或いはひとつの可能性



第10話・透けた晴れ霧





   「じゃ、行ってくるよ」

   「今日はいつもより早いのね。忙しいの?」

   「いや、そうじゃないけどね。議会に行く前にちょっと寄っていきたいところがあってね」

  高橋は、いつもより30分ほど早く家を出た。

  標高の高い第三新東京市は、時折、霧に包まれた朝を迎えることがあるが、今朝もうっすらと霧が出ている。

  新駒沢駅へ向かう坂道からは、高層ビルがまるで霧の中から生えているような姿がみえる。

  まだ早いせいか、人気もなく、ほとんど物音も聞こえない。

  そうした静寂の中、高橋は、坂道を降りきると商店街に通じる道に入り、商店街に入る直前のところで、

  コンビニの自動ドアをくぐった。

  白髪の初老の男が顔を上げる。

  「いらっしゃいませ」

  「初瀬さん、おはようさん。どう、 景気は?」

  「なんだ、高橋さんかい。・・・・景気? まあ、米屋やってた頃に比べれば繁盛してるよ・・・おかげさまでね」

  「しかしねえ、無口なあんたが、商売替えしてコンビニ始めるって聞いたときには驚いたよ」

  「きょうび、スーパーでも米を置くようになったからね・・・品揃えが豊富じゃないとお客がこないのさ・・・」     
  
  「ところで、あんたのところのユリコちゃん、もう進路相談は済んだかい?」

  「いや、まだだよ。・・・・このあいだのあの騒ぎで、学校も進路相談どころじゃないようだよ・・・」

  「そうかい・・・・。もう済んだのなら、どんな話が出たのか、聞こうと思ったんだけどね。まあ、いいや。

  また今度聞かせてもらうよ。それじゃ」

  「・・・・何にも買わないのかい?・・・・」

  「あ、これは気がつかないことで・・・。そうだね、じゃ、ガムくれないか」

  「・・・じゃ、は余計だ・・・」

  高橋は、いつもような仏頂面でレジを叩いている初瀬をみて、頭をかくと、コンビニを出て、駅へ向かった。

  「ふわぁーっ、誰か、お客さん、来たの?」

  「・・・・漸く起きたな、ユリコ・・・・夜更かししてるから、朝起きられないんだ・・・今日は早く寝ろよ・・・

  客? ああ、坂の上の高橋さんが顔出したんだ・・・」

  「ああ、リエのお父さんね。で、何だって?」

  「・・・・進路相談終わったかって・・・・」

  「リエったら、進路相談は3ヶ月延期になったってこと、言ってないのかしら?」

  「・・・・・それは俺も今始めて聞いた・・・・・」

  「あ、言うの忘れてた・・・・。昨日の夜に電話連絡網で廻ってきたのよ。 昨日は転校生の碇君のことでいろいろ

  あったから、お父さんに言うのを忘れちゃった・・・」

  「・・・・台所にめしの支度してあるから、さっさと済ましてしまいな・・・・」

  「はぁーい」

  ユリコは、店から自宅に引っ込むと、ばたばたとキッチンに向かった。

  途中で、仏壇の前を通るとき、鉦を勢いよくチーンと鳴らす。

  「おはよう。今日もみててね」


   
  15分後、リエは戸締まり、火の元を確認して家を出た。

  高橋が早めに家を出てしまったので、リエも今朝はかなり早めに学校に行くことにしたのである。

  まだ、霧が残っており、その上から朝日がぼんやりと降り注いでいる。

  リエは坂道まで来たとき、ふと、大きな欠伸をした。

  「やだ。昨日遅くまで起きてたせいかしら。授業中に欠伸したら、当てられちゃう!」

  リエはミント味のキャンデーを買うためにコンビニに立ち寄った。

  「いらっしゃい。・・・・・さっき、おやじさんが寄ったよ」

  「お父さんが? 何買ったの?」

  「・・・・ガム・・・・」

  「ふーん。珍しいわね」

  まだ、比較的早い時間なので客は他に誰もいない。  

  リエは、今日はかなり時間に余裕があるので、キャンデーを買う前に店の奥の雑誌コーナーへ向かった。

  

