DVDを熱くしよう!


DVDをぜひ、本物にしたい。  そのために、まず本を書いた。
 オーム社刊行の「DVD−−12センチギガメディアの夢と野望」である。その書評が'96年10月11日の日経産業新聞に出たのでご紹介しよう。

DVDの生い立ちコメントを交え紹介。いよいよ市場に登場するDVD(デジタル・ビデオディスク)。CD(コンパクトディスク)と同じ大きさで二時間程度の映像を蓄えることから、音声、動画像、文字データなどを統合するパッケージメディアとして期待が高まる。本書はその始まりから未来までを各企業で中心的な役割を巣なしな人々のコメントを織りませ、詳しく紹介する。
 まず東芝が米国の映画産業を抱き込んで流れを作り、ソニーがコンピューター業界を行脚して巻き返しに出て規格戦争に発展した経緯、そして最終的には規格統一に至った課程を克明に描いた。さらに技術開発競争を演じたな松下電器産業、日立製作所、コンセプト作りで主導的な役割を果たしたタイム・ワーナーなどの活躍も紹介。青色半導体レーザーなどDVDの先にある技術など今後の展望についても触れている。(オーム社03−3233−0643、定価1500円)。

 写真はオーム社刊行の「DVD−−12センチギガメディアの夢と野望」(麻倉怜士著)


「DVD−−12センチギガメディアの夢と野望」の前文を載せよう。

「ところで、ミスター・アサクラ」
ひと呼吸ついて、男は眼光鋭く私の目をまっすぐに見ながらいった。
「DVDという考えを世界で初めて発想した人は誰だか、知っているかね……」
'95年4月、私はハリウッドはバーバンクのタイムワーナーホームビデオ本社にて、ウォーレン・リーバファーブ社長にインタビューしていた。取材中に逆に相手に質問されるほど、戸惑うことはない。
「いいえ、分かりませんが……」
「それはこの私だよ。リーバファーブだよ。それは1985年のことだった。コスト、クオリティ、発展性、VHSより簡単に保管でき、さらに面白いメディアをつくりださなければならないと思い立ったのだった」。

 私もさまざまな取材現場を経験しているが、ことリーバファーブほど自信に満ち、しかもそれを億すことなくいってのける男は、他に知らない。

リーバファーブは、それから1985年にDVDの原型のコンセプトを思いついてから現在までの長い道程を滔々とを語った。詳しくは本文を参照願いたいが、そんな個人の野心から生まれた「12センチの夢」が、いま世界中の電気メーカー、コンピュータメーカーに伝搬し、時代の最先端のテクノロジーを吸収し、ホームエンタテインメントに新たなる魅力を振り撒き、マルチメディアを改革している。

 なぜ、1994年の暮れからから95年の夏にかけて、世界の家電、コンピュータ、映画会社を巻き込み、熱きDVDのフォーマットウォーズが燃えあがったのか……。それは、この小さな光ディスクに対する期待が凄まじかったからだ。

 それは外見は単なる銀色ディスクだが、ある時は映画を収録するディスクであり、またある時にはコンピュータ・データが入り、それは高密度なCD−ROMになる。別のディスクはゲームだ。また別の12センチには、現在のCDより遥かに生々しい音の音楽が収容されている。さらに同じ大きさの記録可能なディスクもある。

 そう、もはやDVDは単なる「絵の出るCD」ではなく、音声・動画・数値データの、あらゆる情報内容を一つのパッケージに収め、さらに再生だけでなく記録も可能にしたオーディオ、ビジュアル、マルチメディアの3分野にまたがるスーパー・ディスク・フォーマットなのである。
 だから、見込める市場規模は莫大なものとなる。現在のコンパクトディスク、レーザーディスク、VHSソフト、CD−ROM、ゲームというすべてのソフト分野を一手にひきうけ、さらにそれらの相互のクロスオーバーにより、新しいメディア融合の世界を開拓するという巨大なパッケージなのである。2000年には10兆円の市場になるという。

 だから、このちっちゃな円盤に数え切れない男達の夢と野望が寄せられるのも当然のことではないか。銀の虹に輝くリフレクションを凝視していると、そこには数え切れないほどの男達の<思い>が、さまざまな光と影に姿を変えながら見え隠れする気がする。  この本はそんなDVD<デジタル・バーサタイル・ディスク>の過去・現在・未来を語る壮大なる技術の大河ドラマである。

写真はソニーのDVD試作機。とてもスタイリシュ。画質も抜群(10月13日。オーディオ・フェア)


