読書メモ

・「梅原猛の授業 仏教
(梅原猛:著、朝日新聞社 \1,300) : 2004.08.16

内容と感想:
 
本書は著者が2001年4月から9月にかけて京都・洛南高校付属中学校で「宗教」の授業で講義したときの記録である。ほとんどが生徒へ語りかけたものであるから口語調で読み易い。中学生にも分かるように説明しているから大人でも十分理解できるだろう。しかし、難しい内容も含まれており、生徒らが十分理解できたかどうかは疑問だ。しかし、仏教系の学校(真言宗。東寺の境内にあるらしい)であるから仏教への興味はきっと深まったことであろう。六時限では生徒同士の討論が収められているが、なかなか皆しっかりとした意見をもっているのに驚いた。私が子供の頃はもっとちゃらんぽらんだった。
 本書で初めて知ったのは公立学校では宗教教育をしてはいけないらしいということ。著者が宗教、特に仏教を見直そう、そして子供たちに仏教を語ろうとした理由としては、現在起きている様々な問題の原因が、道徳にあるのではないかと感じているためだ。道徳を失っている。道徳は宗教によって裏付けられ、宗教により養われてきた。その宗教を失った日本では道徳も失われていく。そういう危機感からだ。今なぜ仏教が必要か、それを易しく語っている。

-目次-
第一時限 なぜ宗教が必要なのだろう
第二時限 すべての文明には宗教がある
第三時限 釈迦の人生と思想を考える
第四時限 大乗仏教は山から町へ下りた
第五時限 生活に生きる仏教の道徳
第六時限 討論・人生に宗教は必要か
第七時限 日本は仏教国家になった
第八時限 空海が密教をもたらした
第九時限 鎌倉は新しい仏教の時代T
第十時限 鎌倉は新しい仏教の時代U
第十一時限 現代の仏教はどうなっているか
第十二時限 いまこそ仏教が求められている

<ポイント>
・四つの徳(精進、禅定、正語、忍辱)を守れば生きていける
・煩悩をあまり絶ち過ぎるとエネルギーがなくなる。煩悩を利用する。
・仏になれないけど、なりたいという気持ちを持ち続けるのが仏教
・仏教は寛容だが、なまけものを養成する。行動する積極性が乏しい。
・曼荼羅は世界を調和的に考える。闘争的に考えない。宇宙の真ん中に大日如来がいる。人間もひとつの小宇宙である。自分の中にも大日如来がいる。その力を自分の力にすれば大きな能力を発揮できる
・禅でいう自由人。悟りを開いた自由人(羅漢)。本当の精神の自由を求めるのが禅。
・無に目覚めたら覚悟ができ、勇気が出る
・靖国問題。明治以降、日本神道はおかしくなった。戦争で国のために死んだ人を祀るということは、それまでなかった。古来は怨霊を鎮めるために(鎮魂)、神社を作り、祭りを行った。
・今は浄土真宗以外の宗派でも妻帯を許している。寺は世襲化され、生活は安定するが、布教の情熱を失った。
・多神論の復活。多様性を好む。正義より寛容、慈悲の徳を大切にする。

更新日: 04/08/22