  リエが雑誌を開いたのをみると、初瀬は、何気なく、ふっと視線を店の外に向けた。

  「・・・あの子だ・・・・今日は怪我してる・・・・・」



  7ヶ月前、初瀬は、親の代から続けていた米屋から、コンビニに商売替えした。

  旧東京で両親が苦労して大きくした米屋からの転業は、とても無念だったが、時勢には逆らえなかった。

  コンビニを開いてから、数日後、その少女は初めて店に現れた。

  蒼い髪、白皙の頬、澄んだ紅い瞳、美しく整った目鼻立ち。一見して、すぐ記憶に残る少女だった。

  店内にいた客たちは一斉に彼女を注視し、小声で囁きあったが、初瀬だけはとくになんの反応も示さなかった。

  少女は、小さなクロワッサンを1つだけ手に取ると、レジにやってきた。

  初瀬は、いつものような仏頂面で、不器用な手付きで黙々とレジを打つと、何の感情も交えない声で

  「150円」とだけ呟いた。

  少女は黙って代金をカウンターに置いて店を出ようとした。

  「おやじさん、全然動じなかったね。たいしたもんだよ」

  近所の客のひとりが初瀬に声をかけた。

  「・・・・・人間、こんだけたくさん生きているんだ・・・・いろんな人がいるのは当たり前だろ・・・・

  騒ぐ必要なんかないさ・・・・・」

  自動ドアを出ようとした少女は、一瞬だけ足を止めた。が、振り返ることもなく、店を出ていった。  

  少女はそれから毎日、彼の店に来るようになった。

  初瀬も少女も一貫して同じ態度をとりつづけ、これまでに会話はなかった。



  その少女が、今日は怪我をして、包帯を巻いて松葉杖にすがってぎこちなく歩いてくる。

  そして、いつもように自動ドアをくぐって、パンの陳列棚に向かってゆっくりと歩いていった。

  

  雑誌を読んでいたリエは、松葉杖が床をこする音に気づいて顔を上げた。

 「あ、綾波さん・・・・」

  彼女は、昨日、リョウコに向かって告げたように、その少女に声を掛けようとした。

  (あ、また、冷たくあしらわれたりしないかな・・・・無視・・されたら・・・やだな・・・)

  リエの足は、2歩だけ踏み出したところで 止まってしまった。

  

