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なにわ修習記

1999年10月


10月5日

 今日から検察修習。実務修習も第2期に入った。

 午前中は開始式。検察庁の建物上層にある広間の一角で行われた。入ると前の壁に日の丸が掲げてありびっくり。国旗国歌法制定の影響がこんなところに・・とも思ったが,壁に打ち付けた(掛けた?)板を白地と赤で塗ってある体裁のものであることからすると,前からあるもののようにも感じる。

 開始式は検事正からのあいさつがあってすぐに終わった。あいさつも短いもので,検察の人のあいさつは短いと修習生の間で評判となった。まあ,弁護士のあいさつが長すぎただけかも知れないが・・。

 その後,日の丸をバックに写真撮影。最初は真ん中の方にいたのだが,日の丸を後ろにするのは何かイヤな気がしたので,横の方にずれた。

 写真撮影の後は,同じ広間内の横のスペースで修習生の自己紹介。大阪は治安が悪いと聞いているという話をする修習生が結構いる。確かに,ひったくり日本一などといった面はあるので,まんざら嘘でもないようだけど,大阪の地元の人が聞いたらむっとするだろうに・・。
 午後は指導担当検事の方からの講話があって,その後解散した。


10月6日

 午前中は府警の捜査1課の人による,凶悪犯罪の捜査についての講義があった。スローガンは「捜・鑑・科一体」「速攻捜査」とのこと。捜・鑑・科一体とは,捜査と鑑識,科学が一体となって行われるべきものだということらしい。速攻捜査とは,とにかく素早い捜査が大事だということ。もっともなスローガンである。

 まず印象に残ったのは,捜査っていうのは綿密にやられているものなんだな,っていうこと。容疑者のアリバイの有無は思ったよりも慎重に認定しているようであった。具体的には,指紋が残っていたからといってすぐに犯人扱いせず,指紋の持つ意味(指紋の現場価値という。)を検討してから犯人の特定に使うなどである。

 もう1つ印象に残ったのは,科学の進歩に伴う捜査方法の変化もめざましいものがあるな,ということ。刑事訴訟法で問題とされているような新しい捜査方法(DNA鑑定,ビデオ画像の利用,ポリグラフ(うそ発見器)検査)は積極的に活用されているようだ。それにしてもビデオカメラっていろんなところに設置されているんだねえ。今度から行動には気をつけなければ,って,悪いことしているわけではないからそんなに関係はないのだが。

 午後からは,いよいよ捜査実務に。警察から送致されてきた記録を読んで事件の概要を把握し,今後の捜査方針(取調べの要否など)を検討するのである。今日割り当てられたのはいずれも在宅(身柄を拘束しないもの。)の案件であった。修習が始まってしばらくのうちは講義が続いて捜査の時間がとれないことを考慮しているのだろう,身柄事件(被疑者の身体を逮捕,勾留によって拘束している事件。身体拘束が認められる期間には制限がある。)はまだ割り当てられていない。


10月7日

 今日の午前中は府警捜査4課の方による暴力団の実態等についての講義。午後は大阪刑務所の見学だった。

 刑務所は最近(ここ10年ほど)建て替えられたばかりのものであるということもあり,なかなかきれいな建物だ。各部屋にテレビがあるのには驚いた。また,いろんな雑誌が持ち込まれている。刑務所の職員の人の話では,以前は圧倒的に雑居房であったのが,最近は独居房の割合が増えているという。

 大阪刑務所は定員は2000名で,犯罪傾向の進んだ男性成年受刑者のうち短期の刑の受刑者を収容しているところである。外国人の受刑者の割合も増えており,現在は300名程度の外国人受刑者が収容されているとのことであった。外国人受刑者収容用の独居房にはベッドが設置してあり,食事も、宗教上の理由で食べられなものがある人には配慮してあった(イラン人の居房には「鶏肉代替」という札が掲げてあった。)。ただ、礼拝の時間については、それを理由に刑務作業を中断することは認めていないということだった。信仰心の薄い私には、まあ仕方ないかと感じられたが、どんなものだろうか。


10月12日(火)

 今日の午前中は麻薬取締官の方の講義。講義の前半は麻薬(薬物)及びその法規制はどのようなものかについての説明,後半が薬物犯罪の捜査方法についての説明であった。

 午後は捜査実務、ということで、記録の検討を行った。

 夕方は検察幹部との懇談会があった。私は専ら聞き役だった。


10月13日(水)

 午前中は国税査察官の方の講義。国税査察の実態や、告発についての説明があった。

 午後は昨日に引き続き捜査実務。記録を読む。渡されていた2件のうち1件について被害者について電話で話を聞こうとしたところ、長くなりそうなのと、被害者が来て話をしてもらった方がいいということもあり、来てもらうことに。つまり取調べだ。もう1件はとりあえず後回しにして取調べの下準備にとりかかった。

