8時半起床。

 荷物をまとめてフロントへ。最初に10ドルにまで値下げしてくれたボーイさんがいたので、お礼を言う。5時まで荷物を預かって貰う。5時にタクシーを呼んでやるというのでお願いすることにした。

 通ったことない道を歩きホアンキエム湖へ。カフェ・ダーを飲む。バイクタクシーを拾い美術博物館へ。とても落ち着いた古い建物だ。私の他には、旅行者らしき白人の女性ぐらいしか見あたらない。展示品の数は多くはないがクオリティーは思っていたよりも高く、楽しめる。すべて今世紀に作られたものだ。隣り合った絵画の制作年が20年飛んでいたり、全体の数の少なさがネガティブに「戦争」を暗示する。クオリティーが高いのでなかなかおもしろい。今世紀の作品とはいえ、内容は日本でいうと明治時代ぐらいで止まっている。従って抽象画は一点もない。排除されている可能性もあるが。

 1階脇のミュージアムショップへ。手書きの土産用の絵や版画を売っている。小さいものは100円からあるので、市内でよく見かける贋作ギャラリーで扱っているものよりもここの商品の方が趣味がよい。ここの美術館の本はありますかとカウンターにいる女性(おそらくベトナム人)にたずねると、カウンターのガラスケースから出してくれる。表には出しておらず聞かなければわからない。25ドル。高いがベトナムの本にしては印刷もなかなかだし日本ではまず買えないだろうと思い購入する。

 次に「地球の歩き方」に載っていた「DOME」というお店へ。細い路地の突き当たりにあるのでちょっとわかりづらい。中にはいると一転して非常にモダンだ。ヨーロッパの古い家具や、ホーチミンのナム・カーやデコラシオンに置いてあった刺繍入りの小物などもある。お店の奥には工房のようなものもあるのでひょっとするとここが外国人用の品物を作って卸している本店なのかも知れない。だがここでしか見たことがない商品もある。漆塗りの工芸品だ。といってもお椀などの伝統的なものだけではなく、アルバムやフォトフレームなどもある。アルバムが気に入ったのでひとつ買う。10ドル(この手のお店は定価が表示されている)。店員さんに、店内を写真にとってもいいかと聞くと断られた。

 近所の茶店でスプライトを飲む(この時点で1時半)。暑さのせいかあまり食欲はわかない。シクロを拾いホアンキエム湖南まで。昨日と同じ距離で80円。湖を北の方へ半周歩く。フォーを食べ、旧市街の36通り(通りごとに専門店が並ぶ)を、じっくり見て回る。中国文化圏らしく鳥屋さんは多い。

 ハノイのシクロの運転手は何となく声をかけて来るだけでしつこくない。通りもホーチミンに比べて細いのでバイクタクシーもそれほど目立たない。

 夕方になり露店でチェーを食べる。言葉が通じないので、適当に並んでいるものを指さして作ってもらう。チェーは基本的に女性が食べるもののようで男性はいない。しばらくするとチェーを食べている客のおばさんと隣の家の若い女性とが私の目の前で怒鳴りあいの喧嘩を始めた。ものすごい剣幕で目をむきだして罵りあっている。チェー屋のおばさんは、私の方をさして観光客の前でもうやめなさいよ、というようなことをいっている。が、全く収まらない。次第に若い女性の優位が歴然としてきて、おばさんは黙っているが若い女性は目を充血させながらあらんかぎりの大声で怒鳴り続ける。5、6分は続いただろう。ベトナム語の独特の発音が大音量で耳に残る。

 4時半にホテルに戻る。ボーイさんとしばらくお話をしていると、タクシーが来た。40分でノイ・バイ空港へ。7ドル。まずホーチミンへ行き、乗り継いで関空へ行き、さらに乗り継いで羽田へ行く。ノイ・バイでは国内線か国際線のどちらに乗ればいいのかと迷ったが、国内線のロビーのモニタに私のチケットと同じ便が表示されていたのでベンチに座って待っていると、女性が私に向かって日本人ですかと話しかけてきた。彼女も国内線か国際線かで不安だったらしい。彼女はベトナムに来るのは2度目で、今回は知り合いのベトナム人女性に会いに来たのだそうだ。隣の席に座り、ベトナム旅行の話をしながらタン・ソン・ニャット空港へ。さて乗り換えだと思っていると、タン・ソン・ニャット空港のロビーでアオザイを着た係員にトラブルで予定していた飛行機よりも小さな飛行機になってしまったので、乗れないかもしれないから30分程待ってみてくれという。周りには日本人客だらけで、皆カウンターに詰め寄っている。とりあえず全員の航空券とパスポートを一人ずつ見せて名前をリストにする。30人ぐらいのようだ。30分経つとやはり無理なので今日は100ドル返すから用意してあるホテルに泊まり明日の便にしてくれとのこと。明日の便といっても時間はわからないという。こういう説明はマイクでアナウンスされるわけではなくたまたまカウンターで聞いた人だけにしか伝わらない。英語がほとんど分からない人は、別の日本人に聞いたりして情報がやんわりと伝わっていく。私たちはもう少し粘ることにする。すでにあきらめた人たちは、お金を受け取りどこかへ行ってしまった。

 しばらく待っていると何人かの名前が呼ばれ、他の便の空きに入れたようだ。リストを見せてもらい順番を見ると、14、15番目と微妙だ。ちょっとカウンターから離れたところで待っていると、また何人かが搭乗口へ行っている。チェックされたリストを見ると、私たちよりもあとの人だ。二人でなぜ彼らの方が先に乗れるんだと詰め寄ると、呼んだのに来ないからだという。もちろん呼んでいないのだ。単にカウンターの前にいた人から優先しているようなので、二人でブーブー言うと次には乗れることになった。搭乗時間5分前だったので、デューティフリーショップも少しも見ずにあわてて機内へ。彼女は旅慣れていて私よりたくましく、そのおかげで乗れたようなもんだ。

 時間ははっきり覚えていないが、11時半ぐらいの飛行機だったと思う。私は少しも眠くないので機内でしばらく話をしていたが彼女は眠たいかもしれないと思い、いつでも寝てくださいというと即コテンと眠った。私は3時頃ようやく眠れた。

 関空から羽田までは、航空会社が違ったのでそこで別れた。また国内線なので荷物のサイズを指摘されたが空いているので隣の座席も確保してくれてそこに荷物を置くことになった。東京に着いたのは、お昼頃だったので結局16時間ぐらいかかった。