  レイは、いつもように小さなクロワッサンをひとつだけ手に取ると、レジに向かった。

  黙って、レジのところにいる白髪の男にクロワッサンを差し出す。

  男は、レイのもってきたクロワッサンを白いコンビニ用バッグに入れると、すっと、しゃがんだ。

  そして、さっき配送センターから届いたばかりのケースから、くるみパンを1つ取り出すと、

  クロワッサンの入っているバッグに黙って入れた。

  「・・・・・それ・・・・私はもってきてない・・・・・」

  「・・・・娘から聞いたんだけど・・・あんた、ダイエットかなんかか知らないけど、毎日、クロワッサン1つしか

  食ってないらしいね・・・普段、元気なときは、それでも体はもつかもしれない・・・・でもね、あんた、今、

  ずいぶんな怪我してるだろ・・・・そういう時は無理してでも、飯食わないと治んないよ・・・・・

  ・・・・そのパン、食いたくなかったら、捨てちまってもいいけど、飯だけはちゃんと食うんだよ・・・・」

  初瀬は、ぶっきらぼうに、そう言うと、バッグをレイに差し出した。

  「・・・・・・」

  レイは黙ったまま初瀬の顔を見上げた。

  初瀬は、最初にレイが店に来たときのように、無表情でレイをみつめていたが、
  
  やがてバッグをレイの手に持たせた。

  「・・・・早く行かないと、学校、はじまっちまうぞ・・・・」

  「・・・・・もうひとつのパン・・・幾ら?・・・・」

  「・・・・これは俺の気持ちだ・・・・・お代はいい・・・・」

  「・・・・・気持ち?・・・・・」

  「・・・・たったひとつで悪いがね・・・・クルミは栄養あるから、それ食って、元気つけなよ・・・・」



  初瀬は初めてみた。

  蒼髪の少女の紅い瞳に戸惑いの色が浮かぶのを・・・・。

  (・・・・・この人・・・知らない人・・・・・・・・

    ・・・・・すれ違っていく運命の人・・・・・・・・

    ・・・・・誰の命令も受けてない・・・・・

    ・・・・・私と・・・・・NERVと・・・・なんの関係もない・・・・・

    ・・・・・最初に来たとき・・・・・私をヒトとしてみてくれた・・・・

    ・・・・・・・・今・・・・・・・・私を心配してる・・・・・・・・・

    ・・・・・くるみパン・・・・・・・無償・・・・・・・・・・・・・・

    ・・・・・自分が損をするというのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    ・・・・・これが・・・・彼の「気持ち」・・・・・・・・・・・・・・

    ・・・・・なんの見返りも・・・・・ないのに・・・・・・・・・・・

    ・・・・・わからない・・・・・どうして・・・・・わたしに・・・・・)


  
   リエは初瀬とレイの会話を聞いていた。

   初瀬の思いがけない行動にリエは驚き、そして恥じた。

  (・・・・私・・・・クラスメートなのに・・・・・躊躇しちゃった・・・・・だめね・・・・)

   リエは迷わなかったし、恐れなかった。

   「おはよう。綾波さん」

   「・・・・・・・・・」
  
   レイはリエの顔をみつめたまま、予想通り黙っている。

   (・・・・・高橋さん・・・・・同じ教室にいる人・・・・・・・

     ・・・・・すれ違うだけの人・・・・・・・・・・・・

     ・・・・・あいさつ・・・・・・親しい人が交わす「ことば」・・・・・

     ・・・・・親しいヒト・・・・・いない・・・・・・・・・

     ・・・・・エヴァ・・・・・・・唯一の絆・・・・・・・・

     ・・・・・コンビニのおじさん・・・高橋さん・・・・エヴァとの絆はない・・・・

     ・・・・・「気持ち」・・・・「ことば」・・・・・・

     ・・・・・これは・・・・何・・・・・・・・・・・・

     ・・・・・なぜ・・・・・・わからない・・・・・わからない・・・・・)


   「この子、リエちゃんの友達かい? じゃあ、ちゃんと飯食うように言ってやるんだよ」

   「うん。この子ね。綾波レイちゃんっていうの。おじさんと一緒で、口数少なくて不器用だけど、中身は本当にいい子なの」

   「・・・・確かに口数は少なそうだ・・・・・俺と一緒か・・・・・は、はははは。・・・友達、大切にするんだぜ」

   初瀬はリエの言葉に思わず苦笑した。

   が、リエは、その笑いが決して乾いたものではなく、柔らかな照れを帯びていることに気づいていた。

   「そうよ。この子は・・・・私の・・友達のひとりなの・・・・・・・。

   私やリョウコやユリコや、そしてみんなと・・・同じときを生きているひとなの・・・・・」

   レイの澄んだ瞳を真っ直ぐにみつめながら、リエは、はっきりと言い切った。


  (・・・・・・・友達・・・・・・同じときを生きる・・・・ヒト・・・・・・

    ・・・・・・・私は・・・・ヒトとは違う・・・・・・・・・・

    ・・・・・・・私とあなたは違う・・・・・はず・・・・・・・・・・

    ・・・・・・・私は・・・・ヒトから作られしモノ・・・・・・・・

    ・・・・・・・あなたは・・・ヒトから生まれしヒト・・・・・・

    ・・・・・・・それなのに・・・・なぜ・・・・なぜ・・・・・なぜ・・・・・

    ・・・・・・・黙って・・・目を反らして・・・・すれ違うはずなのに・・・・・

    ・・・・・・・かかわりあう必要などないはずなのに・・・・・・・・・・・・・・・

    ・・・・・・・これは・・・絆ではないはず・・・・・・・・

    ・・・・・・・エヴァ以外の絆は・・・・・存在しないはず・・・・・

    ・・・・・・・なのに・・・これは・・・・・何?・・・・・・・・・・・・

    ・・・・・・・わからない・・・・・わからない・・・・わからない・・・・)


