読書メモ

・「梅原猛の授業 道徳
(梅原猛:著、朝日新聞社 \1,300) : 2004.09.11

内容と感想:
 
本書は前著「梅原猛の授業 仏教」に続き、著者が2002年4月から9月にかけて京都・洛南高校付属中学校で「道徳」の授業で講義したときの記録である。前書同様、生徒へ語りかけたものであるから口語調で読み易い。洛南中は仏教系の学校(真言宗。東寺の境内にあるらしい)である。前書のきっかけとなったのもの日本社会の道徳レベルの低下を憂慮してのもの。宗教抜きに道徳が考えにくいというのが著者の立場。
 道徳の根源を親心、母の愛に置いている。しかも動物にすら道徳心はあるという立場である。
宗教の中でも特に著者は仏教に関心をもっている。従って本書での考えの中心は仏教だが、神道や儒教、キリスト教の教えにも触れている。その上で、著者が第十二時限で語っているように人類には新しい思想、世界に通用する道徳が必要だと。そして、それは十分に科学的な根拠の上に立つべきだと。デカルト思想と同様、「考える自己」から出発するべきだと。

-目次-
第一時限 いま、日本の道徳はどうなっているか
第二時限 明治以後の道徳教育はどうなったか
第三時限 道徳の根源をどこに求めるか
第四時限 自利利他の行と仏教・キリスト教
第五時限 自利利他の道徳と社会
第六時限 第一の戒律 人を殺してはいけない
第七時限 第二の戒律 嘘をついてはいけない
第八時限 討論「よだかの星」と「坊ちゃん」
第九時限 第三の戒律 盗みをしてはいけない
第十時限 人生をよりよく生きるために1 努力と創造
第十一時限 人生をよりよく生きるために2 愛と信
第十二時限 人生をよりよく生きるために3 感謝と哀れみ

<ポイント>
・義務教育の道徳の時間は実際には何の教育もされていない
・明治の神仏分離で神仏は切り離された。日本では千年以上も神仏がセットだった。天皇すら仏教徒をやめさせられた
・西欧列強の圧力から国を守るため日本の中心が必要となった。薩長により天皇は神にされた
・ダーウィンの進化論。キリスト教の教義に反する
・人間とチンパンジーの遺伝子情報(ゲノム)の差は1.23%に過ぎない
・もういいかげんに戦争で運命を決することをやめなくては
・言葉を作ったことで人間が人間になった(=文明が始まった)。文字を持って文明は発展した
・宗教も嘘かもしれない。人を救う嘘。
・逆境のときをどう持ちこたえるかで人生の価値が決まる
・天才とは努力できる才能である
・近代、人間は欲望を神としてしまった。複雑で肥大した欲望をコントロールしなければ人類は滅ぶ。

更新日: 04/09/19