妻恋地蔵さんの深山北面について |
![]() | 深山北面は北摂の最高峰・深山(790m)の北側斜面一帯です。 氏がおっしゃるように、 地元の方の迷惑にならないよう、残された豊かな自然を大切にしましょう。 妻恋地蔵さんのE-mailアドレスは hirotani52@nifty.ne.jp です。 |
◎はじめに 一昨年のことです、天引林道を歩いたことがありました。 そのとき私はまだ、奥山川から深山北尾根にかけて広がる雑木林の一帯の 美しさを知らなかったのですが、奥山川の素晴らしさに心惹かれました。 大きな滝や岩壁、深淵などがあるわけではありません。 しかし、大台・大峰や越美国境の山々の渓谷の源流域のようなその佇まいは、 お隣りの瑠璃渓に比べて決してひけをとらない。それどころか、静寂で山の匂いの する幽邃さでは、奥山川の方がはるかに優れていると感じました。 その後、深山の山頂で双眼鏡を覗いた私は、恰好の展望台を二つ発見しました。 一つは天狗山北尾根508.0m三角点の北西肩で、あと一つは天引峠北東尾根の 第二鉄塔手前です。この二つの展望所に登って深山北面を眺め、 その魅惑的な尾根と谷の姿に惹きつけられました。 わが家から車で30分の里山に、こんな素晴らしい自然が残されていたのか。 すっかりとりこになってしまったわけです。 谷を一つ登って尾根を一つ下りる。そんな半日の静かな山歩きを妻と楽しみました。 ちょうどそのころ始めていたパソコン通信の登山会議室に、その都度報告するのも 嬉しい励みとなりました。 ◎地名 登るからには地名を知りたいと思いました。 ある日、深山頂上直下の谷から頂上に登り着いた私は、幸いにもそこで草刈りを していらした、一帯の山主のOさんと知り合いました。 そして、今自分の登って来たのが「いご谷」という谷だということを教わりました。 他にもいろいろなことを、この天王在の翁から学びました。 また、天引の森林組合長さんから、別の山主Hさんを紹介され、天引のご自宅に 伺いました。息子さんに跡を譲られたと見えるこの翁からも、しみじみいいお話しを 聞かせてもらいました。とくにこのお二人のおかげで、私のような他所者が深山の 地名を詳しく知ることができたのです。感謝いたします。 尾根については、ほとんど名前がないようなので、便宜上、私が仮の番号をつけて みました。付録の略図(冒頭の「深山北面の地図」)を見てください。 ◎登山適期・その他 林道歩きや、深山南尾根のハイキング道を登るなら四季を問いません。 しかし、道のない谷や尾根、廃れた古い山道を歩くのなら、11月後半の落葉後から 4月初めの新緑期にかけてが最適でしょう。このあたりの山は概して穏やかで、 険しい滝や岩場もなく、木々が葉を落として歩きやすくなるこの時期は、谷でも 尾根でも斜面でも安心して登降できます。山の管理が行き届いていて、植え捨て られた植林や、伐採の後放置された荒れ地がほとんどないので、私たちにはひどい 藪漕ぎに苦しんだ記憶がほとんどありません(深山山頂付近の笹藪だけは別です)。 道のない谷や尾根に入るときは、少なくとも藪漕ぎの経験があり、地図が読める リーダーが必要です。低い里山とあなどってはなりません。特に尾根の下りは渋いです。 初心者ばかりの場合でしたら、深山頂上への車道と深山南尾根のハイキング道、 それに、天引林道、ガヤの谷林道、牛つなぎ林道や木ぐつの谷道などを歩かれるのが よいと思います。それらの道も、なかなかいい味を持っています。 ◎服装・持ち物 藪くぐりをするときは、長袖、長ズボンです。イボ付きの軍手も重宝します。 11月15日から2月15日までの狩猟期は、白いタオルを首や腰につけてはいけない と言われました。ハンターに鹿の尻尾と間違われるからです。 昼を過ぎてから登りだすときは、念のため、ヘッドランプと非常食があれば 安心です。道のない所で暗くなると、進退できなくなります。万一そんなことに なって、山中で朝まで過ごすとしたら、防寒着があれば心強いものです。 北尾根から冬の深山に登るとき、頂上直下の笹藪の上に雪が載っていると、 意外と苦しめられます。下半身ズブ濡れになって、凍えてしまうのです。 わずかな距離ですが、雨具上下とスパッツ、オーバーミトンがあれば万全です。 谷を登るときと尾根を下るときは、2.5万分の1地図と磁石は必携です。 読図能力と地図、磁石がなければ、思う所へ出られません。 