会の会長を
務められ、小林流の指導普及に当たられている。県内のみならず、 県外,海外にも多くの支
部道場や小林流に属する
 
道場が日本国内の みならず、アメリカやヨ−ロッパをはじめブラジルやアルゼンチンなど
 
世界各地へ小林流の普及発展のために精 力的に活動されている。 
 
 
 
 
 
        
T. 小林流の特色     小林流は、構えや呼吸法に無理がなく自然で、力の入れ方や抜き方に特徴がある。力の
    
   取り方は、内から外へ

   と取り、この方法によって瞬間的に力の集中が容易になり、速さが増して攻撃力が増加するのである。また、この

   ように力を取れば決して内臓を圧迫することなく、呼吸の乱れや無駄な筋肉疲労もなく力の集中ができ、動作の敏

   捷性も増す。

      鍛練の基本は当て身である。巻わらを中心に拳を鍛え、さまざまな方法で手足を鍛えることにより、当て身の破

   壊力を養成することに主眼を置いている。また、小林流の「受け」 は単に防御しさばくのではなく、打てば打ち砕く
 
   だけの破壊力を発揮することにより、攻防 一致(防御=攻撃)を目指している。空手ではよく「一寸先の力」と言わ
 
   れるが、それはこのような鍛練による力の集中性と敏捷性によって得られるものであろう。

      このように型の修練はイメ−ジトレ−ニングとして極めて有効であり、寸分の油断なく真剣に行い、一呼吸と言え

  ども疎かにできない。むろん組手試合も大切であり、 型によって 体得した技を実際に行うことができるので技が上

 達するが、型の鍛練を軽視し、 興味本位で勝敗にのみ拘るスポ−ツ空手は武道の本筋とは無縁のものと言えよ

 う。

 
U. 小林流の型     空手道の型は、@ いかにして受けるか、Aいかにして突くか、B いかにして蹴 るか,C いかにしてからだをさば
 くかの4つの基本動作を連続的に組み合わせて集 大成したものであり、この一挙手一投足の動作を鍛練し、いわ

 ゆる「武力」を培うのが目的である。従って、単に型の順序を覚え流すだけの型練習では、単なる体操に過ぎない。
 空手道・古武道の修練は型を中心に行うが、それは古くから生と死の狭間で真剣に勝負してきた先達の「技」と

 「心」の積み重ねとして残されているものである。 型の中には、四方八方を敵に想定し、実際的な攻防の技が実に

 巧みに組み合わされており、この道に志す者にとって、型にこめられた「技」と「心」に触れることにより修行の糧

 (源)とすることができる。

  (1) ナイハンチ初段〜3段

        ナイハンチは昔の達人によってつくられたものであるが、作者の詳細は不明である。首里手、泊手では古くか

     ら伝わった型で、ピンアン(平安)がなかった時代には、初心者は必ずこの型から始めた。現在の型は糸洲安恒

     先生が古い型を改められたものである。

        この型の特徴は、実践的な攻防の技よりも、一定の立ち方を崩さずに足腰を鍛練 し、空手に必要な筋骨を発

     達させることに主眼がおかれている。

 
   (2) ピンアン初段〜5段          明治40年頃、糸洲安恒先生が中等学校の指導用として作成されたもので、上級型の技の多くが取り入れら

      れている。なお、ピンアンとは中国語読みで、「平安」を意味する。ヘイアンと呼ぶ場合もある。
 

   (3) 糸洲のパッサイ・松村のパッサイ

        「抜砦」という漢字が当てられ、文字通り敵の包囲網を破るという意味で、攻防の動作が変化に富み、小林流

      の基本技の大半が包含されている。いったん受けた手をすぐに受けかえる技が多く、不利な立場を有利なもの

      にすることが重視されている。 特に、松村のパッサイは、小林流の名型の一つといわれる。

 
    (4) クーサンクー大・小

        「公相君」という漢字が当てられる。中国の武官であった、公相君(人名か役職名か

       は、はっきりしない)にちなんで名づけられた。二段蹴りなどの豪快な技や、棒(あるい は杖)を取る技、暗闇を

       想定した技(フェイントをかけて身をかわし、下から相手の動きを確かめる)などが組み込まれている。

 
     (5) チントウ

           古来、名型の一つとされている。演武線は縦一線で、攻防に同時技が目立つ。躍動 感あふれる技が多く、

        腰の上下動や鍛練として片足立ち(不利な状況を想定している)が特徴である。
 

     (6) 五十四歩(ゴジュウシホ)

           緩急自在のリズムが特徴的で、演武線は前後左右が基本だが、斜め方向にも多く出る。小林流の型にして

        は珍しく、拳での突きや前蹴りが少なく、抜き手や手刀受けが多用され、鷲手や支え立ち、つかんでの引き落

        としなどの技が見られる。

 
     (7) 鉄掌(テッショウ)

           宮平勝哉先生が創作された型で、小林流の型に掌底突きがないことから考案された。掌底突きのほか、一

        本拳前に出て蹴りを制しての正拳突きなどの直線的な技が

        多く、力強い型になっている。

 
      (8) 普及型T・U

             1941年(昭和16年)、空手道の普及発展のために、当時の沖縄県知事の諮問により作られたのが、普

          及型Tと普及型Uである。 それぞれ初心者向きの平易な型で、普及型Tは小林流系の基本技を組み合わ

          せたものであり、普及型Uは剛柔流の撃砕(ゲキサイ)の型を一部改めて作成された。この二つの型は先の

          沖縄海邦国体の際、「無手の拳」という名前で空手班の集団演技として採用された。