読書メモ

・「オープンソースプロジェクトの管理と運営
(Jan Sandred:著
でびあんぐる:監訳、 \2,800、オーム社開発局) : 2002.06.08

内容と感想:
 
Open なOSであるLinux や、Webサーバの標準ともいえる Apacheなどは、オープンソースで成功した最も顕著な例だ。「ニューエコノミー」、「IT革命」とかいう言葉の裏側では、オープンソースプロジェクトから生み出されたソフトウエアが活躍していたりするのだ。
 そのオープンソースの成功は、オープンソースだけでは駄目で、インターネットが拡大したから成功したとも言えるし、オープンソースがうまく機能したからインターネット拡大が加速されたとも言えるだろう。
 オープンソースのいいところは、
・良質なソフトウエアが無料で手に入る(良質ばかりではないかも知れないが)
・ソースが公開されているから、多くの人の目に晒されることもあって、バグがあっても早期に発見され、修正される可能性が高くなる。従って、品質も次第によくなる。また、ソースを読むことでプログラミングの学習にもなる
 などが挙げられる。

 先に読んだ「リナックスの革命」では”ハッカー倫理”の側面からLinux の成功の原因を分析していたが、無報酬であっても開発作業をやる気にさせるだけの動機付けが、金銭の報酬以外にもあるということで面白かった。
 もちろん、無報酬であっても開発者に面白いと思わせるプロジェクトでなければ、人は集まらないし、人だけ集めても、ちゃんとプロジェクトを管理・運営していかなければ、よいソフトウエアは生み出せないし、続かない。
 以前から、こういったプロジェクトはどのようにして成功したのか、どうやって運営されているのかに興味があって、この本を書店で見かけたときには思わず、手にしてしまった。
 「はじめに」で書かれているように、本書の目的は「ビジネスツール」としてオープンソースを語ること、である。それでいて「オープンソースの内実は、ツールではなく人間管理」だと言っている。ツールはあくまで管理・運営を支援・補助するものであり、結局は作るのは人間である。であるから、いかにプロジェクトを成功に導くかは、一般的な企業内でのプロジェクト管理(ソフト開発に限らず)にも共通する課題でもある。
 その意味でも”オープンソースプロジェクト”の手法は適用可能なのだ。
 また、オープンソースの概念は何も”もの作り”だけに有効なわけではなく、「情報の自由な流れが進歩、成長、生産をもたらす」ことを知れば、ちょっとした日常生活の知恵から、世界政治にまでその応用は無限なのだ。「人類全体の長期的利益を確保」でき、「歴史上類を見ない生産性向上の機会を生み出」すことができるのだ。
 さて、そのオープンソースチームの管理には何が必要か?「信頼と尊敬」しかないと書かれている。グループウエアや意思決定支援システムなどと言ったツールについても章が当られて、言及されているが、やはりチームのメンバーが自由に出入りできるオープンソースプロジェクトでは、メンバーの動機付けが重要だ。開発作業はメンバーに強制できるものではないし、メンバーがその作業がつまらないと思えば、脱退して他のプロジェクトに移ってしまうこともありえる。会社組織の場合、つまらない仕事でも給料をもらえるのだから、(不幸にも)しかたなく働くということがある。
 結局、「リナックスの革命」にもあったように、うまく動機付けがされれば、金銭がもらえなくとも、やりたい人はやる。「単にそれが楽しいという理由で」
 他にもお金に換わる対価がある。それは例えば「恒久的名誉、教育、あるいは情報へのアクセスなどが報酬に」なるのだ。開発コミュニティに参加すること自体を楽しく感じたり、そういったコミュニティからまた新たなアイディアが生まれたり、そこで切磋琢磨することでスキルをアップできるかもしれない、など(これらは私の想像だが、多分そういうことだろう)。

 本書では最近はやりの開発プロセス論には触れていないが、結局は技術論よりはどちらかというと精神論になってしまったかな?という印象。まあ、人間がやることだから、単に技術論だけではうまくいかないのが現実。
 これまではオープンソースプロジェクトには参加したこともない人間(私)の感想であるから、誤解もあるかも知れない。理解が足りないかも知れない。今までのところ、なかなか参加とまでは至らないが、機会や時間があればちょっとしたプロジェクトに参加して、実際に体験し、雰囲気を感じることができればいいなとは思っている。なかなか興味のわくプロジェクトがない(知らない)、メンバーになることには気が引ける、などが、これまでそういった活動に参加しなかった理由(言い訳ともいう)。

 本書を読む前から疑問に思っていたのは、世界各地に散在するボランティア開発者をいかに管理するか、ということだ。やはり「最大の問題は、顔を合わせての会合の欠如、明確に意思を伝えることの難しさ、孤立の感覚、そしてほかのチームメンバーを信頼することの難しさ」にあるようだ。日本人だけのプロジェクトならいざしらず、世界的なプロジェクトとともなれば英語でのコミュニケーション(最低でもe-mail)は必須だろう。今後、インターネットビデオ会議みたいなのが当たり前になれば、リアルタイムで(当然、時差はあるが)、世界各地でいながらにしてミーティングできるようになれば、(英語がちゃんと話せれば)意思の疎通もうまくいくようになり、より生産性も向上するだろう。

更新日: 02/06/08