−提 言−

 ・新産業国家戦略 試論 (2001/12/25)

圧倒的な賃金格差を背景にした中国の躍進等により、国内産業の空洞化が懸念されている。
これらを踏まえ、今後の我が国の産業の在り方がどの方向に進むべきか、「新産業国家戦略」として以下に論考する。

■国家としての重点育成分野の選別と明示
・ 今後の国家としての重点育成分野を明示するべきである。これにより産業界に新産業分野として向かうべき方向性を与え、民間投資を引き出す。

・ヤングレポートを提示して産業の方向性を強く打ち出したアメリカに比べ、日本の政権は短命である事を鑑みて、重点育成分野の明示には基本法等の立法措置をとる事が望ましい。

・具体的な重点育成分野としては、ライフサイエンス(生命科学)、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料、超伝導、レーザー、次世代エネルギー等が考えられる。

■国家、企業、大学の一体化
・重点育成分野への投資も民間が行う事が本来であるが、事業規模、採算ベースの面で、民間セクターが手を出せない高度に先端的な研究開発、インフラ整備の部分には先行投資として国家予算を大胆に支出すべきである。

・国家、企業、大学の一体となった取り組みが必要である。このための各種規制の撤廃、人材の交流・「場」の創造、知の組織化・ネットワーク化を行うべきである。

■経営システム
・「日本的経営」の精錬・システム化が必要である。
 アメリカ型成果主義は企業を活性化させる反面、貧富の差の極端な拡大ももたらし、アメリカ本国でも社会の不安定化を招いており、転職市場等の未整備な現在の日本にはそのままでは移植できない。
 一方、日本の終身雇用制、年功序列は企業に停滞をもたらしている事も事実である。
 日本的経営のプラス面は、極端な能力主義でないため、蓄積されたノウハウが先輩から後輩へとスムーズに受け継がれて行くところにある。
両者の良いところを生かしシステム化する必要がある。
例えば、日本企業も成果主義を取り入れて行くと共に、ノウハウの定型化、後輩の育成等の定性的要素を数値化し、売上成績等定量的要素との評価割合を明確にして、成果としてカウントする等が考えられる。

・国内本社の戦略本部化を図るべきである。
特にサービス業については、IT技術と組み合わせたより一層の高度化、システム化、差別化が求められる。
 また、製造業については、生産拠点の海外移転は避けられない。国内本社の機能としては、研究開発、生産・業務・経営ノウハウの蓄積・システム化、経営管理に特化し戦略本部化する必要が出てくる。

・市場の変化の早さに対応するためには、コア業務を残しコストとの兼ね合いを考慮した上での、徹底した外注化が求められる。

■国際的取り組み
・バイオ分野、環境面等、市場原理を超えた規制については、日本だけが突出して行うのではなく、必要な規制であれば国際的共通ルールを制定すべく働きかけ国際的同軌をとるべきである。
 さもなくば、国際競争と倫理面等との間で迷走する事になる。

・為替対策としては、円安はデフレに対しては緩和策となるが、極端な円安は日本売りとして危険なものであると共に周辺アジア諸国の経済に甚大な影響を及ぼす。
 これらを鑑みて、(1ドル=)125円前後で安定させる事が現在の日本の国力として適当である。

■国内対策
・外資導入の原則としては、次の事が言える。適切な割合の外資による直接投資・買収は、日本企業の経営に対し刺激と活力を与えプラスであるが、一定割合を超えてウィンブルドン現象を起こす事は国民の主体性が失われ長期的には国益に反する。
 これは、日本が明治維新において外国の学問、技術を上手く取り入れ、殖産興業、富国強兵により短期間に列強の仲間入りを果たした事と、他のアジア諸国が列強にコントロールされ植民地化されていった事に似た面がある。
 この観点に立ち、直接的な規制は難しいが、それ以外の何らかの間接的方法で、国家戦略として外資の割合を一定レベルにコントロールすべきである。

・自由貿易協定等を推し進め、貿易立国の戦略をより明確に打ち出すべきである。
 農業については、食糧安保等の観点から国家戦略の一部として位置付け、自由経済、自由貿易の原則上国際的に協調すべき点と逆に譲れない点を明確化し、農政、通商政策にあたるべきである。
 国土の保全、治水、自然環境の保全、文化の伝承等の農業の「多面的機能」については、食糧安保よりは重要性が低い副次的なものとして考える必要がある。
 なお、進んでは、国際社会で一定の範囲での「食糧自給権」を確立すべく日本は働きかけるべきである。それと共に、食糧安保に関係の薄い作物については、長期的には基本的に自由貿易の原則に従うべきである。

・経済政策全体としては、まず発展と調和の同時実現を目指した一定範囲のナショナル・ミニマムを伴った、規律ある自立社会の建設をビジョンとして掲げるべきである。
 その上に立ち、地方分権社会の確立、消費税の福祉目的税化、規制緩和の包括的実現、公共投資の効率化、デフレ対策としての短期的な財政支出等により、デフレスパイラルに陥らせる事無く数年の内にGDPの安定的3%以上成長の実現を図る必要がある。
 合わせ、抜本的な少子化対策を行う必要がある。
                                             
■NTT分割案
・NTTの独占体制による弊害は、完全分割化により解消すべきである。
 同時に、 NTTの基礎研究機関については、一括し別会社として設立し研究開発体制・研究成果の蓄積の拡散による損失を防ぐべきである。

 

                       以上

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