ではキャビンにまつわる謎をどう説明するか・・・
ここで私は、このページの冒頭に記したようにズバリ、
「Tシリーズ用改良キャビンの採用による、空冷エンジン車の継続販売」
という大胆な新説を導き出しました。つまり、Tシリーズ用の最新キャビンに載せ替えることで、空冷のMBR型にも延命の道が残されたということです。
これを裏付ける一つの技術的背景として、私はMBR型→T1100への移行時、ボディワークに殆んど変更が加えられなかったことに着目しました。
Tシリーズ用の改良型キャビンに加えられた変更(フロントグリル設置、オーナメント追加、ボディ色変更)は、ボディ形状の変更は一切含まず、旧型のボディパネル用の金型に直接、軽度の修正を施せば済むレベルに留まっています。そのため、シャシーとの結合部位に変更はなく、新旧キャビンの互換性は確保されていたと推測できます。そのうえ、ひとたび型修正を実施したとなると、旧型ボディパネルの生産はもはや困難になっていたと考えられます。
さらにもう一つ、営業的な背景として、当時のマツダ3輪トラックの商品ラインナップ事情があります。遡ること2年前、1957年(昭和32年)後半に相次いで丸ハンドルの新型車を導入し、商品ラインナップを一新したマツダ小型3輪トラックの中で、空冷1005ccエンジンを搭載する1t積のMBR型は、ボトムラインに位置付けられた最廉価モデルであり、販売上の存在意義は決して小さくなかったと思われます。
そんな中、鋼製フロントカウルのバーハンドル車から、完全鋼製キャビンの丸ハンドル車へ一新されたことに伴い、すでに大幅な価格上昇を強いられていたところに、Tシリーズへの移行で水冷エンジン&フロントブレーキ装着分の価格アップ要素が加わることは、場合によっては低価格帯ユーザーのマツダ離れを促進し、販売面で大きな痛手となり兼ねません。
こうしたことから、キャビンの小変更を受容しつつ、廉価版としての価格据え置き使命を果たすための暫定的措置として、私は旧型の空冷エンジン搭載シャシーに改良型キャビンを組み合わせた「モディファイ版の」MBR型が、ごく僅かな期間、継続販売されたのではないかと推測するわけです。