剣岳
(2,998m) − 富山県
1999.08.19 (木)
山ある記
天候:晴れ後曇り
帰省先の実家から白峰村を通って金沢に出、国道8号を富山へ向かう。立山方面の標識に従い、立山駅に着いたのは3時間後。ケーブルカーの始発時刻が分からなかったが、とりあえず夜明けまで駅前駐車場の車内で睡眠をとる。立山へのマイカー乗り入れはここまでだ。
午前5時過ぎ、ふと目が覚めたので駅に行ってみる。既に立山黒部アルペンルートの発券業務は始まっていて、ケーブルカーの始発は6時と知る。室堂までのチケットを買い、車に戻って出発準備。
6:00
始発のケーブルカーで美女平へ。7分で到着(ケーブルカーが登る平均斜度は24度)。室堂直行バスは6:40始発。しばらく待たされるうちにケーブルカー第2便が到着。
6:35
室堂向けのバスが出発。車内のビデオによる観光案内を見ながら、外の景色を楽しむ。称名滝は朝は逆光で見づらい。直径10mの杉もある杉の原生林を過ぎると、大日連峰を左手に弥陀ガ原が広がる。広大な平原であるが、所々深い裂け目があり、小さな池ができ、人を寄せ付けない雰囲気を感じる。
右手に薬師岳や背後に時々のぞく富山湾を眺めながらバスが進む。よくこんな道を付けたものだ。正面に朝日を背に台形の立山三山が迫る。
7:17 室堂着(標高2,490m)。ターミナルの階段を上って外へ。逆光で薄暗い立山が正面にそびえる。剣岳はずいぶん奥に遠く見える。
7:40
室堂を発。濃紺のミクリガ池を右手に、硫黄臭がきついガスが吹き出し、温泉が湧き出る地獄谷へ一旦下り、雷鳥平へ向かう。室堂ターミナルからは結構下ることになる。涼やかな浄土川の流れに横木を渡した橋を渡り、雷鳥沢をひたすら登る。
9:02 剣御前小屋(標高約2,760m)。この辺りを別山乗越という。石、砂利を踏みしめ良いペースで登ってきた。剣岳がはっきり見える。ここからは剣御前山腹をたどり剣山荘方面に向かう。雪渓をいくつか渡り、剣山荘には下りずに、黒百合のコルを経由して一服剣へ。剣御前の山腹にはお花畑とハイマツが広がる。
別山乗越から剣岳を望む
10:10 一服剣(いっぷくつるぎ、標高約2,630m)。膝上から胸まであるハイマツをかき分けながら尾根をたどる。険しい岩塊・剣岳が迫る。
10:45 前剣(ぜんけん、標高2,813m)。気温21度。岩場を鎖をたよりに登ったり、下ったり。鎖はまだ新しく頼もしい。剣は目の前なのに一向に辿り着けない。右手の尾根を登るロッククライマーの掛け声が聞こえてくる。
平蔵避難小屋の上あたり、最難関カニのタテバイ(登り専用)だ。鎖場の途中でアクシデント。急に気分が悪くなる。貧血のような、軽い目眩。少し胸が苦しい。悪い病気だ。私は実は高所恐怖症だ。ビルの屋上や東京タワーは苦手だ。なら何故山登りなんか・・。高所恐怖症といってもここまでいくつも急な岩場を越えてきた。見なきゃいいのに崖の下を見たら余計気分が悪い。多分、疲労から来たのだろう。軽い高山病かも。空腹も一因かも知れない。おかしなことに妙なことが次々に頭に浮かぶ。こんな所で死ぬのか。ザックを捨てても山を下りようか?でもどうやって?助けを呼ぼうか?でも、ヘリなんかに救助されるのはカッコ悪いな。一種のパニック状態といえる。
幸いにも後続者がいなかったので一旦、ザックを狭い岩棚に下ろして深呼吸。いくらか気分が良くなる。こんな所でリタイヤは出来ない。ここへの途中でもオバサンや子どもが下りてくるのを見ている。しかし緊張で口が乾く。再び鎖を手に、緊張して足場を確保して登る。なんとかタテバイをクリア。カニのタテバイとヨコバイ(下り専用)の分岐のわきへザックを置くことにした。山頂を目前に、先ほどのこともあり、身軽なほうが安心と考えた。お茶の入ったPボトルを腰に下げただけの装備でアタック。