  レイは、朝日が霧を透かして降り注ぐ朝の道を、

  一生懸命に話し掛けてくる髪の長い少女と並んで歩いていた。


  初めての困惑は、答えを得ることはできなかった。




  同じ頃、リョウコは、新根津駅の階段を駆け上がっていた。

  「あー、もうっ、なんで目覚まし時計の電池が切れちゃったのかしらね・・・おかげで朝ご飯も

  ろくに食べられなかったじゃないの!!」

  なんとかギリギリのタイミングで電車に乗れたが、もともと低血圧気味のリョウコは、

  起きてすぐに食事抜きで走った来たため、気分が悪くなってきた。

  目が回る。目の前が紫色に染まり始める・・・・・。

  「あの、あなた、大丈夫? ここに座った方がいいわよ」

  リョウコは血の気の引いた顔で、目の前に座っていた娘をみた。

  ショートカットの黒髪、あどけなさの残る顔立ち、やさしい眼差し・・・・。

  「あ、ありがとう・・・ございます・・・・でも・・・」

  「わたしはもうすぐ降りるからいいのよ。無理しない方がいいわよ」

  「すみません。・・・・ちょっと低血圧気味なんで・・・・」

  「私もそうなのよ・・・・・夜遅くまで仕事するときも多いから、朝、とてもつらいときがあるのよ」

  その娘は軽く微笑むと、リョウコに席を譲って立ち上がった。

  リョウコは席に座れて、少しずつ気分が回復していった。 

  そのうち、隣の席が空いたので、その娘はリョウコの隣に座り、

  バックから本を取り出して、読み始めようとした。

  ふと何気なく隣席の様子を眺めていたリョウコの視線は、本のタイトルをとらえた。

  「意識発生メカニズムの大脳生理学的分析」

  「うわー、ずいぶん難しい本、読むんですね」

  「これ?・・・・ 仕事に必要なの・・・・好きじゃないんだけど・・・・」

  その娘は少しだけ視線を伏せた・・・・。

  「お医者さんですか?」

  「・・・・・人の命を救うという意味では同じなんだけどね・・・・」

  「すごいなあ・・・私なんて数学苦手だからお医者さんなんて、とてもなれないなぁ」

  「じゃ、あなたは何になりたいの?」

  「あたし、ですか? ・・・・あたしはお菓子屋さんになるんです」

  「まあ、そうなの? 素敵な将来ね」

  「うふふ、実は家が和菓子屋なんですよ。それ継ぐんですよ」

  「あら、そうなの!  私、和菓子、大好きなのよ。今度寄らせてもらおうかしら」

  「是非お立ちよりください!! 新根津駅前の明石屋本舗ですよ。きっと来てくださいね!!

  今日のお礼におまけしちゃうますから!! あっ、あの、念のため、お名前を・・・・」  
  
  「わたし?  伊吹マヤよ。よろしくね、えっと・・・」

  「明石屋本舗三代目予定の明石リョウコです。必ず来てくださいね。あたし、休日の午前中には大抵、

  店の方にいますから」

  「ええ。2,3日中には寄らせてもらうわ」

  「きっとですよ!!」

  マヤは、ほんのりと赤みを帯びてきた少女の頬をみながら、にっこりと微笑んだ。

  (あ、こんなふうに微笑ったのって久しぶりね・・・・)

  マヤの心は、ほんの少しだけ、軽くなった。

  (みんなの、こんな夢や未来を護るための仕事・・・・なんだから・・・・・そうですよね、先輩?・・・・)




