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実は本気(マジ)だったりして…

「ところで由美子さん。どうして君が、こんなところ
に?」
 俺が訊ねると、彼女は微笑みながら眉毛を上げて『
えっ?』という顔をした。
「普通、こんな観光地に来る理由ってひとつしかない
でしょ?」
「ということは、旅行?」
「ううん、死体捨てにきたの」
 由美子さんはにっこりと微笑み、言った。
「…」
「やだ、冗談よ」
「…」

 由美子さんってこんな性格だったっけ?


失言から、そっと心を、覗いて見れば…

 俺が茶化すと、由美子さんは、ふふっと苦笑した。
「だと、いいんだけどね。一人旅よ」
「一人旅? へぇ、そりゃまたどうして?」
 俺が意外そうな顔をすると、
「あっ、違うのよ。べつに彼女にふられたからとか、
そんな深い意味はないのよ」
 慌ててそう言った。

 が〜ん!
 彼女にレズ趣味があったとは…。


ある意味、的を得ているかも

 店員の子が去ってひと息つくと、
「…ねえ、柏木クンも旅行なんでしょ? ここの温泉
って雑誌とかでも結構評判いいものね」
 由美子さんの方から話しかけてきた。
「いや…、俺は旅行で来たわけじゃなくて、ちょっと
別の用事で…。今は親戚の家で厄介になってるんだ」
「ふうん、そうなんだ。親戚の家で厄介者になってる
んだ」
 由美子さんはテーブルに頬杖をついてそう言った。

 うっ、何故だか否定できない。


そこまでボケるか! 由美子ちゃん

「由美子さんって、そういう伝奇とか好きなほう?」
 俺が訊くと、由美子さんは『うん』と頷いた。
「うん、結構ね。…というか、かなり。そういうのが
あると、ついつい測定しちゃう」
「え? 測定?」
「うん、私は典型的な理系女なのデス」
 由美子さんは、はにかんで言った。
「なかでも特に、地方の発電所に深く絡んだ物語とか、
エゴイスチックで好きだな。面白いよ、そういうの」

 …。
 それは『伝奇』ではなく、『電気』なのでは?


楓ちゃ〜〜〜〜ん(笑)

「ゴネンね、柏木クン。興味のない話に、ダラダラと
付き合わせちゃって」
「い、いや、俺は…」
 1、とても面白かったよ
 2、由美子さんの話を聞くの好きだから
 3、メガネっ娘が好きだから
 4、これを訊かないと楓ちゃんシナリオにならない
   からしょうがないよ

 3はともかく、4を選ぶと、ゼミで仕返しされそう
だな。


汚れた頭(笑)


 りーり、りーり、りーり、りーり…。
 耳を澄ませば鈴虫の声が聴こえ、俺は田舎の風情に
浸っている自分を再確認した。
 本来、こういう場所でこそ、ゆったりと静かに気分
を落ち着け、深く物事を考えたりすべきなのだろう。
 都会の汚れた空気の中では、頭は悲観的なことしか
考えないが、水も空気も綺麗な場所だと、浮かぶ発想
も違ってくるのだ。

 こうしていると『自然は全部俺のもんだ』みたいな
エゴイスチックな気持ちになる。

 俺って一体…。


条件反射では!?

 おかしな夢を見た。
 例の朝を待つ夢じゃなく、もっと別の、なんだか妙
に懐かしく、胸が切なくなる夢だった。

 夢の中にはひとりの少女がいて、その子はじっと俺
のことを見つめていた。
 誰なのかは判らないし、名前も浮かばなかったが、
なぜか俺は、その少女のことをよく知っているような
気がした。
 そして、その少女のことを見ていると、俺は無性に
腹が減るのだった。

 …って、何故!?(笑)


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