 '96年10月のオーディオフェアでは、DVDに関するオーディオ協会主催の講演を行った。

 オーディオフェア広報委貰会が出したフェアニュースでは、こうあった。

「2日目を迎えたフェアは、平日にもかかわらず盛況な1日となりました。なかでも9社より出品されている次世代メディア、DVDの各コーナーは特に人気が高く、「発売はいつ?」「録画はできるのか」「価格は?」といった熱心な質問が飛びかっていました。  また、第6会場のセミナーホールでは、「DVD最新情報」と題するオーディオ・ビデオ評論家の麻倉伶士氏の講演が行なわれましたが、立ち見がでるほどの人気で、ホームビデオで撮影したDVD映像などを交えたお話に高い関心が集まっていました」

麻倉怜士はオーディオフェアの講演で何をしゃべったかというと……

 ユーザーにとってのDVDの面白さという点では、やはりDVD−CINEMAが興味深い。というのも単なる”小さなレーザーディスク”にならないように、DVDならではの、DVDでしかできない工夫が、随所にちりばめられているからだ。

 まず9通りまでの「マルチストーリー」機能。これは複数の結末をあらかじめディスクに収め、ユーザーのチョイスによって物語が枝葉に分かれていくもの。その変形として2つのチャンネルを切り替えて見るザッピング・ドラマ(2つの違う視点で、同じストーリーを構成する)も検討されている。

 9通りまでの「マルチアングル」機能もDVDの特徴。スポーツや舞台中継などの角度の異なる映像を複数取り込むもので、例えばサッカー試合の記録ソフトでは、メインの画面の他に、選手の経歴や、球の軌跡表示、メインのカメラ以外の別の位置からのカメラによる画像などのサブ情報を収録し、リモコンの操作で呼び出すのだ。オペラなどの舞台作品では、あの歌手の顔をもっとアップで見たいとか、アップの画像が送られている時でも、もっと全景を見たいと思ったとしても、見たいように画面が切り替えられる。
 これらの分岐映像は、実際には何のノイズもなしに、スムーズに場面転換する。枝分かれして、ディスクの中に細分化されて収録されている部分映像を、光ピックアップが飛び飛びに読むのだが、プレーヤー内蔵のデジタルメモリーがそれらを巧みにつなげ、見た目にはまったく映像中断のないシームレスな再生をしてくれるのだ。

 なぜ9通りなのかというと、リモコンのテンキーボタンで番号を選択して押すという使い方だから。実はこの機能の開発に当っては、東芝は2のビット乗の数を提案(8通り、16通り)したが、タイム・ワーナーから「リモコンで簡単に使うにはテンキーボタンで選択できなければならない」と諭され、9選択を採用したというエピソードがある。

 字幕や音声もマルチで対応する。オリジナル音声を含め、最大8ヵ国語の吹替え音声が1枚のディスクに収録できる。字幕は最大32ヵ国語に対応する。字幕がON/OFFできるのも嬉しい。特にオペラなどのソフトでは、これまでユーザーから同様の要望が多く寄せられていたが現行のアナログLDの環境では、日本語字幕が焼き込まれた状態で、そこから脱却することは不可能だったからこれは画期的だ。
 一回目の鑑賞では字幕入りヴァージョンを見て、それを頭に入れたところで2回目以降は字幕を消し、オリジナル音声だけで鑑賞したり、オリジナルの言語(イタリア語やドイツ語)を画面に出す……という仕業が、やっと可能になるのだ。

 DVD−CINEMAの音も興味深い。DVD−CINEMAは圧縮のドルビーデジタル方式と非圧縮のリニアPCMの両方をサポートする。リニアPCMではサンプリング周波数(周波数帯域を表す)が48kHzと96kHzの2通り選べ、量子化は16/20/24ビットが選択できる。現行CDは44.1kHz/16ビットだから、DVD−CINEMAのリニアPCMははるかに高音質なのだ。このモードは映像付きの音楽作品で採用されよう。

 さらに面白いのがドルビーデジタル。これはドルビーAC-3(オーディオ・コーディングの3番目)方式のペットネームで、これまで家庭でのサラウンド再生方式であったアナログのドルビー・プロ・ロジック方式を圧倒的に凌駕する音質と臨場感が得られるシステムだ。

 ドルビーデジタルはすでにレーザーディスクのデジタル・サラウンド方式としてスタートしているが、その本命はDVDである。映画ソフトはサラウンド音声で聴くと、興奮が断然違う。それも、テレビの内蔵スピーカーを中心にした簡易的なサラウンドシステムでなく、DVDプレーヤーとAVアンプを中核にした本格的なサラウンドシステムで聴くなら、興奮を通り越して感動の境地まで至るのは容易だ。ドルビーデジタルは5.1チャンネル構成。「0.1」とはスーパーウーファー用のチャンネルのこと。

 2チャンネルから加減算のマトリックス処理を行なって4チャンネルを生成する現行のプロ・ロジック方式に比較し、各チャンネルが完全に独立しているドルビーデジタルのディスクリート処理では、チャンネルセパレーション特性、位相特性、サラウンド効果のすべてが優れていることはいうまでもない。

