いつもの光景。
俺がからかって、怒った梓が息を巻いて追っかけて
くる。
他愛のないじゃれあい。
どちらかといえば、妹というより弟に近い梓だから
許される子供の頃のままのノリ。
そして俺は、こいつとのこういう瞬間がたまらなく
好きだった。
普段は、がさつだの、乱暴だの、凶暴だの、巨乳だ
の、身勝手だの、脳筋女だの、人気投票4姉妹中最下
位だの、シナリオに恵まれていないだのさんざん悪口
を言って…
「耕一、てめぇ…心の中の声だと思って黙って訊いて
りゃ!!!!!」
「あ、梓! お、落ちつけ…」
「ゆ、許せん!! てんちゅぅぅぅぅぅぅう!!!」
ゲシッ☆!!
合掌! チーン☆!
「違うって。だいたいあたしが泣いたのは、靴を失く
したからじゃないよ!」
一歩も引かない迫力の梓が近づいてくる。
「だったら、なんだっていうんだ!?」
「本当に忘れちまったのかよ!」
梓は俺のすぐ目の前にまで近づくと、いきなり膝を
立てて、その場にしゃがみ込んだ。
眉根を寄せて目を細め、俺の左のふくらはぎに顔を
近づける。
「お、おい」
俺が左足を引こうとすると、梓がアレを掴んだ。
「うッ!」
「…あっ、間違えた」