 夕方には、前の期の人たちが私たち53期の修習生等の歓迎会を催してくださった。今年は、修習期間変更の影響で、52期の修習生と53期の修習生が同時期に同じ種類の実務修習を受ける場面が出てきたのである。


10月14日(木)

 午前中は次席検事の講話。最近の検察をめぐる動きという題であった。

 午後は参考人に出頭してもらい。これを取り調べた。取調べの前に検事の方から、司法修習生が話を聞くことについて参考人に説明し、了解を得る。司法修習生はあくまでも検事のもとで話を聞くという形にしないと違法になるからである。

 さて、いよいよ取調べ。検察修習は2人の司法修習生がペアになって取調べに臨むのだが、話を訊くのは、専らその事件を担当している修習生,今回の場合は私である。参考人でこちらにも協力的であるとはいえ,人にモノを訊くというのはなかなか緊張する。調書を取らなければならない場合はなおさらだ。一通り話を訊いた後,調書を口授しながら作成し,検事による添削を受ける。添削に従い修正したものを罫紙に打ち出し,それを検事が参考人に読み訊かせて,参考人の署名押印を得た。

 今回は参考人が大変協力的な方だったので助かった。被疑者が相手の場合はどうだろうか。


10月15日(金)

 午前中は府警の通信司令室に。大阪府内からの110番を受け,各地区の警察に指示するところである。平成14年に新たな施設が完成すると、警視庁を追い抜いて最新のシステムになるそうである。見学したのは昼前で、事件発生数が少ない時間帯であることもあり、110番の応答を行うブースも指令を行うブースも閑散としていた。夜になるとブースが人で一杯になり、電話もひっきりなしにかかってくるとのこと。

 午後は捜査実務。昨日参考人を取り調べた案件について、被疑者を呼び出して取り調べる準備をした。

 夕方からは52期の修習生の方の誘いにのっかって、某法律事務所での判例研究会に参加させていただくことに。修習生による報告の後議論が行われるのだが、議論がいろいろ飛び交っていて刺激的で楽しかった。


10月18日(月)

 午前中はまず訟務検事の講話。続いて検事正の講話があった。

 訟務検事の講話は、国の代理人としての裏話などが聞け、面白かった。特に面白かったのは税金をめぐる話。弁護士はなぜこんなに領収書をほしがるのか、税金を支払うのをいやがるが、行政サービスを受けているのだから法律にのっとってきちんと税金を支払うべきという話は、元公務員の私としてはうなずけるものだった。

 検事正講話は、中国の刑事司法制度についての話であった。国際刑事司法会議に出席のため中国を訪問されたばかりのことからだろう。

 午後は捜査実務。


10月19日(火)

 午前中は科学捜査研究所を見学した。X線を用いて、封のされている袋の中身を破壊せずに調べる機械や、文書の内容を鑑定したり紙幣の真贋を判断する部署、ポリグラフなどについて説明を受けた。ポリグラフは一般にうそ発見器と呼ばれているもので、心拍、発汗、脈拍の動きを通じて、被験者の記憶を検索する機械である。この機械による調査によって直ちに被験者が真犯人と言えるものではなく、実際の運用もそのことを念頭に行われているとの説明があった。紙幣については、偽造を防止するためいろんな工夫がされているのにびっくり。偽札を国民が見破れるようにするためには、そのような工夫をもっと国民に知らせる努力を通貨当局がすべきようにも思われた。

 午後は検察庁に戻って捜査実務。検事が同じ班(検察での修習では、2人1組となり、1班を構成する。)の相方のところに、明日身柄つき(被疑者が逮捕された状態で送られてくるもの。)の事件が配転されるからと言って、身柄つき事件についての手続の流れを説明された。身柄つき事件は処理の期間が厳しく法定されているから、他の事件に比べて緊張する。検事の緊張の度合いも違っている。

 夕方は弁護士会の会派の1つが開催する懇談会に出席した。


10月20日(水)

 今日から1日中捜査実務である。記録を読み、必要な調べものがあれば調べるといった作業が続く。他の班では被疑者を呼んで取り調べるところもぼちぼち出てきている。

 午後、前日に言われていたとおり、身柄つき事件が相方のところに割り当てられた。事件記録とそのコピーを2人に分けて、それぞれ10分ずつでざっと読むことに。

 記録をざっと読み終えてからしばらくすると、被疑者が連れられてきた。検事が弁解録取を行い、担当者である相方が録取書を作成する。検事ができあがった録取書を被疑者に読み聞かせ、被疑者がその録取書に署名押印すると、弁解録取手続は終了である。勾留請求書は今回は警察の方で既に作成していたので、こちらで作成する必要はなかった。

 夕方はパトカー同乗。府警のパトカーに乗って警邏活動を見学するというものである。背広姿でパトカーの後部座席に乗るのは、貴重な体験と言えば言えるが、若干恥ずかしい気もする。私の乗ったパトカーは幸い事件にぶち当たることはなかったが、他の修習生が乗ったパトカーは途中で事件にかけつけるため、修習生は乗ってからすぐにおろされたといっていた。2時間ほど同乗した。


10月21日(木)

 今日は新件(新たな事件)が割り当てられた。なんか、私に割り当てられるのは破廉恥な罪が多い気がする。他山の石とせよという配慮か?

