−提 言−

・民主党は、対立軸を鮮明にせよ (2003/9/23: 竹村健一『これだけメール』 2003/9/26 VOL.242掲載

11月の解散総選挙に向けて、民主党は、18日にマニフェスト素案を発表した。
来月5日には合併党大会を開催し小泉自民党を迎え撃つ用意をしている。

だが、少なくとも今の態勢では、拉致問題で手腕を見せた「ソフトで爽やかな鷹」
安倍晋三前官房副長官を仰天人事で党幹事長に抜擢し広告塔に据える等、選挙シフ
トの布陣を整えた小泉自民党を倒す事は難しいだろう。

民主党のマニフェストは、これから世論に晒した上で修正し、パンフレット用に絞
り込んでキャッチフレーズ化等も図る予定だろうが、例えば経済政策において「0
4年度中に経済再生5カ年プランを作成」等の先送りが目立ち、インパクト不足で
ある。

政策責任者としては、「財源も考え、民主的に積み上げの議論で作り上げて行くと
こうなる」といった所だろうが、より具体化した複数案を用意し、最後は菅代表一
任に持ち込む事等が不可欠だろう。

さて、上記のような個別の政策作りとは別に、総選挙に向け、民主党としてはもう
一つすべき事がある。
それは、小泉政権との根本的な対立軸を鮮明にする事である。

◆社会の形、ビジョン◆
先ずは、将来に向けての日本のあるべき姿、社会のビジョンを明確に示す事が必要
である。
この事は、これまで政治論議の中で散々言い尽くされてきたが、与野党から共に十
分に示されていない。

明言はされていないが、小泉政権の考えている社会の姿は、方向としては概ね「ア
メリカ型の弱肉強食型自由経済」だろう。
これに対する肯定的な意見としては、兎にも角にもアメリカで成功し世界一の繁栄
社会をもたらしたモデルであると言うものだ。
一方、反論としては、移民国家アメリカでのみ成り立つモデルであり、激しい貧富
の格差がアメリカでさえ社会の分断を招き、日本社会と日本人の性質には合わない
と言うものだ。

民主党が、これの対立軸として示すべきものとしては、どのような社会の姿だろう
か。
先日の自民党総裁選で、ある候補者が唱えていたのは、「心身ともに美しい日本」
と言うものだった。
それは、神道の「明き清き心」を思い出させる。
筆者は、それを全面否定する者ではないが、宗教の言葉としてはともかく、少なく
とも複雑な現代社会を規定する政治の言葉としては、十分機能しないものだろう。
「美しい日本」と言った場合に、それは神道と同様、一元要素によって出来ていて
内部に構造を持たない。
そして、その示すものは、即ち「調和」である。
一方、「アメリカ型の弱肉強食型自由経済」が示すものは、即ち「競争」であり、
「発展」である。

なぜ、日本で今まであるべき社会の形、ビジョンが明示されて来なかったかと言う
と、この調和と発展、即ち旧来からの日本社会とアメリカ型の社会の間で日本人の
思考が振幅し、定見を持たないか、もしくは足して2で割る事で落ち着かせていた
からである。
日本人は、2つの要素を構造的に位置付ける思考パターンが、非常に苦手である。

社会を存立せしめる「発展原理」と「調和原理」の両極端に陥らず、これらを構造
的に位置付けて、かつこれらを演繹して組み合せ、日本社会を「構造的」に「改革」
するための原理が必要である。

それは、「発展と調和の同時実現」と表現されるかもしれないし、もう一段落とし
て、「ナショナルミニマムを伴う自立社会」といった、あるいはヨーロッパで使わ
れている「第3の道」と言う言葉で表現するのが適当かもしれない。

何れにせよ、民主党としては、小泉政権が結果として目指している「アメリカ型の
弱肉強食型自由経済」の対立軸を鮮明に示す必要がある。

◆外交理念◆
もう一つ小泉政権との対立軸として必要なものは、基本的な外交理念である。

小泉政権は、イラク戦争でのスタンス等、ほぼブッシュ政権の意向をそのまま受け
入れ、歴代政権以上に一蓮托生の「密着型親米路線」を取っている。

一方、菅民主党および合併予定の小沢自由党は、国連中心主義を掲げてきた。

現民主党と自由党で多国籍軍への参加の是非に大きな違いがあるとの見方が多いが、
何れも国連中心主議の枠内に収まる論点であり、方向性での大きな違いではない。
むしろ新生民主党として考慮しなければならないのは、アメリカ等のイラク単独攻
撃に反対する世論が大半だったにも拘わらず、イラク攻撃後に小泉首相がこれを支
持した際には、首相の判断を正しいとする意見が同じく大半を占めた事である。

