富士山   (3,776m) − 静岡県                 1999.08.29 (日)

山ある記

   天候:晴れ後曇り

   8月最後の日曜となったこの日、やはり富士山は日本一だった。
   午前5時頃、富士スカイラインを富士宮口へと上っていくと次第に空が明るくなり、車は雲海の上に出た。あいにく5合目の駐車場は満車。手前の道沿いには路駐の列が4合目辺りまで続いていた。仕方なく、丁度4合目の下あたりに車を停め、出発。

   今回の登山には初めて同行者が3人おり、いつもと違った気分。
   今回同行したのは、友人のS夫妻とI氏。メーリングリストの話の中で急遽、富士登山隊の発足と相成った。S夫妻は最近ハイキングに目覚めたらしいが、I氏は全くの登山未経験者。多少の不安はあったものの、他の3人のやる気と気合が登る前から感じられたので楽観することにした。
   唯一不安だったのは睡眠不足。午前2時起きで、3時に東名・海老名SAでS夫妻と待ち合わせになっていたが、その夜はなかなか寝付けず、殆ど寝ていないのと同じ状態だった。これが祟ってか、高速道路の運転中に急に呼吸が苦しくなり、思わず最寄りの鮎沢PAに飛び込んで休憩する羽目に陥った。I氏が買っておいた酸素ボンベを勧められて吸った、多少気分が良くなった気がした。まさか登山をする前に酸素吸入となるとは、トンだオチである。

5:35 まあ、なんとか登山開始。4合目(標高約2,300m)からの出発という予定外の行程になってしまったが、まさかこれほどの人出とは予想していなかった。さすが夏休み最後の日曜日。既に日の出は過ぎたらしいが、太陽自体は我々の出発地点からは見えなかった(ほぼ真南にいた。富士宮口からご来光を見るためには7合目以上でないといけないらしい)。しかし、富士山の影が太陽とは反対側の空気の層に写る現象を見た(写真あり)。富士山の勾配の角度で斜めに薄い線が空に向かって走るのだ。ちゃんと学術的な名称があるのかも知れないが、初めて見たので感動した。気温23度。shadow.jpg (30223 バイト) 富士山の影(わかるかな?今回のベストショット)

6:15  5合目(標高約2,400m)。雲海が明るくピンクに染まるのを見ながら、車道を5合目に向けて歩く。5合目手前のコーナーですっかり上ってしまった太陽が眩しい。実はこの日、メーリングリストの仲間の別グループも富士登頂を目指していた。ご来光を見る予定だったらしいが、ちゃんと見られただろうかと思いながら、5合目に着。軽く朝食。トイレも済ます。下から見上げる富士は荒涼とした姿を快晴の空へ突き出していた。ひっきりなしに登山者が登っていくのが見える。ここからがホントの登山道。大小の火山灰が積もった道をひたすら歩くことになる。

6:50 新6合目(標高約2,500m)。S氏が先頭、私がシンガリという体制が自然に出来、殆どの行程をこのフォーメーションで歩んだ。山荘の軒先で冷やされているラムネがうまそうだ。

7:40 新7合目(標高2,780m)。いかにも米軍の軍人風の外人さんが、凄い勢いで登っていく。その人数も大したもので、この日の登山者の半分はいた(I氏談)のではというくらいに多かった。しかしさすがの米兵も苦しそうで、8合目以上ではあちこちで横になっている姿を見掛けた。

9:50   8合目。新7合目までは快調なペースで登ってきた我々であったが、そこから地獄が始まった。だんだん息苦しくなり、少し登っては深呼吸のパターンを繰り返す。自然とペースは落ち、8合まで2時間もかかってしまった。この高度は私は何度か経験済みだから、気圧や酸素濃度が原因ではない。やはり睡眠不足の影響がはっきり現れてきたのだと分析する。この現象は私だけではなく、S夫人もI氏もそうであった。いくらか睡眠はとれたというS氏だけは大丈夫そうであった。みんな顔色が悪い。黄色く見える。なんとか8合に着いたものの、小屋の近くの平地で横になって大休憩となってしまった。結局、1時間ほど眠ったようで、他の3人も同様にここで体を休めた。酸素ボンベは必要ないと自信を持っていたのに、お世話になってしまった。ああ、情けなや。

10:50 幾分、気分も楽になったところで8合目を出発。しかし出発するもS夫人が再び気分が悪くなる。彼女には8合目で休んでいてもらい、残りの男だけで頂上を目指すことに。1時間横になったものの長くは持たなかった。相変わらず息苦しい。数え切れないほど何度も途中で立ち止まって深呼吸をした。9合目の手前では、途中まで快調そうだったI氏も体調を崩し始め、道の脇で横になってしまう。軽く吐瀉していた。残念ながら彼はここでリタイヤ。残りの行程はS氏と2人になった。

11:50  9合目(標高3,460m)。気温19.4度。先に着いていたS氏と再出発。

from9.jpg (77335 バイト) 9合目から。

12:20   9合5勺。S氏は調子よく登れているが、私は死にそうなくらい苦しかった。とにかく酸欠状態。少し頭痛がする。深呼吸すると幾分目の前が明るくなる。心肺機能をフル稼動して、なんとか意識だけは保とうと脳へ酸素を送り込む。ゆっくりしたペースで歩くうちに、間もなく、浅間神社の鳥居が見えてきた。米兵がたくさん寝転がっている。やはり皆苦しいのだ。

