−提 言−

 ・W杯戦に見る日本再生への示唆 (2002/6/24 『週刊 エコノミスト』 2002/7/9号掲載)

トルコ戦に敗れ、日本代表としてはワールドカップが終わった。
もちろん開催国としての任務は未だ終わりではない。

共催国の韓国は勝ち進んだが、日本のベスト16入りは前回、前々回からは大きな
躍進といえるだろう。

そこで、いささか牽強付会になるが、日本代表の戦いの中に低迷を続ける日本経済
再生へのヒントを探ってみた。

先ず挙げられるのは、中田や稲本のように個人の活躍が光った事だ。さらに単に日
本的集団主義から抜け出して個人が立っただけではない。やや単調さがあるが、個
人技が見事にチームの中に「再組織化」されていた。

次に守りにおいて、フラット3によるオフサイドトラップによってシステマティッ
クな守備をしつつ、危機的局面では宮本等の現場指揮により臨機応変な対応が効を
奏した。

また、この方式により確実な守備を固め、ボールを奪い中盤へつなぎ攻勢に転じる
戦略が機能した。

今日、日本の集団主義が批判され個人の積極性、能力向上の必要が叫ばれているが、
未だビジネスの場では終身雇用制等の従来のシステムとの間で明快な答えが見出さ
れていない。
中田や稲本の優れた個人技のチームへの「再組織化」は、今後の個と組織の関係の
ヒントになるのではないか。

また、従来の社内の個人的繋がりに過度に頼り過ぎた業務運営は、転職社会の進展
等に伴い人間的関係が希薄になるに従い、逆にセクショナリズムにより機能不全な場
面も目立ってきた。
宮本等のシステマティックかつ臨機応変な守備は、ルール化、マニュアル化した上
でのさらなる柔軟対応という形でこれからの組織運営のモデルになりうると思う。

さらに、ビジョンと本質を欠いた小泉改革は論外であるが、国民の将来不安により
必要な諸改革が総論賛成各論反対のまま座礁してしまっている日本社会にとって、
確実な守備固めとこれにに基く攻勢は一つのモデルを示している。
即ち、国民とマスコミの反対論を恐れず、これを説得しきって消費税の目的税化等
による確実な社会保障システムを先ず構築する事。その上で、大胆な規制緩和、自
由競争の促進を図って行く事が必要だろう。

韓国に較べ、士気の激しさの不足、トルコ戦でのトルシエ監督の戦略への疑問等は
あったが、日本代表は確実な成果を上げた事は間違い無い。
確実な成果には、確実な理論と組織運営、それに基く各自の努力があった。
逆に今日の日本経済と社会の昏迷は、それらが欠落しているために他ならない。
一定の成果を挙げたトルシエジャパンから学ぶ事は大きい。

最後に、国家を意識して戦う事は、選手個人が自分のプライドやプロとしての利益
を賭けて戦う事と相矛盾するものではなく両立したものである事を指摘して置きた
い。
国家同士の戦いを強力に意識したワールドカップという舞台で、各国代表の戦いは
改めてそれを示した。

日本サポーター達の応援が一過性の熱狂に終わる事なく、他国への尊敬を伴った健
全な国家意識へと育って行く事を切に願う。

 

                       以上

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