−提 言−
 

・リーダーシップと民主主義 −「独裁」考− (2001/3/25) 

長野県の田中知事による脱ダム宣言等に対する「独裁的」であるとの批判、東京都の石原知事による都政懸案に対する果敢な取り組みの好評、ブームとも言えそうな首相公選論等に現れている様に、現在首長等のリーダーシップに関連してマスコミ等で肯定的な意見と否定的な意見が交錯している。

上に挙げた例はそれぞれ状況が違うが、「普段はリーダーシップが必要だと論じながら、いざそれを発揮するとマスコミは引き摺り下ろしに掛かる」と言う批判もある。
そこで、リーダーシップと民主主義は、本来どういう関係にあるべきか、また「独裁」についても考察してみたい。

そもそも近代的な議会制度は、絶対王政下にあって、王の専制を各身分の立場から制限するために生まれた。
その後、アメリカの大統領制に見られる様に、民主的に選ばれた大統領の強大な権力を制限するための議会という形と、イギリス、日本の国会の様な与党が政権を構成する議員内閣制と言う大きな2つの形に別れ、一応の完成を見てきたと言えよう。

現在、日本で論じられる知事のリーダーシップに対する「独裁」批判、首相公選論等は、いずれも前者の大統領制型の統治機構に関するものなので、先ずこれを考察してみたい。
アメリカの大統領制は、実質上の直接選挙によって選ばれた大統領の強大な権限が、小選挙区制下での二大政党制に基づく伝統的な国民の投票行動により基本的に野党が過半数をとるような形で構成された議会と対立し、制限されている。
また、党議拘束をかけない事によって硬直した対立構造が緩和され、行政の停滞を防いでいる。

日本の地方自治は直接選挙によって選ばれた首長と、大選挙区または中選挙区によって選ばれた議会との組み合わせになっている。
日本の地方議会のうち、都道府県議会は中選挙区制なので、小党乱立の様な状態になる事は緩和されている。
知事は、条例案、予算の調整意見等を通すためには、議会の過半数の賛成を必要とする。
また、リコールとは別に、議会は4分の3の賛成で知事の不信任案を可決することが出来る。知事は可決された場合、解散に打って出ることが出来るが、新しい議会で今度は2分の1の賛成により、不信任案が再可決になる。

このため、知事は与党を形成する等、議会と良好な関係を保つことが必要になる。
東京都の石原知事は、発言の荒っぽさとは逆に、議会に対してはかなり木目細かな気を使ってきた。
一方、長野県の田中知事は、議会と脱ダム宣言等で、対立関係にある事が多い。

これが、独裁的であると批判される所以であるが、基本的にはいたずらに議会と対立して行政の停滞を招く事は許されないが、前述の様な不信任案やリコールの様な最終的な民意を問う手続きが定められている以上、公約に掲げる等、譲れない基本政策の場合については議会と妥協しない事も一つの選択肢であると考えるのが自然である。
この場合、制限つきの「独裁」かもしれないが、「専制的」ではないという言い方も出来よう。

また、大統領制での成功例が、アメリカ大統領制であるとするなら、ワイマール憲法は失敗例であろう。
これは、強大な大統領権限と大選挙区比例代表制による小党乱立による連立政権の不安定さという中で、ナチスの台頭という形で崩壊した。
また、イスラエルの公選制は導入後数年目だが、完全比例代表制による小党乱立で、中東和平問題とリンクし不安定な政局、行政の停滞が続く。

さて、今日ブームと言える首相公選論であるが、首相公選制下での議会制度としては、小党乱立を防ぐ事を第一に考えるなら、完全小選挙区制という事になろうか。
その他、首相公選論が現実に近づくにつれ今後、首相に付与する権限、議会の牽制機能等をトータルなシステムとして考え提示する必要が出てこよう。

一方、イギリスの議員内閣制は、与党を基盤とした首相が強い権限をもつが、任期後に二大政党制による下院選挙により、任期中の行政実績が審判されるという形により牽制されている。
また、与党が過半数を占める下院よる不信任決議の可能性により首相の独裁を制限している。
イギリスのサッチャー首相が人頭税導入を主張し、党内手続き等で退陣を余儀なくされた事は記憶に鮮やかである。

日本では、小沢一郎氏が国民福祉税導入を執行部のみで決定し、細川首相に発表させた事により、連立を組む社民党等が離脱した、また、その後新進党時代に執行部のみで選挙公約、人事を決めたと批判され大規模な離党を招いた。
小沢氏は、一旦リーダーとして選んだ以上、その期間は全権委任をしてもらわなければリーダーシップを発揮しようが無いではないかと繰り返し主張する。
一方、小沢氏から離れた人たちは、ほぼ一致してこれを独裁であると批判する。
小沢氏の考えは、善し悪しは別として、結果として日本人社会の感覚から離れている。

リーダーシップには、中曽根元首相が国鉄民営化を成功させた様な人心、世論を誘導する手法が王道なのかもしれない。だが、緊急事態にはサッチャー、小沢氏の様な強引な手法が必要とされる局面もあろう。

トップダウンと、常に構成員の同意を常に得る「民主的手法」は本来矛盾対立する。

今後、小沢一郎氏が野党連合から政権獲得を狙っている事を考えると、意思決定、執行部手続き、執行部を牽制解任する機能等の党内、連合内手続きを明示し、「専制」批判に耐えうる理論提示が必要となってこよう。

                                                     以上

http://www.asahi-net.or.jp/~EW7K-STU/#提言

http://www.asahi-net.or.jp/~EW7K-STU/