これは、国民が、北朝鮮問題等を考慮すればアメリカと親密である必要があるし、
そうでない事に不安を抱いたからである。

つまり、国連中心主義を肯定するとしても、それだけでは十分でない、確かにアメ
リカべったりの従米、追米、ポチ保守、属米、属国路線には不満だが、アメリカと
親密である事は必要であると多くの国民が考えたからである。

総選挙後、ブッシュ政権は、日本に対し一説では1兆円以上と言われるイラク復興
資金を本格的に要請する見込みであるが、小泉政権は恐らくほぼ実質的にこれに無
条件で応じるだろう。
また、大量破壊兵器が未発見であるイラク戦争の位置付け抜きに、「安全地域」を
見つけて自衛隊派遣を行う予定である。

小泉首相の「密着型親米路線」「無条件親米路線」の対立軸として据えるのに、も
ちろん「反米」は、国益上また世界秩序の上からも現実的選択肢ではない。
筆者は、「NOと言える親米」「戦略的親米」、あるいは表現を和らげるなら「対
話を伴う親米」「より主体的親米」が対立軸として適当だと考える。

民主党としては単に国連中心主議を唱えるだけでなく、それと並立して対米スタン
スを明確に定義して国民に示す必要があるだろう。

筆者は、上記の2点に絞って対立軸を示す事で、初めて「小泉自民党政権」VS「菅・
小沢新生民主党」の構図が選択肢として国民の前に鮮明に浮び上がるものと考える。

------------------------------------------------------------------------

 

・民主党は、対立軸を鮮明にせよ (2003/9/28: 短縮版: 『実業界』 2003年12月号掲載

11月の解散総選挙に向けて、民主党はマニフェスト素案を発表し、小泉自民党を
迎え撃つ準備を進めている。

だが、今の態勢では、「ソフトで爽やかな鷹」安倍晋三氏を党幹事長に抜擢する等、
布陣を整えた自民党を倒す事は難しいだろう。

民主党のマニフェストは、先送りが目立ち、掴みが足りない。
具体化した複数案を用意し、最後は菅代表一任に持ち込む事等が必要だろう。

また、小泉政権との根本的な対立軸を鮮明にする事が不可欠である。
先ず、将来の社会のビジョンを明確にすべきである。
小泉政権の考えている社会の姿は、方向としては「アメリカ型の弱肉強食型自由経
済」だろう。

これへの対立軸は、社会を存立せしめる発展原理と調和原理の両極端に陥らず、こ
れらを構造的に位置付け演繹して組み合せ、日本社会を「構造的」に「改革」する
原理ではあるまいか。

それは、「発展と調和の同時実現」と表現されるかもしれないし、もう一段、落と
して、「ナショナルミニマムを伴う自立社会」、あるいはヨーロッパで使われる「第
3の道」と言う言葉で表現するのが適当かもしれない。

もう一つ対立軸として必要なものは、基本的な外交理念である。
小泉政権は、イラク戦争でのスタンス等、ほぼブッシュ政権の意向をそのまま受け
入れ、歴代政権以上に「密着型親米路線」を取っている。

一方、菅民主党および小沢旧自由党は、国連中心主義を掲げてきたが、それと並立
して対米スタンスを明確に定義して国民に示す必要があるだろう。

密着型親米路線への対立軸として据えるのに、もちろん反米は、国益上また世界秩
序の上からも現実的選択肢ではない。
筆者は、「NOと言える親米」「戦略的親米」、表現を和らげるなら「対話を伴う
親米」「より主体的親米」が対立軸として適当だと考える。

上記2点の対立軸を示す事で、初めて「小泉自民党政権」VS「菅・小沢新生民主
党」の構図が選択肢として国民の前に鮮明に浮び上がると思われる。

                       以上

http://www.asahi-net.or.jp/~EW7K-STU/#提言

http://www.asahi-net.or.jp/~EW7K-STU/