13:30 剣ガ峰(標高3,776m、そう子供の頃覚えたミナナロである。日本最高峰)。浅間神社で富士は終わりではない。火口の縁より更に高くなったところに測候所が見える。ここが剣ガ峰。急斜面のほぼ直線の登り。それまでの赤い火山灰ではなく、黄色い(多分、硫黄質)灰に覆われている。ただでさえ息苦しい上に、剣ガ峰から下ってくる人の撒き散らすその灰を吸わないようにしながら登頂。とにかく苦しい。最高峰に立ったという感動どころではない。それでも気力を取り戻して、測候所の脇から雲海に頭を覗かせる南アルプスの山々をカメラに収める。山頂付近は快晴だが、かなりの高度まで雲が高く昇っているのが分かる。下山時の天候の悪化が不安になる。山頂の小屋ではシーズン終了を向かえ、撤収作業が行なわれていた。夏も終わりである。気温20度。

kengamine.JPG (71652 バイト) 剣ガ峰(測候所が日本の最高地点)

14:00 浅間神社より下山開始。他の2人が心配なので小休憩の後、下山。少し下ったところでS夫人が一人で登ってきた。凄い回復力であった。8合目で休んだあと、かなり気分は良くなったらしい。S氏は彼女をサポートして再び山頂を目指し、私は途中で休んでいるはずのI氏の具合を見るために一人下ることに。山頂を踏んだ安心感からか下りでは幾分呼吸は楽だ。

14:25  9合半。

14:40   9合目。午前中この手前でダウンしたI氏は、ここまでなんとか登ったようで、小屋の横の平地で横になっていた。頭痛薬を呑んでずっと寝ていたらしい。そういう私も気分は決して良くなく、S夫妻が下ってくるのをここで一緒に横になって待つことにした。

15:30  9合目から4人で下山再開。 15:30頃にはS夫妻も登頂を終え、9合まで下ってきた。いくらか回復したI氏は来年のリベンジを誓っての下山となった。ラジオ日本の競馬中継、新潟記念(G3)のレース実況で息苦しさを紛らせながら殺風景な火山岩の道をひたすら歩く。

15:50  8合目。この辺りから下はほとんど雲の中である。

16:15  7合目。もう息苦しさはなくなった。

16:45 新7合目。6合目だと思ったら未だだった。

17:15 新6合目。ずっと殺風景な火山灰の連続であったが、6合目の小屋下辺りの南斜面にわずかだがお花畑があり、ほっとさせられる。

17:35   5合目。無事下山をたたえて登山道の入り口で記念撮影。しかし、これで終わりではなかった。車を停めた4合目まで更に下らねばならない。霧で幾分視界が悪い車道をほとんど惰性で歩く。出来れば歩きたくない。朝はいっぱいだった車もほどんど駐車場にも路上にもなくなり、寂しい。

18:00 なんとか駐車した地点に到着。出発してから12時間半後のことであった。S夫妻は「もう富士山は(登らなくても)いいかな。」と語る。I氏は登頂を途中で断念せざるをえなかったことを非常に悔しがっていた。おそらく体調さえ十分であれば彼も登頂出来たはずである。同伴した者として私も残念に思う。

   苦しそうな彼をなんとかけしかけて無理矢理登らせることも出来たかも知れないが、気合だけで登れるものではない。たとえそれで登頂できたとしても下山の体力が残っていなければ、余計に大変なことになっていたかも知れない。この判断は難しいところだが、本人の意志を確認して、本人が納得できれば(悔しくても)無理はさせない方がいいと思う。また途中で具合の悪い者を残していくことも判断が難しいと感じた。今回のように好天に恵まれた場合や、人出が多く、小屋も要所要所にある場合はいくらか安心だ。これが違った場合どう判断しただろう。途中で置いていくことに一番不安だったのは、そのときは意識がはっきりしていて大丈夫そうでも、容体が急変することが高山ではありえるからだ。今後の課題としておこう。

   登りでは晴天に恵まれて寒いということはなかったが、風が吹きつけると肌寒く感じるため、長袖シャツを終始着ていた。だが顔はしっかり日焼けしてヒリヒリする。

   今回の反省点は、何と言っても睡眠不足に尽きる。体調が万全であれば今回のような無様な登山とはならなかったはずであり、より楽しい山行となったはず。他のメンバーにも迷惑を掛けた。終始、酸素不足で相当、脳みそがやられたかも?

  9合目でリベンジを誓ったI氏ともども、来年もチャレンジしたい。

標高差約 1,480m。

<日帰り温泉>
  ごてんば市温泉会館。いったん東名・御殿場ICまで下り、ICから箱根方面に5分ほどいくと左手に会館への案内板が見える。受付けは午後7:30、閉館は8時と早い。浴槽は1つと、やや小さ目の造り。銭湯っぽい雰囲気だった(\500)。