−提 言−

・日本は国連中心主義を貫け −イラク攻撃への対応− (2002/11/25: 『外交フォーラム』 2003年2月号掲載

イラクが大量破壊兵器の無条件査察および廃棄を定めた国連安保理決議を受諾し、
近く査察が開始されると共にイラク側からこれら兵器の開発計画の開示文書が提出
される事になった。
これらの動きを受け、日本もイラク問題への具体的対応方針を早急に決めて置く必
要がある。

そもそも、この問題の背景には米国とイラクの国益上の対立があるが、それ以上に
両国の指導者ブッシュ大統領とフセイン大統領の個人的要素に負うところが大きい。
ブッシュ大統領は単独攻撃も含め、今後のあらゆる局面を捉えてイラク攻撃を実現
させたい様子だ。
一方、フセイン大統領はブッシュ政権の思い描いた通りにはさせないようにと、国
際世論の風向きを計りながら策略を巡らすだろう。

ブッシュ大統領がイラク攻撃を模索する目的として、@イラクの大量破壊兵器排除
による安全保障リスクの摘み取り、A再来年秋の大統領選での再選、Bイラクに親
米政権を樹立する事による中東の石油支配およびこれによる米国による世界秩序の
完成、C短期決戦により消費冷え込みと原油高騰を押さえた上での軍需による景気
刺激、Dファミリーと自陣営の石油利権および軍需産業利権、E父ブッシュがフセ
インを排除できなかった事等の復讐戦(順不同)等が考えられる。

一方のフセイン大統領が米国と対立して見せる目的としては、@米国に国際政治の
場で一矢報いる事、およびこれによる体制基盤強化、A長期的にはアラブ進んでは
イスラム世界を束ね、欧米の干渉を排除し政治、経済、軍事で欧米と互角に渡り合
う事、B、Aを通し英雄として歴史に名を残す事(必ずしも成就せず、その過程で
殉死する事も可とする。)等が考えられる。

両者の目的とすると思われる所が多様な要素を含んでおり、それぞれの比重が不明
確のため今後の展開は予断を許さないと共に、両者の言い分の正当性の度合いは単
純には断定できない。各国には注意深い観察が必要とされる。
新たな国連決議を得ないでの単独攻撃等ブッシュ政権の行き過ぎが懸念される一方、
大量破壊兵器を保有する可能性の有るイラクは世界秩序への脅威で有る事も事実で
ある。

さて、日本の対応方針としては、当然に国益と国際正義を基調としなければならな
い。
具体的には、まずイラクに対しては無条件査察への全面協力と、米国に対しては国
連決議等の手順を踏んだ慎重な対応を取らせるべく、主にEU諸国と結んでの注意
深い監視と両国に対する粘り強い働きかけが必要であろう。

仮にイラクが大量破壊兵器開発計画について虚偽報告をしたり無条件査察を妨害を
して、経済制裁等も効果が無く国連で多国籍軍によるイラク攻撃および協力要請が
決議された場合には、法的側面を明確に整理した上で後方支援等の軍事協力も視野
に入れるべきである。
実際に日本が軍事協力を行うかは、状況に応じ世界秩序と国益を勘案し主体的に左
右を決めるべきであろう。

しかしながら、十分な国連手続が取られない中での米国単独攻撃は、米国の国益追
求の側面が強く国際的な治安維持活動では無いので、日本は協力すべきではない。
また、仮に多国籍軍へ軍事協力をした場合であっても、事態の推移に対し主体的に
対応し、停戦の過程及び戦後処理の「調停者」的役回りを演じる余地を残して置く
事を模索すべきである。

小泉政権は対応する法案が間に合わない事等を理由に、今は一応否定しているが、
米国単独攻撃が行われた場合、何の主体性も原理原則もなく、テロ特措法を拡大解
釈する等法的整合性が曖昧なままに、なし崩し的にブッシュ政権に追従し泥縄式の
実質的な軍事協力を行う事は想像に難くない。

現在辛うじて、「国際正義」の根拠となるものは、安保理と総会の権限や常任理事
国数等の問題を抱えながらも国際的な枠組で具体的な治安維持の対応を決定する国
連の決議しかない。
「後方支援活動は軍事協力でない」等との国際常識では通用しない原理で、表面的
に憲法第9条との関係を処理するガラス細工のような理論構築と対応策を考えるの
ではなく、理念に基き改めて国連中心主義を一つの錦の御旗とし、原理原則を明確
にした主体的な対応が望まれる。

 

                       以上

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