アラカルト->音楽の雑学->曲の盗作  
  曲の盗作に関する雑感です。盗作とは似て非なるもの、ゴーストライターに関する雑感も書いています。音楽と著作権に関する記事もご覧ください。  
 

 
 
発端
Yahoo!の知恵袋を見ていると、Beginの「涙そうそう」がハワイ民謡に似ているので、盗作ではないか、という質問があった。
問題のハワイ民謡について、具体的な情報が書かれていなかったので、比較することはできなかった。また、個人的には、Beginのような人達が盗作をするとは思いたくない。Beginの音楽は沖縄音楽が ベースになっていると思うが、音階が異なるハワイと沖縄系の音楽が似ているというのも?である。
(といっても、Beginの曲は沖縄音楽そのものではなく、ポップスなのでこの話は関係ないかもしれないが。。。)

この曲だけでなく、JPOPの曲が、海外の曲のパクリでは、という話はよく聞かれる。聴きくらべてみると、あまり似ていない場合も多い。音楽の知識の無い人であれば、メロディはまったく違っても曲のアレンジや雰囲気が似ているというだけで、盗作では?と思ってしまうこともあるのではないかと思う。 質問からは、メロディが似ているらしいのだが、原曲が聴けないため、どの程度かはわからなかった。

「涙そうそう」に関しては比較ができないので、単に似ているだけなのか、盗作の域に達しているのかは不明であるが、まったく元の曲を知らない人が、普通に似たメロディを作ってしまう確率について考えてみた。
※その後ネットで調べた限り、パクリ疑惑の曲は、Kealii Re Chel(ケアリーレイシェル)の「Ka Nohona Pili Kai(カ・ノホナ・ピリ・カイ)」という曲で、「なだそうそう」に英語の歌詞をつけてカバーした曲らしい。メロディが若干異なるらしく、そのことがかえって、盗作っぽく捉えられてしまう原因になっているのかもしれない。ネット上では、Beginがハワイの民謡をパクったのではないかという書き込みが散見されるようだが、誤解のようだ。ちなみに、盗作は英語では「plagiarism」というそうです。
確率計算
とりあえず、何も知らない人が、1小節分、似たメロディを作ってしまう確率について考えてみる。コードについては、メロディから自然につくもととして、とりあず無視。

1小節の音符の数は、1〜6つぐらい、それよりも多いこともあると思うが、これも無視。

移調して同じになるメロディは同じものとすると、最初の音は何を選んでも良いことになり、選択可能数は1になる。
次の音は、おおざっぱにいって、前の音から上下1オクターブ内の音、おおよそ24種類の音の高さから選ばれるのが普通である。スケール上の音が選ばれることが圧倒的に多いのでこれに絞れば 8×2=16種類である。同じ音への進行も含めると17か? (実はド〜シまで8つではなく7つの音しかないので、下のドから上のドまでだと、本当は15種類の音になります。)
しかし、17種類の音のどれでもいいということはなく、通常は、順次進行と言って、1つ上か1つ下の音が選ばれるか、同じ音が選ばれることが圧倒的に多い。これ以外は、3度以内への進行が多く、5度以上の跳躍進行は、あまり多くない。
これらを加味すると、片方向で4種類程度の進行から選ばないと、音楽的にメロディとて成立しないことが多く、上方向、下方向を考えても8種類ぐらいの音の中から選ぶことになる。
音の長さは、4分音符、8分音符、休符が多く、おそらく、前の音からのつながりで6種類くらいに絞れるだろう。
まとめると、次の音を決めるのに、音の高さ4種類ぐらい、音の長さ6種類くらいで24ぐらいの選択肢となる。

3つ目の音は、さらに1つ目、2つ目の音とのつながりで、音楽的にあうものを選ばなければならないから、可能な選択肢は、この半分くらいになるのではないかと思う。
あまり根拠のない計算だが、6つ音を続けるとすると、1×24×12×12×12×12=50万通りぐらいの組み合わせが可能であるが、実際、音楽的にメロディとして成立する組み合わせはもっと少ないはずである。

次に現存する曲の数を考えてみよう。
過去からの蓄積で、現在、普通の人が耳にする可能性がある作曲家が1000人くらいいるとする。(ハワイ民謡の作曲家まで入れるともっと多いとは思うが。。。少なくともJASRACにはもっと多くの作曲家が登録されていると思う。)
それぞれの作曲家について、曲数を10曲とすると、1万曲ぐらいが、対象になる。(これももっと多いと思う。)
1つの曲がAメロ、Bメロ、サビなどの繰り返し要素をはずして、24小節ぐらいあるとすると、24万小節が、既存の小節数となる。

先の計算では、全体に50万通りしかない組み合わせの中から、すでに24万が使用されているから、これは、つまり、考えられるメロディの数が飽和状態ということかもしれない。
さらに、マイナーな作曲家のマイナーな曲まで考慮すると、もっと窮屈な世界なのかも。。。
確率の計算がどうあれ、結局盗用かどうかは、本人にしか分からないのではないかと思う。
 
ちなみに。。。
そもそも、音楽は先人たちの蓄積の上に成り立っていて、自分で作曲したといっても、それらの蓄積に何%かの創作を加えたに過ぎない、というようなことを坂本龍一氏が言っていたように思います。今ではあたりまえになっていること、たとえば、西洋音楽(?)でオクターブの音を12に分割していることもそうですし、和声の付け方なども長い間に色々な工夫があって今のようになったはずです(遡ればバッハとかその前?)。
ここで面白い話があります。音楽関係の、とある国際学会で中国での違法コピー横行や盗用と言ってもいいぐらいの模倣が問題になったそうです。日本もアニメや音楽で被害(?)にあっていますから、中国を責めたてたところ、「日本だって、俺たちの考案した漢字をタダで使っているんだから文句を言うな」的な返しがあったとか。。。(←また聴きで脚色もあると思う。)確かに漢字は日本の文字文化の根幹で一理あるような気もします。しかし、国際的には、作者の死後50年たった著作物や自然発生的にできて考案者が誰か分からない著作物はパブリックドメインと言って、誰もが使用していい状態になります。漢字はもちろんパブリックドメインでしょう。

漫画などの違法コピーも問題になっているかと思いますが、セリフの漢字はやはり先人の考案したものを使用しているのです。音楽も同様の蓄積の上になりたっていますから、作曲なども全部自分で作ったものだと考えずに、「作者の死後50年経過していないものは勝手には使ってはいけないが、それ以外のものは先人のものを利用している」と考えるのがあっているのかもしれません。