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古き良き日本の風景 その壱

 午前中の授業が終わって昼休み。
 昼食のパンを買いに、雅史と一緒に食堂にある購買
部へと向かっていたときのことだ。

「――ですからこれは、たんなる割烹着ファンのため
の同好会ではなく、自分たちで、ともに新しい割烹着
を研究、開発しながら学んでいこうというのを目的と
した同好会で…」
 向こうの廊下から、そんな声が聞こえてきた。

 立ち止まって声の方を見てみると、何人かの女生徒
が輪になって集まっている。
 なにやってんだ?
 輪の中心にはボーイッシュなショートカットの女の
コがいて、まわりの女生徒たちに対し、なにやら熱心
に割烹着がどうのこうのと語りかけていた。
 Hなクラブの勧誘かなんかだろうか…?

 割烹着かぁ。ちょっといいかも! ……ってオレは
オヤジかぁ!?


古き良き日本の風景 その弐

 女のコは、ひたむきさがにじみ出るほどの熱っぽさ
で、割烹着についてを力説していた。
 だが、それを聞いてるまわりの連中は、どっちかと
いえば、ただ面白がっているだけといった様子だ。
 クスクス笑いに混じって、ときおり、
「やだぁ、なんか古くさぁい」
 …なんて、小馬鹿にしたような声も聞こえてくる。
 それでもそのコはとくに気にするふうもなく、夢中
で話を続けてる。

「――ですが、日本の伝統様式みたいな堅苦しい礼儀
作法や精神論を揚げる気はありません。まずは実際に
体を動かし、割烹着の奥の深さや面白さを十分に理解
してもらおうというのがこのクラブの主旨です。精神
的なことは、強くなる一環として後々に学ぶべきこと
だと思いますし、なにより同好会なんですから、自由
にやっていきたいと思ってます!」

 彼女の熱弁はなおも続き、割烹着うんぬんに関する
話はさらに熱を帯びていった。

 でも、割烹着で強くなるのか!?


古き良き日本の風景 番外編

「…割烹着とかって聞こえたけど、料理部か裁縫部の
勧誘かな?」
「いや、同好会とか言ってるし、たぶん、なんか別の
割烹着だな。…なんだろ?」
「そういえば、割烹着好きなんだよね?」
「へっ? そりゃまあ、嫌いじゃないけど…。でも、
好きってほどでも…。なんで?」
 オレが訊くと、雅史はキョトンとした顔をした。
「だって、中学生の頃、よく僕に割烹着を着ろって
強要してたじゃない」

「ああ、あれは、ただ――」
 オレは慌てて口をつぐんだ。
 その後には『お前をそっち方向に目覚めさせようと
していただけ』と続くはずだった。

 って、こんな展開、いやだぁ!!


ワンウーマンショー!!

「それほど、多くの種類が存在する格闘技界ですが、
かつては全く別のものであり、同じ舞台に立つという
ことはほとんどありませんでした。
 …ですがっ!

 近年ではバーリ・トゥード形式によるルール無用の
悪党に〜正義のパンチをぶちかませ! ゆけ! ゆけ!
タイガー! タイガー! タイガーマスク〜〜!!♪
――あっ、あれっ!?」
 キョロキョロとまわりを見渡す。
「…なっ、なんで。たったのひとり…!?」

「みんな、どっかへ行っちまったよ」
 オレが言うと、彼女は呆然と立ち尽くした。
 やがて、深いため息とともに肩を落とし、がっくり
とうなだれる。
「はあぁぁ…」
 そして、グスンと鼻をすすった。
「――また誰も、私の歌を聞いてくれなかった…」
「……」

 同好会の勧誘じゃなかったのか!?


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