[ 0005 ]

[ 前へ (Previous) |  目次 (Contents) ]

ピーピング・千鶴

 そこには、戸の透き間から、羨ましげな目で中を覗
く千鶴さんの姿があった。
「…千鶴姉さん」
 楓ちゃんが呟いた。
「…千鶴さん」
 追うようにして、俺も呟く。
 千鶴さんは部屋の中に入り、パタンと戸を閉めた。

 千鶴さんは、なにも応えず、部屋の中央まで歩いて
来ると、そこで立ち止まった。
 うっすらと頬を染めた羨ましげな目で、じっと俺の
ことを見つめる。
 そのまま、何も言わなかった。
「…もしかして、覗いてたの?」
 苦笑しながら俺が訊くと、
「…ごめんなさい」
 千鶴さんは目を伏せて謝った。
 楓ちゃんも何も言わない。
 思い沈黙が訪れた。

 千鶴さんのHぃ!!


決め手が足りない?

「…試す? …試すって、どうやって?」
 俺は訊いた。
「…あなたの中の鬼を、私が目覚めさせてみます」
 千鶴さんは、正面から俺を見据えてそう言った。
「千鶴姉さん!」
「わかって、楓! いつ覚醒するか判らない耕一さん
は、クリープが入ってないコーヒーのようなものなの!」
 千鶴さんは、一歩も退かない強い口調で言った。
 楓ちゃんは何か突っ込もうとしたが、結局黙った。


そのまんまやがな(笑)

「…そして、もし耕一さんが、鬼の力を制御すること
ができたなら、全てが丸く収まるわ」
 千鶴さんは言った。
「…じゃあ、もし、それができなかったら?」
 俺が訊く。
「そのときは…」
 千鶴さんはゆっくりと目を伏せ、そして、
「…バッドエンディングです」
 静かに言った。


腹ぺこ千鶴さん

 屋敷の玄関を出た俺と、楓ちゃん、千鶴さんの三人
は、河沿いに歩き、裏手にある山道を登り始めた。
 ぽっかり浮かんだ月が、真円を描いていた。
 蒼い月光に照らされた、ほのかに明るい道を歩く。
 頬に当たる夜風が気持ちいい。
 空はよく晴れていた。
 都会では見ることのできない満天の星が、銀の砂を
散りばめたようにきらめいている。
「…満月の夜は、月見そばが食べたくなるんです」
 千鶴さんはそう言った。

 それで?(笑)


[ 前へ (Previous) |  目次 (Contents) ]

[ 0005 ]