−提 言−

・小泉訪朝への懸念 −パペット外交で国益を守れるのか− (2002/9/1)

小泉首相が9月17日に北朝鮮の平壌を訪問し金正日総書記と首脳会談を行う。
8月30日の突然の訪朝発表は内外を驚かしたが、その背景には各者の次のような
思惑が訪朝の一点で一致した事があるようだ。

@北朝鮮が、深刻な食糧事情の打開および米国による軍事攻撃等の回避を切望して
 いる事。
A失点の続いた外務省および支持率回復に弾みを着けたい小泉首相が、外交分野で
 の得点を期待している事。
Bイラク攻撃開始を控え2正面戦争を避けたい米国の意向。また今秋に可能性のあ
 るケリー国務次官補の訪朝の露払いおよびリトマス試験紙としての期待。

首相は「政治生命を賭けて行く」と述べ、国交正常化交渉の再開に向けて最大の障
害となっている日本人拉致事件や安全保障上の問題などの解決の糸口を見出す事に
強い意欲を示している。(後日この発言自体は取り消された。)
首相は金総書記に対しこうした一連の問題解決に向けた前向きな対応を求める意向
だという。
このうち拉致事件については、これまでの接触を通じて北朝鮮側のある程度の前進
の目処を付けている模様だ。

だが筆者には、首相が北朝鮮が求めている日本の植民地支配の「謝罪と補償」問題
やコメ支援、在日朝鮮人信組への公的資金注入問題で北朝鮮側の出してくるカード
と釣り合わない大きな譲歩をしてしまう事を強く懸念する。

その理由としては、今までも言われてきた事だが小泉首相に歴史観が欠落している
事、官僚の用意したシナリオに乗りこれを離れた確たるビジョンや戦略を特に持っ
ていない事、諸々の「構造改革」に現れているように今回も形式的なパフォーマン
スを追求し問題の実質部分について定見がない事等が挙げられる。
加えて今回は、ブッシュ政権からイラク攻撃遂行のために日本側の「コスト」で北
朝鮮を一時的に大人しくさせる事を求められる可能性がある。またその場合これを
丸呑みする恐れが強い。
やや厳しい言い方をすれば、小泉首相は官僚と米国の2重のパペットであると言え
よう。

このように小泉政権の外交センスや能力には甚だ危ない点が多いが、最低でも日本
人拉致疑惑や不審船事件に関しては、北朝鮮に表現はともかく実質的に事実関係を
認めて謝罪させ、解決への具体的な約束を取りつけて来る必要がある。

訪朝までの短い間だが、世論がこうした点を踏まえて収斂し首相の自覚を促す僥倖
を期待したい。

 

                       以上

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