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Speeding the Net

Speeding the Net

Joshua Quittner & Michelle Slatter著
William Morrow & Company, Inc.刊
1998年
定価$25
ISBN0-87113-709-7


ノンフィクションのハッカーものMasters of Deception(邦題 サイバースペースの決闘 角川書店刊)、および公開鍵暗号にまつわるミステリーFlame Warを書いた二人によるNetscape社の勃興、とMicrosoftとの苦闘の歴史。 副題は、The Inside Story of Netscape and How it challenged Microsoft

表紙をしばらく見ていて、どこかで見たことがあるなあ、と思って手元の本を探してみたところ、ありました。The Road Ahead。あのビル・ゲーツの本の表紙。まっすぐに伸びる道路を背景に彼が立っています。
Speeding the Netの表紙では、人物は消え、まっすぐに伸びる道路の先、地平線のかなたに広がる空に、.com、.edu、.net、.gov等の文字が入った球体が浮かんでいます。

マーク・アンドリーセンらNCSAでモザイクを開発した学生たちの横顔、チームの成り立ち、モザイク開発進展の話は、わくわくしていて読まされます。 彼らが開発しているソフトの意味を、初めて理解したのは、大学への資金援助の関係上たまたま訪れたHPの幹部だったということですが、イリノイ大学で、シリコンバレーにある自社のドキュメントがすらすら読めるを見て驚愕し、開発促進の為に大量のワークステーションを寄贈したいと言い出したのです。
あるワークショップの夜、主要メンバーたちがすんでのところで交通事故死するところだったというエピソードも。もしそうなっていたら、同時にモザイクの葬式にもなっていただろうとあります。確かにその通り。ともあれ、彼らのモザイクは大成功します。
ところが、開発の邪魔になるので、開発担当者にはユーザーからのメールは読ませないといった、大学側の官僚的な対応に嫌気がさしチームは勢いを失います。

アンドリーセンがよそに仕事を求め働き始めたところに、ジム・クラークから電子メールを受け取って、会社設立の計画が進みます。これは、余りにも有名なエピソードです。 ジム・クラーク自身、シリコン・グラフィックスの創始者であるものの、持ち株の数もそれほど多くはなく、自分のやりたいことも十分にできないということで、同社では不完全燃焼状態にあったことは知りませんでした。
実際の経営の細かい点は、大企業経営のプロということで、IBM、FEDEX、マッコーセルラーで実績をもつ、バークスデールに白羽の矢をたてます。彼の人となりも、魅力的な人物に描かれています。
優秀なプログラマーの中には、西海岸には引っ越ししたくないという人もいて、そういう場合には、そのまま自宅での作業が許されています。

ベータ版を発表する時の仕掛けが笑わせます。(一番最初にダウンロードしたのは日本人だったそうで、びっくり。利用だけは人一倍早いということでしょうか。)仕掛けというのは、ブラウザソフトがダウンロードされる時に、対応プラットフォーム別に、Indyに接続したスピーカーで違う音がなるというものです。プログラマーは、音でもどれがダウンロードされているかもわかります。UNIX版はベルが鳴り、Macの場合はガラスが割れ、Windowsは蛙の鳴き声です。全部がダウンロードされると大砲が鳴り響きます。何人も先にダウンロードした人が、すごいソフトを見つけたとnewsgroupに記事を書き、これを読んだ連中のアクセスがどっと増え、大砲の音、蛙の鳴き声、ベル、ガラスの割れる音で、てんやわんやになります。

拡張につぐ拡張には目を見張ります。あまり急に社員が増加するために、オフィスのスペースも、駐車場も足りなくなるのです。
プログラマーは、帰宅する時間も惜しんで開発に打ち込むので、ペットの金魚や犬に餌をやったり、面倒を見てやる時間がありません。そこで、社内にペットを持ち込んでいたのですが、そういう自由な生活も、大企業になっては続けられません。来社した客の為に用意した食事を、犬がひっくり返すという事件の後、ペットの連れ込みは禁じられます。反対を表明するために、社員証用の写真をとるときに、頭にとぐろをまいた蛇を載せたというつわものがいたり。

急成長を続けるには、どうしても新規株式公開をしなければならない、ということになり、通常の慣行を無視した短期での公開につきすすみます。これを担当した株式公開のプロの人物にとっても、これまでにない、予想もつかない経験だったようです。公開価格がなかなか決められないのです。
余り割り当てを要求する企業が多いので、公開株数も増やさざるを得なくなります。そして、一夜にして多くの百万長者が誕生します。

後半では、マイクロソフトのあざとい反撃にあって苦闘する姿や、Linuxや、Apacheに習ってソースコードを公開するという方針の出てくる背景などが書いてあります。NetscapeのZawinskiがHeckerに、エリック・S・レイモンドの文を読むように勧めるというのです。巻末の参考文献を見ると、当然オンライン文献に、Raymondの"The Cathedral and the Bazaar"もあがっています。
とはいえ前半ほど、わくわく楽しくは読めません。
Amazon.comの多くの読後感にあるように、これから新規に事業を立ち上げて、株の公開を考えているような方には生きた教科書として最適なのかもしれません。

1998/11/8記

「マイクロソフトへの挑戦」という書名で、翻訳がでています。

(1999/8/2追記)

Amazon.comで、書評を読んだり、本を購入することが可能です。
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