ゲンドウの寸暇

12/19/97 up


もものきの犬さんから、「或いはひとつの可能性」の外伝に当たる作品を頂きました。

リョウコとゲンドウの束の間の邂逅・・・・・

そして・・・・癒されるゲンドウ

すばらしい作品をありがとうございました!!




私は公園に来ていた。理由はない。以前に車窓から遠く見えた公園だ。
この一瞬後にも使徒が襲来するかもしれないと言うのに私は何をしているのだ。
そう考えているにもかかわらず私はベンチから腰を上げようとはしなかった。 私しかいない公園では、既に太陽は傾き、空には少し茜色がさしてきていた。 誰かが公園に入ってきた。 女の子のようだ。公園の中をうろうろと歩き回っている。 どうやら探し物をしているようだ。 目星をつけていた所は当てが外れたらしく方々を捜し歩いている。 ふと周りに目をやると、ベンチのすぐ横にきんちゃく袋が転がっていた。 子供がおもちゃにしたのだろう、放り投げられたような形でそこにあった。 「きみ」 近くを通った際に、少女に声をかけた。 少女は、ビクッとしてから恐る恐る私の方を振り向いた。 「な、なんですか?」 「君が探しているのはこれではないのか?」 そう言いながら、私はきんちゃく袋を手にとって彼女に見せた。 レイと同じくらいの背丈とあどけなさを残す表情・・・中学生くらいか。 少女はおずおずと近づいてきた。 「あっこれです!ありがとうございます」 そう言いながら少女は私からきんちゃく袋を受け取った。 私は奇妙な感覚にとらわれていた。 なぜ私は声をかけたのだ、私はこんな親切ごとをするような男ではないのに。 「あの・・・」 「なんだ?」 この少女はまだ私の前にいる、そしてあろうことか声をかけてきた。 「なにか悲しい事があったんですか?」 「なぜだ」 「悲しそうな顔をしていたから・・・」 「私の顔は生まれつきだ」 不意に少女が笑った。 私は冗談を言ったつもりはないのだが。 少女は打ち解けたような表情になって続けた。 「悲しい・・・いえ違うわ、とても辛そうな感じがするの」 「辛い?私が・・・?」 「そう」 「何故そう思えるのだ?」 「わかるのよ」 「わかる?」 「こーみえても、女の子ですから!」 少女はエッヘンとでもいいたげなほど胸を張って答えた。 ・・・この子の空想に少し付き合ってやるか。 「そうか、私は辛かったのか。自分では思っても見なかった」 「実は順風満帆でシアワセいっぱいとか?」 「いや、今の私の状況は確かに辛いものだ。 だが立ち向かって勝たなければ明日という日はこない」 「大変なんですね」 「だが我々には・・・」 「あっ!そだ!!」 少女は私の声を止めてしまうほどの声をだすと、自分の持っている包みをがさがさと開けて なかのものを取り出した。 「はい!」 そういって両手でゲンドウの前にささげ出したのはちいさな和菓子。 「たべて」 「い、いや私は甘いものは・・・」 「オジサンみたいな人がこんな若い女の子から手作りのお菓子を貰うなんて 二度とないわよ、 まだ練習中だから形は良くないけど・・・」 「しかし・・・」 「食べるの!」 私はうすい桃色の和菓子を手にとって食べた。 それはほのかに甘かった。 「どう?味が薄すぎなかった?」 少女は不安げに私の顔を覗き込む 「いや、私はあれくらいがいい」 「そう、よかった・・・」 「ありがとう、おいしかったよ」 少女はすこしびっくりしてから・・・てれていた。 「あとは形だな」 「もうっ!」 少女は腕を振り上げて私をたたく真似をしてから、笑った。 「やっと笑ったね、オジサン」 いわれて私は気がついた。確かにいま私は笑っていた。 その違和感を紛らわせようと話を続けた。 「趣味で和菓子を作っているのか?」 「てゆうか、家が和菓子屋なの」 「家の人に教えてもらったのか」 「下ごしらえとか、どの材料をまぜるかぐらいはね。でも自分の舌が覚えなきゃ意味が無いって  材料の比率とかは教えてくんないの。だからそっから先は私の創作。たまに作ってるフリして横で お父さんを観察したりしてね」 「そうか、大変だな」 「・・・アリガト」 なぜ少女が感謝するのかわからなかった。 「ずっと自分で味見してきたから、おいしかったっていってもらえたの初めてなんだ・・・」 「すると私は試食と人体実験のあいだにいたのだな」 「ひっどーい!」 「ははは・・・」 ・・・私はまた笑っているのか? 今度は声にまで出して。 「あっいっけなーい!もうこんな時間!いそいでいかないと日か暮れちゃう!」 「こんな時間から何処かにいくのか?」 「友だちにとんでもなく無口な子がいてさー、今日遊ぼうって約束したら、 用事が有ってこんな時間じゃないと駄目だからって断られたんだ、それで・・・」 「それで?」 「これからわたしが作った和菓子を持ってその子の家に押しかけてやろーって思ってんだ」 少女はまたエッヘンといいたげに胸を張った。 「そうか」 「でも、その子の都合も聞かずに行くからね・・・迷惑かなって考えたりもするんだ」 「そんな事はない」 「えっ?」 「その子はきっと感謝しているよ」 そう、私は感謝している。 「君のような子と友達になれた事に」 「そうかな?」 「そうだとも」 「・・・アリガト。 なーんかオジサンを元気づけるつもりが逆に元気づけられちゃった」 「その子の所まで車で送ってやろう、場所はどこだ?」 「べーっオジサンみたいなコワイ人の車にこんなカワイイ女の子が乗ったりしたら  ドコにつれていかれるかわかんないもん」 「非道いな」 「ふふふ・・・あっそだオジサン、今度は店の方にきてよ」 「私が和菓子屋へか?」 「オジサンが来たら若くてカワイイ女の子が応対するからさ」 「すると君以外の店員もいるのか」 「もう!」 少女は私をポカポカたたいた。 「この公園をでて右に50メートルほどいった所に店が有るんだ。 土曜日の午後なんかよく店番してるから・・・」 「・・・覚えて置こう」 「それじゃまたね、店にゼッタイ来てよー」 少女は公園の出口に向かって走り出していて、最後の方は叫んでいた。 少女が走っていき、暫くして気がつくと周りはもう薄暗くなっていた。 「・・・行くか」 私は妙に体が軽く、ベンチからスっと立てた事に驚いた。 さっきまではあんなに立ち上がるのが億劫だったのに。 『なーんかオジサンを元気づけるつもりが逆に元気づけられちゃった』 君は私を元気付けてくれたよ。 くだらない戯れ言に付き合っているつもりだったが 付き合ってくれたのは君の方だったか・・・ そうして彼は歩いていった。あしどりは、すこし軽く。




後 書 き