−提 言−

・忍び寄るハゲタカ歓迎論への懸念 (2002/11/10: 『実業界』 20031月号掲載

竹中金融相を政策責任者に据えての政府の不良債権処理加速策が、デフレ対策とセ
ットで「総合デフレ対策」として10月末に発表された。

与党側との妥協により骨抜きにされたとの見方も在るが、資産査定の厳格化等、骨
格部分は残ったと見るべきだろう。

さて、小泉首相と竹中金融相の考えている事は、不良債権処理を緊縮財政の下に加
速させ、弱い企業の市場からの退場、銀行の国有化、経営陣の入れ替えや売却等を
通して産業構造の改革、経済再生を行おうと言うものだ。

これに対して、政府案は日本経済を焼け野原にした上で、米国等外資による買収、
日本再占領を導くとして、与野党の反小泉・竹中勢力からは「ハゲタカ・ファンド
の手先」である等との政権攻撃がされている。

今後、小泉・竹中路線がどう進展して行くのかは予断を許さない。
自らも将来ビジョンを持たない抵抗勢力との妥協を繰り返しながら経済株価をジリ
貧に向かわせるのか、あるいは民主党の一部に手を突っ込んだり、解散総選挙を打
って中央突破で本来の考えであるハードランディングを強行するのか。

実際に小泉首相等が「手先」かどうかは別として、筆者が普段見聞きする感触では、
現在巷では、特に経済の中核である都市部の中年以下のサラリーマンの間に、小泉
・竹中路線支持とセットで、むしろ日本経済は一旦ある程度落ちる所まで落ちて、
外資の力も借りて再生する以外にないとする言わば漠然とした「焼け跡・ハゲタカ
歓迎論」が広まっている様に観察される。

こうした世論の空気に対して、次の点から筆者は懸念を感じている。

・外資に任せる以外にないとする他人任せの態度、主体性の欠如
・今後来る痛みに対する認識の甘さ
・敢えて、一旦悪い方へ進ませる事が再生の条件だとする根拠なき信仰
・閉塞感を背景にした、一刀両断的な政策やフレーズを選び、包括的な議論を避け
 る知的怠惰さ、思考停止傾向

筆者は、不良債権処理を含めた現在の日本経済再生の施策としては、地味で回りく
どい方法だが人の病気治療の様に、@例えば「ナショナルミニマムを伴った自立社
会建設」の様な将来ビジョンの明示等のインフォームドコンセント、A規制緩和、
行政効率化等の体質改善、B財政支出、各種減税、消費税の福祉目的税化等の栄養
剤・輸血・麻酔、CGDP2%以上成長にする中での不良債権処理促進、産業整理
統合等の外科手術、D失業保険、職業訓練等の止血剤・縫合・リハビリの様に、自
然な手順に沿って行うべきだとする立場である。

現在の日本は強いデフレ下にある。また現存の不良債権の大部分はデフレ原因で新
たに発生したものであり、これを処理するためには一部企業に留まらず日本経済全
体への影響度合いが高い。
この状況下で、本来の小泉・竹中路線で緊縮財政下のハードランディングが強行さ
れた場合、その意図の有無に係わらず「焼け野原」になる可能性は高い。

その後のウインブルドン現象は、サッチャー革命や韓国の比ではないだろう。
ウインブルドン化後に、「黄色い猿」にはアングロサクソンは甘くないだろう。
日本人にその覚悟が出来ているとは到底思えない。

「焼け跡・ハゲタカ歓迎論」と並んで見られる現象に、先の衆参同日補選の低投票
率で見られた政治的無関心がある。
これらは、主体性の放棄という点で同根である。
トインビーは言った。「自己決定出来ない文明は亡びる。」
筆者には、日本が亡びの道を進んでいる様に映る。

 

                       以上

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