 午後は実際に被疑者を取り調べている現場を見学させていただいた。思ったより穏やかな雰囲気で取り調べは進んだ。他の修習生のも含め、いくつかの取り調べを見ていると、取り調べのやり方もいろいろだな、という感じだ。


10月22日(金)

 今日は午前中は捜査記録の検討。午後は府警交通課の人の講義であった。

 講義の前半では、交通事犯についての実態の説明と、それに併せて暴走族の実態についてのビデオ放映がなされた。ビデオを見て驚いたのは、車に乗っている人以外に、集会を見物に来ている人々がかなり多くいるという事実だ。人が騒いでいるのをみて何が楽しいのだろうか。それとも、一種のあこがれみたいな気持ちをもって見に来ているのだろうか。集会に一緒に参加しているという意識を持つことによる高揚感を味わいたいのか。う〜ん、謎だ。

 後半は、飲酒量検知の実験である。あらかじめ修習生の中から選ばれた被験者がそれぞれ、決められた種類の酒(日本酒、ビール又は水割り)を一定量飲み、飲み終わってから一定時間後(15分後、30分後、1時間後)ごとに呼気検査によるアルコール量検査を行うというものだ。呼気検査というのは、体験された人はご存じかと思うが、吐き出した空気の中のアルコールの割合を調べるという検査。この検査による数値が0.25以上だと酒気帯び運転になる。

 修習生の中には、ビール大瓶1本を飲んでも、アルコールが全然検知されないという人がいた。警察の人も、こんなの見たことがないと驚かれていた。ちなみに私はビールをコップ2杯分飲んだだけで0.13という数値が出た。我ながらホントに酒に弱いなと思う。

 アルコール検知の数値であるが、飲酒終了から15分後よりも30分後の数値が高くでる人が多い。飲んだ後しばらくはアルコールが身体に吸収されていくので、呼気内のアルコール数値が高まっていくということらしい(修習生が話していたのを聞いたところによる。)。


10月25日(月)

 午前中は中堅検事の講義が「特殊事件の捜査」と題して行われた。重大事件については、警察が捜査を進めるに当たり、今後どうすべきか検察の方から積極的に指示するものがあり、そのような場合に検事が指示を間違えると犯人を捕まえられなかったりして事件が解決できないということで、具体例をもとに、どのように捜査指揮をするかという話がなされた。

 午後は検察庁舎に隣接する警察署の部屋で、府警捜査4課の人による講義。題目は「賭博犯罪の捜査」。

 驚いたのは、賭博犯罪で逮捕された客の刑事訴訟の費用については、賭場を開帳した暴力団が負担するならわしとなっていることから、賭博犯罪の摘発は暴力団の経済力を低下させることにもつながるということ。金づるは大切にするというのは、暴力団というのも商売稼業だということである。


10月26日(火)

 この日は午後から代用監獄の見学に関空警察に。

 代用監獄というのは、拘置所に代えて被疑者が留置、つまり身体を拘束されている場所のこと。警察署の留置所が用いられ、場所柄警察による取調べが容易にできることから、えん罪の温床と言われてきたところである。

 最初に警察の人から、代用監獄をめぐる状況と、施設の概要について説明があった。結構施設、環境は整っているようだ。弁護修習中にお世話になった弁護士の人の話だと、一般に代用監獄の方が拘置所より待遇はよいらしい。代用監獄については批判が強いので、警察、検察の方も被疑者、被告人の待遇を改善して批判をやわらげようとしているのだという。実際、何度も身体を拘束されたことのある人の中には、代用監獄の方が拘置所よりも居心地がいいので、代用監獄を希望する者もいるとのこと。まあ、無理な取調べさえ無ければ居心地の良い方がいいという気持ちも分からなくはないが、、。

 説明の後、実際に代用監獄を見学する。思ったより広い居房である。2人で入ることもあるということを考えると、広いとは一概には言えないが。快適さゆえ拘置所より代用監獄を希望するという人がかなりいることも分かる。

 また、昭和50年代からは留置所担当の係(留置係)と捜査担当の部署が明確に区別され、好き放題捜査のために使われることはなくなったという話もされていた。留置がうるさくて取調べもはかどらないことがある、とも。ただ、捜査しやすい環境に置かれていることは間違いないし、即容認というのは躊躇するものがある。

 いずれにせよ、代用監獄における被疑者の処遇の変化は今までの弁護士の人達の長きに渉る努力の成果であろう。弁護士が動くことにより何かが変わる、ということを感じさせられた。

 


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