地図は、「埴生」と「福住」です。 谷筋はかなり上まで清い水が得られるので、水筒は不要です。 小さなコップ一つあればこと足ります。それでも、水筒に山の清水を詰めて帰って、 水割りやお茶を楽しむのもまた格別です。 ◎入山 車で天引林道に入るのが便利でしょう。 林道は舗装されているものの狭いですが、随所に膨らみや広場があって、 駐車には不自由しません。ただ、後から来る山仕事のトラックなどのことを考えて、 可能な限り車を端に寄せて停めましょう。林道では昼でもヘッドライトを点けて走ると、 黒っぽい車でも対向車から早く認識されて安全なのですが、停車時の消灯をお忘れなく。 私も牛つなぎ林道の入口で、バッテリーを上げてしまった苦い経験があります。 冬季の積雪時や凍結時は、スタッドレスタイヤやチェーンがあっても、天引林道の 傾斜の強い上部には入らない方が賢明でしょう。 バスで入山する場合は、篠山・園部間のJRバスを利用するのがよいでしょう。 天引の法京分岐に「瑠璃渓口」バス停があります。 運行時刻などは、JRバスの篠山営業所(07955-2-0276)、またはJR園部駅 (07716-2-0071・発時刻のみ)に問い合わせてください。 ◎下山 熟達者のリーダーがいるなら、深山北面の谷や尾根は、いずれも下降可能です。 途中に悪い滝場や岩場はありません。ただ、音川の左俣は傾斜がきつく、落石の 恐れもあって、初心者や子供さんがいる場合にはお勧めできません。 また、積雪時には道のない谷や尾根の下降は避けた方がよいでしょう。滑って 危険ですし、体がびしょ濡れになります。 私が山好きの方に、下降路としてとくにお勧めしたいのは、深山の頂上から直接 天引林道へ下りる十一番尾根です。この尾根は、短いですが、静かで雑木林も美しく、 鳥獣も多くて、まったく素晴らしい別天地です。 深山頂上から最も安全に下りられるのは、車道と、南尾根のハイキング道でしょう。 しかし、天引林道に車を置いてある場合は、どちらもかなり遠回りになります。 深山南尾根から741mの山へ向かって、笹の中に気持ち良さそうな道が見えていますが、 これを通ると早く天引林道へ下りられます。しかし、笹の背が高いので、思いの外 歩き辛い道です。741m山の北側で道は不明瞭になりますが、足下の踏跡を外さないように してこぐらたわへの急な尾根を強引に下りると、古い林道に出、おぐらたわに行けます。 ◎用語 右岸・左岸・・・・川の上流から下流を見て、右側を右岸、左側を左岸といいます。 右俣・左俣・・・・谷が二俣になっているとき、下流から上流を見て、右側の谷を右俣、 左側の谷を左俣といいます。「又」や「股」の字を用いることもあります。 ◎自戒を込めて皆様に提言 私たちは他所者のハイカーとして、山人の仕事場に踏み込んで楽しませてもらっている のだということを忘れないようにしましょう。これが、余暇にこの一帯の山々を歩く者の 心すべき点だと思います。 このわきまえさえあれば、私が以下に挙げる事々は、余計な駄言にすぎません。 (1) 自分のゴミは必ず持ち帰りましょう。 他人の残したゴミでも、できれば少しでも持って帰りませんか。 美しい山をいつまでも美しく保ちたいものです。 (2) 木に傷をつけたり、枝を折るのは慎みましょう。 (3) 山火事のもとですから、不要な焚き火はしないようにしましょう。 特に、水のないところでの焚き火は、残り火が心配です。 (4) 迷いやすい所が多いですが、木や枝に目印のテープや布を巻くのはやめましょう。 それより、道に迷っても強引に谷や尾根を下りれば、一時間もせずに林道に着ける このような山域でこそ、テープに頼らず、できるだけ自然に近い状態で、 自分の動物的感性と読図能力を高める喜びを味わいたいものです。 登山記念のプレートを付けるのも、山人の迷惑になると聞きました。 (5) 9月の末から10月の末にかけて、昔はよく松茸が出たそうです。近頃はめっきり 減ったということですが、この時期は、無用な誤解を避けるため、松山の周辺には 決して入らないようにしましょう。 その気で松山に入るのは、事務所荒らしの泥棒と同じ、れっきとした犯罪で、 山歩きを楽しむ者のすることではないと思います。 また、この山域では10月はまだ黄紅葉にも早いし、木々が落葉していないので 道のない所は歩き辛いしで、あまりよい山歩きは期待できません。 (平成10年5月 妻恋地蔵)