  高橋は議会事務局ビルの中の会派別控室にいた。

  「やはり戒告処分で済んだんですか、高千穂さんは・・・・」

  「ああ、党本部の連中が言ってたよ・・・・NERV関係者の参考人招致してたら、除名にするつもりだったって」

  「八雲さん、もう議会でNERV問題を取り上げるのは暫くやめましよう」

  「どうした? 高橋君らしくないな。怖じ気づいたかい?」

  「そうじゃありませんよ。これ以上、我々が危ない橋渡って市当局を叩いても、なんにも出てこないと思うんですよ」

  「そのとおりだ」

  「あ、三笠さん。いらしてたんですか」

  「高橋君、彼らは市政の全てを掌握している。今回は週刊誌のリークで不覚をとったが、これからはかえって

  反対に攻勢に出てくるかもしれない。用心した方がいい。」

  「そうですね。でも、これは、あくまで私のカンですが、どうやら政府とNERVも一枚岩じゃないようですよ」

  「ああ、そうだと思うよ。とくに内務省はNERVを苦々しく思っているからね。だから、あんな手の込んだ

  リークで、NERVを牽制したんだろう。」

  「内務省はNERVのロボット開発を危惧してるんだよ。あれは今までにない高性能兵器らしいからね。

  とくに万田長官や安来政務次官は、あれが国内で実戦使用されたことに衝撃を受けているよ」
  
  「さすが、内務省とのパイプの太い磐手さんですね。もともとNERVはなんであんなものを開発していたんですか?」

  「国連として地域紛争の防止を目的としているらしい。大方、紛争発生時やその恐れがあるときにPKF戦力として

  使う魂胆だろう」

  「平和維持軍で使うつもりなんですか・・・・。だから、通常兵器をはるかに超える力が必要だったんだ」

  「八雲さん、政府は新種生命体については、どう説明するつもりなんですかね。官邸筋からは何か聞いてます?」

  「内閣府では先日の官房長官会見で某国のロボットと説明していたが、やはり、それで通すらしい。

  そうそう某国は、なぜか本件に関して沈黙してるね。いつもなら、挑発をやめろ、とか言って騒ぐのに・・・」

  「単なる偶然の一致かもしれないが、某国では400億ドルの産業基盤強化プロジェクトに着手したそうだよ。

  いくらあの国が裕福といっても、そこまでの金はないはずだが・・・・・」

  「・・・・・国連、いやNERVから「毒」が回りましたかね・・・・・」

  「ああ、きっとそうだな。我々の分担金がそんなことに使われているのは癪だが・・・・・」

  「取り敢えず、暫くの間は、地道に証拠を集めたり、内閣府や内務省との連携を密にして、情報収集を続けよう」

  「とくに、あの新種生命体が、なぜ、ここを襲ってきたのか、できる限り調べてみよう。あんな奴にちょくちょく

  訪問されてはたまらんからな。」

  「最新鋭の都市設備を持ち、住環境抜群の当市を視察に来た、とかね。ははははは」

  「地方議員や自治体職員の視察じゃないんだからな。それだったら、定年退職間際か、任期切れ前に

  やってくるから、あの新種生命体も、じつはかなりの歳だったりして・・・・ははははは」

  「まったく、視察や研修に来るんだったら、若い職員か、当選したばかりの議員を派遣すれば、成果を市政に

  役立てられるのに・・・・。今のような、「ご苦労さん視察」じゃ、まったく無意味ですよ。

  単なる慰安旅行みたいなもんじゃないですか」

  「まあ、そう堅いことを言うなよ。我々も来年、ネオ香港に行く予定なんだから」 

  「・・・・・・私は、地方分権が進んでいるデンマークに行くように提案しましたよ・・・・」

  「高橋君、デンマークは遠いし、それに・・・・」

  「それに・・・なんですか?」

  「うまい食い物がないよ!」

  「・・・・・・・・・・・・・・」

  そのとき、高橋の机の電話が鳴った。

  「早雲山運送の陸奥だけどね。今夜ひまかい? ちょっと耳に入れたいことがあるんだけど、飯でも一緒にどう?」


    つづく
   
   
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