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舞台女優

「なにか…?」
「君、B組の生徒でしょ?」
 その子は、澄んだまっすぐな瞳でそう言った。
「そうだけど?」
「あ、じゃあさ、長瀬くんって、まだいる?」
「え? ああ…」
「悪いんだけど、ちょっと、呼んできてくれない?」
 両手を会わせてお願いのポーズをする。

 いったい誰だろう? 見覚えのない子だが。
「僕が長瀬だけど…」
「えっ! あ、そうなんだぁ」
 くるくると実によく衣装の変わる子だ。
 もしかして早変わり?


先読み長瀬くん

 いったい誰だろう? 見覚えのない子だが。
「僕が長瀬だけど…」
「えっ! あ、そうなんだぁ」
 くるくると実によく表情の変わる子だ。
 彼女は自分の胸の辺りを指さして名を名乗った。
「あたし、沙織っていうの。新城沙織」
「君が、新城さん? ふきふき部の?」
「はッ? ふきふき部って!?」
「…いや、その、すいません」


伝統芸を脈々と…

「いいよ。聞かせてあげる。あたし、長瀬先生に言わ
れてここへ来たんだから」

 そう言うと、新城さんは猫背気味になり、だらんと
肩を落とした。
「こんにちは、江戸屋猫八です。これから、猫の鳴き
真似します。『にゃーぉ、にゃーぉ』」
 どうやら物真似をしてるらしい。ちっとも似てない
が、最初に名前を言ったので、誰の物真似かはよく伝
わる。
「…ってね」
 新城さんはくすっと微笑んで、ウインクをした。

 ……で、それが何?


アルバイト?

「それよりも、聞きたいんだけど…」
 話をごまかすように僕がそう切り出すと、新城さん
は人差し指を唇の前に立てて、シーッと言った。
「…壁に白アリってね、ちゃんと周りを確認しないと
どこで白アリがいるのか判りゃしないよ!」
「はぁ?」
「どうやら今は白アリはいないみたいだけどね」
 なにか勘違いしている。すっかり白アリの駆除業者
気分だ。


いや〜ん、何故知ってるのぉ?(笑)

「うちのバレー部は、県内でも1、2位を争うほどの
強豪チームだから、そりゃもう練習も厳しいの。特に
あたしたちなんて、もうすぐ3年生になっちゃうでし
ょ? 残された時間も限られちゃってるから、みんな
もう必死に練習してるんだ」
 抑揚のきいた聞き取りやすい声。芝居のように巧み
なテンポ。新城さんは床上手だ。

 …なんでやねん!


耳年増

「だからあたしたち、ここ最近は毎日、結構遅くまで
残って練習してるの。昨日は特に遅かったの。練習が
終わったあと、みんな、猥談でもりあがっちゃって。
なかでもあたしはHだから、着替えも終わらないのに、
ずっとしゃべってたんだ。だから、みんなより遅れち
ゃって、体育館の鍵締めをしなきゃならなかったのよ」
 Hなジェスチャーなども交えて話す。端から見てると
妙にHだ。


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