 その音場の解像度の高さは、まさに驚くべきもの。これはディスクリート処理であることに加え、後方が2チャンネルであること、またそれが20kHzまでのフルバンドであることことが、その主な理由である。ドルビーデジタルではリアが完全なステレオになったため、後方左→後方右、後方右→後方左、後方左→前方右、後方右→前方左、後方左→前方左、後方右→前方右という、これまでに不可能であった方向の音像移動が演出できるのだ。それは移動感の再現だけにとどまらず、総合的な臨場感の表現に大きく貢献する。

写真上は麻倉怜士のDVD講演会のお客さん(10月13日、オーディオフェア)
写真下は東芝のDVDプレーヤーの画面(9月26日、ホテル・オークラ)


さらにDVDで面白いのは、自分の作品づくり。

 DVDは再生メディアの新しいシステムとして語られることが多いが、私はそれではものの一面しか見ていないと思う。DVDにはシステムの一員として、すでに記録ディスクが用意されている。2.6GBの容量のDVD−RAMがそれだ。現在のところはパソコン用の大容量記憶デヴァイスとしての脚光しか浴びていないが、数年後にMPEG2のリアルタイム・エンコーダーが実用化されるなら、それが家庭内映像記録の新しい主役として躍り出るのも時間の問題である。

オーディオ・フェアの講演では私のつくったDVDを披露した。

 ディスクをDVDプレーヤーのトレイに載せた。と、ディスプレイに映ったのは、紛れもなく私がこの手で撮影した映像であった。風薫る5月に挙行された、娘の桃子の小学校の運動会。競技は徒競走、騎馬戦、そして表現ダンスなどだが、望遠で手持ちで撮影したため、手振れがところどころにある画像。それでも、娘の記録としてたいへん貴重なもの。

 今回は、パナソニックのNV−DJ1で撮影したDVCフォーマットのテープを元に、オーサリング、エンコーディング、マスタリング、そしてプレスというプロセスを辿ってDVD制作にチャレンジした。
 それはテープで撮影した映像がディスクという、より汎用性の高い、より信頼感の高い、そしてより魅力的な媒体に化けた面白みである。また娘の成長のある時期の貴重な記録が、ディスクの微小ピットに未来永劫に定着されたという歴史的な醍醐味ももちろんある。


さてDVD製品戦略には各社の秘策がでてきているのは面白い。

 松下電器、パイオニア、東芝の3社の製品を子細に分析してみると、その狙っているところと秘められた戦略がクリアーに浮かんでくる。

 東芝のDVDプレーヤー、SD−3000の発表ショーは、近年に見たこともない豪華な内容だった。なにしろ発表会場が凄い。日本のホテルで一番ステイタスの高い、ホテルオークラの平安の間である。ギリシャ神殿風の巨大なオブジェにスモークがたかれ、レーザー光線が舞い踊る。スクリーンには、「DVD、始まる。東芝から始まる」というスローガンが。その中から幹部が登場するという、眩いばかりの演出。なんであろうか、これは………。きっとDVD発表のトリをつとめた東芝は、これまでのどこよりも派手に、豪華に、そして華々に発表会を挙行することで、改めてDVDのリーダーは私であるという宣言をしたかったのだろう。

 発表会はひじょうに派手だったが、それとは対照的に製品はひとつしかない。SD−3000の「SD」とは、かつての東芝方式の名称だ。

 なぜビデオCDの再生機能がないのか。松下、パイオニアはこの再生機能があるから、この点は劣る。これは、画質のいい映像を見せるDVDプレーヤーなのに、低画質のビデオCDの映像など見てもらっては困る(?)という主張であろうか?

 東芝にしかないフューチャー、色差信号の出力端子をどう解釈するか。これは、NTSC復調器を経由しない、品位の高いコンポーネント信号のまま、対応ディスプレイに入力できるというもの。アメリカで東芝が色差入力付きのテレビを販売しているため、DVDプレーヤーにも同じインターフェイスを採用したというのが真相だが、会場のデモンストレーションを見ても、S端子入力に比べ色の純度ではわずかに上回っていた。

 オーディオ&ビジュアル世界において、高画質/高音質/サラウンドという感動体験の場をプロモートしようという松下の姿勢は評価したい。

 DVDを振興したいという<思い>はDVDの盟主であるところの東芝より、松下電器の方が強い。私は東芝のDVD首脳も松下のDVDの幹部も知悉しているが、比較するとこうした意気込みは、松下のほうが遥かに強いのは、東芝には名を取られたが、実は松下が取る、技術では松下がDVDナンバーワンであるという思い込みの故であろう。

 DVD−A300はドルビーデジタル・デコーダー自体を内蔵した。これは、松下の家庭で手軽にデジタル・サラウンドを楽しんで欲しいというメッセージと解するのが正しいだろう。


写真上は東芝DVDプレーヤー、SD−3000
 写真下はソニーのDVDデモンストレーション。いつも大人気(10月13日、オーディオ・フェア)

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