・我が国の安全保障の今後 −米軍撤退と核武装の是非− (2004/9/24: 『東京新聞』 2004/10/6掲載)

ブッシュ政権は、冷戦体制から対テロ戦争等への戦略シフトとして、ドイツと韓国を
中心に欧州とアジアから約7万人を撤退させる米軍再編を進めている。
一方、我が国では、先月沖縄の普天間基地周辺で起きた海兵隊のヘリコプター墜落事
故を受け、基地移転問題が改めて浮き彫りになっている。
また、6カ国協議は現在継続中だが、切羽詰った北朝鮮が暴発を起こす可能性等も捨
て切れない。
取り巻く環境の変化を考えれば、我が国は今、安全保障の基本戦略を仕切り直す局面
にある。
しかし、個別問題、短期的視点からの議論はあるが、我が国の立場からの中長期的、
包括的な議論が殆どないのが現状である。

筆者は、今後の安全保障の全体像として下記の拙案を示す。

−基本方針−
◆北朝鮮の不安定性、及び将来的に拡大されると予想される中国等の脅威に対抗す
  るためには、日米同盟の維持強化と現時点での米軍の日本駐留は不可欠と見なす
  べきである。
◆しかしながら、他国に防衛を依存する情況は、主権国家として本来在るべき姿で
  はなく、今以上に米国の戦略に組み込まれる事は、日本の防衛・外交の自由度を
  損ない中長期的な国益にそぐわない。
  なかんずく、極東の範囲を越えた米国の戦争に実質的に自動参戦するような形は
  避けるべきである。
◆そのため、長期的には同盟関係を維持しながら漸次米軍の日本からの撤退を図り、
  日本が自主防衛能力を高めこれに置き換えて行くべきである。
  また、将来的には米国が負担軽減のためアジア全体から更なる撤退を図る事が予
  想される。
  その空白を埋め、少なくとも東アジアの安全保障は国力から見ても日本が中心と
  なって担うべきであり、必要なら改憲をすべきである。
 
−核への対応−
◆米軍が撤退しても、日本が米国の核の傘に守られる情況は変えるべきではない。
  即ち、日本はNPT(核不拡散条約)に則して核武装しない選択を継続し、それ
  を事ある毎に内外に表明すべきである。
  その一方で、米国と周辺諸国を牽制するため、図らずも国際情勢が日本を核を持
  たざるを得ない情況に追い込んだ場合には核武装を選択肢に入れる事を予め宣言
  して置き、IAEAの査察に耐えられる範囲内で核開発、弾道ミサイルに比較的
  短期間に転用可能な技術を保持充実させるべきである。
◆また、核と弾道ミサイルを持たない代りに、日本は弾道ミサイルを迎撃するミサ
  イル防衛を拡充させるべきである。
  現在、ミサイル防衛技術は開発途上にあり米国が保持しているが、この技術移転
  を要求し将来的には国産化を目指すべきである。
◆更に言えば、本来、矛(弾道核ミサイル)を持っている国は、楯(迎撃ミサイル
  システム)を持つべきで無く、矛を持たない国こそが楯を持てる事を原則化し、
  この牽制機能の上に核の縮小均衡・廃絶を目指す事が理に適っており、NPTの
  精神にも沿う。
  米国からの技術移転の進展を睨みながら、この方向に国際世論を誘導して行くべ
  きである。

−その他−
◆実質的に、中国等を将来的な仮想敵国とし防衛力の充実を図りパワーバランスを
  実現させつつも、これらの国を加えた東アジアの集団安保体制の枠組を構築する
  と共に官民の交流を盛んにし、硬軟両面で地域の安定を図るべきなのは言うまで
  もない。
◆日本は、国連の常任理事国入りをし世界の安全保障維持についても相応の負担を
  すると共に、「錦の御旗」としての国連の権威と調停機能を高めて行くべきであ
  る。
◆沖縄の米軍基地負担については、前述した米軍の日本からの撤退により削減して
  行くが、台湾海峡が近いなどの戦略的重要性のため代りに自衛隊が引き続き相当
  規模駐留する必要性が予想される。
  しかし、本土で代替可能なものは本土で負担すべきである。

筆者は、国際的な大義は長期的な国益に繋がり、国益と大義、現実と理念のバランス
を図る事が安全保障の構築に不可欠であるとの観点から上記のような拙案を示した。

また拙案には、それぞれの期限等が入っていないが、安全保障等の国家の基本戦略を
決めるには、包括的な概要を示してぶつけ合い大きな方向性を確認した後、次段階と
して期限や規模、実現順位を肉付けする議論をする段階を経るべきだと考える。

瑣末、断片的なものに留まる事を避け、是非とも各方面から我が国の安全保障につい
て様々な全体像が提示され、責任ある議論が行われる事を期待したい。

 

                       以上

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