読書メモ  

・岩波文庫「海神別荘」(泉鏡花・著 \400、岩波書店)


きっかけ:
 戯曲集。鏡花の戯曲を読みたくて「夜叉ヶ池・天守物語」と一緒に購入。巻末に鏡花の年譜付き。

内容:
・「海神別荘」
 海底の琅(ろう)かん(王偏に干)殿には若い主・公子が棲んでいる。姉に乙姫というのが居るそうだから、浦島太郎が行ったという龍宮城の一族なのだろう。彼は地上から人間の妻をまさに迎えんとしていた。地上から宮殿に向う道中は鮫に襲われる危険もあり、黒潮騎士と呼ばれるものたちが彼女を警護していた。
 公子と対面した美女は、海底への輿入れに異存はなかったが、自分が元気で暮らしている姿を一目でも、地上に残してきた家族に見せたいと言って公子を困らせる。彼が言うには、こちらの世界に来てしまっては、地上に戻ったとしても誰も彼女の姿を認めることが出来ない、蛇体にしか見えないのだ。どうしても一度だけ地上に戻りたいと言ってきかないので、公子は好きにさせる。が、公子の言う通りとなり、悲嘆して海底に戻る。

・「山吹」
 子爵の家に嫁いだ料理屋の娘・縫子は姑に酷い仕打ちを受け続けていたが、夫の救いも望めず、とうとう家出をして伊豆修善寺まで逃げてきた。
 そこには昔、実家の料理屋に出入りしていた洋画家・島津がいた。彼女は密かに島津に心を寄せていたが、彼が結婚したと知って、仕方なく子爵へ嫁ぐことにしたのだ。彼女は伊豆へは死ぬ覚悟で来ていた。そんな彼女たちの他には、静御前の人形使いの老人が酔っ払って居る。彼は昔犯した罪の償いにと、縫子に折檻してくれと頼む。その場に現れたのが島津だったが、死を覚悟の縫子に救いの手を伸ばすどころか、情けないことに、みすみす死への旅路を見送ることになる。

・「多神教」
 場所は三河・美濃国境の山中の神社。お沢という若い女が役者の男を呪い殺すために、社へ通っていた。まさに満願の日、うっかりして懐に隠していた鉄鎚や五寸釘を落とすのを村人に見られ、咎められる。神職、禰宜など大勢が加わって彼女を責め立てる。しまいには”おかめ”面をかぶせて裸踊りまでさせようとするが、そこに守り神である媛神が現れ、彼女を救う。藁人形に釘を打ち込んで、自分を捨てた男を呪い殺そうとしている女をである。
 媛神の共をする巫女から渡された弓で、矢を射ると、道成寺の白拍子姿の男が落ちてくるのが見える。お沢の願いは叶えられ、逆に彼女を責めた村人たちは不思議にも梟にとり憑かれていく。お沢を救い、願いを叶えた媛神は巫女たちを引き連れ去っていく。

感想:
「夜叉・・」の解説で渋澤龍彦は「夜叉」「天守」を鏡花の戯曲の傑作と書いているが、「海神別荘」については、「あまり出来がよくない」と書いている。その「海神」ほか2編が収められた戯曲集。出来はともかく、3編の中では「海神」の舞台を見てみたい気がした。海底の神殿の架空の世界をどう表現するかが、一番の課題だろう。
 「山吹」はちっとも面白味がなかった。「多神教」は媛神が、自分を祭っている社の神職を懲らしめるのが、逆説的で愉快だった。

更新日: 00/07/27