−提 言−

・頓挫する小泉改革を巡る2つの世界観 (2003/4/27: 竹村健一『これだけメール』 2003/5/2 VOL.221掲載

小泉政権誕生から2年が経った。
経済、株価、雇用情勢はズタズタで、小泉構造改革は頓挫して進まない。
現在、この経済状況を良いという人は最早いないが、その原因を巡って大別すると
次の2つの見方、世界観がある。

@「小泉改革性善説」
一つは、現在の状況は、小泉首相が抵抗勢力の妨害に会い本来の構造改革を進めら
れない事によるという世界観だ。
これによれば、極単純化して言うと抵抗勢力を排除し中央突破で本来の不良債権処
理、公共事業カット、緊縮財政等を進めれば、やがて今日の日本の凋落を反転させ
再び繁栄を得られると言う事になる。

A「小泉改革性悪説」
もう一つは、小泉首相の構造改革は方向性自体が間違っており、もし強引にこれを
進めれば、再び繁栄を得られるどころか日本は崩壊するという世界観だ。

前者に属するのは、小泉首相本人と竹中金融・経財相をはじめ政権に近い政治家や
エコノミスト達、財界人、旧大蔵官僚、また米ブッシュ政権の閣僚等である。
しかし、当初「小泉改革性善説」を取っていた人達の中でも立場のある人ほど、デ
フレの進行の中で徐々にそのスタンスを変えて来ている。

だが、40%以上の内閣支持率に現れるように、一般の有権者の間では、特にまだ
直接デフレの悪影響が達していない主婦層、年金受給者層を中心に漠然とこの説を
信じている人が多い。

また、野党民主党の議員の中には、政権の実務に就いている本家の竹中氏以上に、
この説を信奉している者が少なくない。
岡田幹事長、枝野政調会長等の官僚出身、司法出身者や都市部選出の議員が中心で
ある。
いわば、彼等は「不良債権処理・緊縮財政至上主義者」という事が出来よう。
彼等は、政局変動の際には小泉首相との連携を視野に入れていると見られる。

一方、これに対し後者の「小泉改革性悪説」に属する者の考えは多様である。

そのうちの一つは、改革自体が不要だといういわば「改革不要論」だ。
既得権益を破壊せず、ある程度の微修正と積極財政を行えば、再び繁栄を得られる
事はなくとも何とか凋落の速度を押さえられるという希望的観測である。
自民党橋本派を中心とした抵抗勢力がこれに該当する。
また積極財政の中身は福祉中心であるが、公明、社民、共産党も該当するだろう。

さて、ここまで述べた「不良債権処理・緊縮財政至上主義」、「改革不要論」の何
れにも展望は無い。
特に前者は、これによってデフレが進行し、株価下落、不良債権の新規発生、新規
起業率の下落に歯止めが掛からず、企業淘汰により産業構造改革と経済再生を図ろ
うとする目論みが既に全般的に破綻し悪循環に陥っている。
また、これを食い止めるための補正予算による戦力の逐次投入的財政出動と税収不
足により財政再建のシナリオも破綻しており、失敗を現在進行形で実証中である。
これらは、抵抗勢力の妨害のせいではなく、自己完結的な失敗である。
破壊と現状維持の両極端からは、どちらも成功が得られる事は無い。

改革とは、「変えるべきを大胆に変革し、変らざるものを残す事」である。
また、「壊すべきを壊し、護るべきを護り、必要なものを創造する事」である。

具体的には、包括的な規制撤廃、一括財源移譲を伴った地方分権、不要な公共事業
の中止、独立行政法人・特殊法人の原則民営化等の即時実施によって変革、簡素化、
自由化をする事である。

他方、高速道路の全国無料化、稼動時の経済効果の高い公共投資による積極財政、
一定重量以下の信書制度保護による全国郵便網の維持、消費税の福祉目的税化によ
る基礎的社会保障の強化、投資促進型の政策減税、重点化先端技術の位置付けと予
算措置等々により景気を下支えしつつ護りと創造を行う事である。

これらの具体策を「一定のナショナルミニマムを伴った自立社会の建設」のような
大構えの社会の形・ビジョンの下に手順を整理し組み合わせて行う事が必要とされ
よう。
また、それらにより2〜3%のGDP実質成長を実現させて行く中で、不良再建処
理と10年前後を掛けての財政プライマリ・バランスの実現を図るべきだろう。

現在の経済状況悪化の原因については、前述したように「小泉改革性善説」と「性
悪説」の2つの世界観が支配している。
しかし、状況を打破し今後の展開に繋がるような、より具体的な対立軸は整理され
て示されていない。
結果、政局はべた凪で、死に体の小泉政権が少なくとも総裁選の9月まで延命する
のみである。

今後の政局は、一日も早く「にせ構造改革」対「真の構造改革」の対立軸で色分け
されるべきだ。
与野党の中からトータルな視野と現状に対する真の責任感を持った政治家が集結し、
「不良債権処理・緊縮財政至上主義者」、「改革不要論者」の両者を斬り捨てて救
国政権が樹立されなければならない。
しかし、それがどういう経緯と形で実現するかは、まだ誰にも見えていない。

 

                       以上

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