11:55 山頂。気温22.7度。あとは以外に楽に登れた。ガスに折角の景色が閉ざされ、祠に無事の登頂を感謝して、すぐに下山。先着しているグループが動き出す前に発った方が安心して下れると考えた。お茶で喉を潤しただけで下山開始。途中でザックを拾い、今度はカニのヨコバイを鎖と立派な鉄梯子を頼りに下る。
13:25 一服剣。気温20度。前剣を登って下って、また登り。大粒の雨が落ちてきて一瞬不安になったが、本降りにならずに済んだ。鎖が濡れたりすると心配だ。文字どおり難関をパスして一服。ずいぶん腹が減った。おにぎりを詰め込む。500mlのPボトルのお茶は残りわずか。今日の最大の失敗は十分な水を用意して来なかったこと。剣山荘には水場があるので、そこまでの我慢だ。
13:35
剣山荘。水をガブガブ飲む。まさにオアシス。山荘には団体さんが別山乗越方面からどんどん下りてくる。ここから剣御前小屋までは再び登りとなる。雪渓を渡り、お花畑に疲れを癒されながら登る。剣沢は別山の北側で大きな雪渓がいくつも残る。
14:45
剣御前小屋。多くの登山客で賑わっている。別山方面からもどんどん団体が下ってくる。気温18.2度。金沢から来られたと言う方(お名前は聞かなかったがAさんと呼ぶことにする)と朝ここで会い、帰りにまた、ここで一緒になった。剣岳の往復でも、つかず離れずといった形で、声を掛けていただいた。時々話をしながら雷鳥沢を下った。Aさんは日帰りの予定で来られていた。私は最初は最悪の場合、室堂まで戻れなければ途中で、小屋に泊まってもいいくらいに考えていたが、なんとか室堂まで辿り着けそうである。
途中、登山道のすぐ脇の草むらに雷鳥が4羽。大きいものでハトくらいの大きさ。人間が側にいても逃げない。浄土川の手前でAさんが湧き水を発見。すごく冷たい。剣山荘で補給したPボトルの水は完全に尽きていたので、ここで喉を潤す。浄土川を渡り、多くのテントが張られた雷鳥平の野営場にて、Pボトルに水を補充。ここでAさんと別れる。極楽谷のほうへ行くと言う。極楽谷経由は邪道、ここから雷鳥荘が真上に見える急坂こそが王道と、Aさんが言われるので言われるままに登った。また後でといった感じでAさんと分かれ、霧の中を歩く。
16:10
雷鳥荘。室堂まではまだまだ。血ノ池、ミクリガ池を見ながら室堂へ。最後の最後でのアップ・ダウンがきつい。霧の中を頭のなかも白くなりかけながら歩いた。
16:40 室堂。気温16.6度。なんとか着いた。ターミナルの階段を降りた正面の食堂で休んでいると間もなくAさん到着。缶ビールを奢っていただいた。キンキンに冷えたビールが胃袋に痛いくらい。17:00発の美女平行きバスに乗り、Aさんと話をしながら弥陀ガ原を下る。少し雨混じりの天気。下界に近づくほど視界は開ける。朝はあんなに天気がよかったのに。
17:46 美女平。18:00発のケーブルカーを待つ。
立山駅に着き、Aさんと無事の帰還をたたえ合い別れた。
いい気になってペースも考えずにカニのタテバイにアタックして、危険な状態に陥ったことは恥ずかしくて言えなかった。今回の最大の反省点だ。大袈裟だがホント生きて帰れて良かった。アップ・ダウンの多い、これまでで最も困難な登山であった。
室堂からの標高差約 510m。
<日帰り温泉>
帰りは上市町の”アルプスの湯・つるぎふれあい館”で汗を流す(\600)。打たせ湯にジャグジー、ジェットバス、歩行湯もあり、疲れた体もほぐされる。大きなガラス窓の外面に張り付いた2匹のアマガエルが微笑ましかった。
<参考地図>
アルペンガイド13 「北アルプス」(山と渓谷社)
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